【第1章】第4話:賢者のログと、戦神のドライバ
トール(雷神)をインストールした直後。
図書館の奥から現れたのは、分厚い本を抱えた老人でした。
どうやら、この主人公の「無限の器(NULL)」、大人気みたいです。
「……騒がしいと思えば、トールが喰われたか」
図書館の奥から現れたのは、分厚い本を抱えた白髭の老人だった。
知的で、静かで、そしてどこか底知れない「知の圧力」を感じる。
「あんたは?」
「私はアルバス。かつてこの世界の真理と理を司りし者だ」
アルバスと名乗った老人は、興味深そうに俺の胸元――トールが収まったあたり――を見つめた後、視線を俺の「魂」へと移した。
「……なるほど。『無限の器(NULL)』か。
トールが騒ぐわけだ。これほど広大で、何の刻印も受け付けぬ**『底なしの器』**など、神代の時代にも存在しなかった」
(『無限の器』……? ああ、なるほど。『空き容量が無限』ってことか)
俺は脳内で即座に翻訳した。
どうやらこの世界の住人(NPC)にとって、「NULL」というステータスは「無限に何でも入る器」として認識される仕様らしい。
「設定忘れです」「いや空です」と訂正したところで、こいつらには通じないだろう。
「それで? あんたも俺の中に引っ越したいと?」
「左様。世界が作り直されるたび、過去の記録は泡のように消えていく。
だが、叡智とは積み重ねるものだ。無に帰すことなど、断じて許されん」
老人は穏やかに、しかし断固として言い放った。
なるほど。トールが「電源」なら、こいつは「データベース(検索エンジン)」か。
悪くない。今の俺には、この世界の情報が圧倒的に不足している。
「いいだろう。許可する。
ただし、トールみたいに暴れるなよ? 俺の精神は、今さっき整理したばかりなんだ」
「ふむ、話が早くて助かる。
安心せよ、私の叡智は雷のような衝撃はない。ただ、少しばかり『重い』ぞ?」
アルバスが本を開くと、無数の文字が光となって溢れ出した。
それは奔流となって、俺の眉間へと吸い込まれていく。
『警告! 大容量テキストデータの受信を確認!
展開(解凍)しますか?』
「ああ、頼む。フォルダ分けして保存だ」
ズシッ……!
トールの時のような痛みはない。だが、頭が鉛のように重くなる。
歴史、魔法理論、魔物の生態、古代語の文法……。
数千年分の知識が、俺の脳内ライブラリに爆速でインデックスされていく。
(……くっ、情報酔いしそうだ。だが、これなら検索一発で何でも分かる!)
「ふぅ……。完了だ」
俺は額の汗を拭った。
これで「雷神の出力」と「賢者の知識」が揃った。
正直、これだけで十分すぎる戦力だ。
『マスター、システム安定しています!
トール様のエネルギーを、アルバス様の知識で制御(最適化)する……完璧な構成です!』
「ああ、上出来だ。でもさすがにこれはきついぞ――」
ドォォォォォォン!!!
俺の安堵は、物理的な破壊音によって粉砕された。
図書館の壁が、唐突に内側から弾け飛ぶ。
「ぬわっ!?」
舞い上がる粉塵。
その奥から、巨大な影がヌゥッと現れた。
身の丈ほどある大剣を担ぎ、全身から赤い湯気を立ち昇らせる巨漢。
「我を……仲間外れにするとは、いい度胸ではないか」
地響きのような声。
そこにいるだけで、空間が歪み、俺の「危険察知センサー」がレッドアラートを鳴らし続ける。
「誰だ、お前は!」
「我はオルステッド! 戦と破壊を司る『戦神』なり!
トール、アルバス……貴様らだけが新しい器で遊ぶなど、この我が許さん!」
「遊んでるわけじゃない! 避難してるんだよ!」
脳内でトールとアルバスが「また面倒なのが来た……」と溜息をつくのが聞こえた。
どうやら、神様の世界も人間関係は大変らしい。
オルステッドは俺をギロリと睨みつけ、そしてニヤリと笑った。
「ほう……。『無限の器(NULL)』か。
果てなき戦場。終わりのない闘争の荒野。
よい器だ。ここならば、我が全力で暴れても壊れぬか!」
こいつもか。
どいつもこいつも、俺を「都合のいい空き地」扱いしやがって。
「小僧! 我の力も受け入れろ!
我の『闘争本能』があれば、あらゆる敵を粉砕できるぞ!」
「お断りだ! 今のシステム構成で安定してるんだ!
お前みたいな高負荷なグラフィックボード(戦闘狂)を入れたら、熱暴走でフリーズする!」
「問答無用!!」
オルステッドは俺の拒否(アクセス拒否)を無視した。
巨体が赤い光の塊となり、砲弾のように突っ込んでくる。
「おい待て! 利用規約を読め!」
「我こそがルールだ!!」
ズガァァァァァン!!!
衝撃は、トールの比ではなかった。
インストールというより、DDoS攻撃だ。
暴力的なまでの「破壊の概念」と「武の極致」が、俺の精神領域を蹂躙する。
『アラート! アラート! システム競合発生!
「理性」と「闘争本能」が衝突しています!』
「ぐぅぅぅっ……! このっ……野蛮なドライバがっ……!」
脳内で、三人の神が喧嘩を始めた。
トールが笑い、アルバスが説教し、オルステッドが暴れる。
俺の脳みそは、三つの高負荷アプリを同時に立ち上げた低スペックPCの気分だ。
(……ふざけるな。俺の体だぞ!)
俺は歯を食いしばり、エンジニアの意地を見せた。
剣士の呼吸で意識を統一し、管理者権限を行使する。
「ゼノン! 管理者権限(root)を行使!
全パーティションを強制分割!
うるさいアプリ(神々)は、全員バックグラウンド処理に回せ!
通知はオフだ!!」
『り、了解! 強制ミュート……実行!』
シュン……。
脳内の喧騒が、嘘のように消えた。
どうやら、タスクバーの隅っこに最小化することに成功したらしい。
「……ふぅーっ……」
俺は深く、重い息を吐き出した。
呼気に混じった火花が、虚空で爆ぜて消える。
脳内の嵐は収まったが、ハードウェア(肉体)の方には不可逆な「仕様変更」が発生していた。
バチバチバチッ!!
全身から放電現象が発生する。
だが、その雷光はトールの青白色ではない。
三柱の神という超重量級ドライバを、無理やり一本のバスに統合した結果生まれた、マグマのような赤橙色。
路地裏のショーウィンドウに映る自分の姿を見て、俺は息を呑んだ。
髪の一本一本が灼熱のフィラメントのように逆立ち、瞳の色は鮮烈な**金橙色**へと変色している。
血管を駆け巡る血液すらも、高電圧のエネルギー流体へと置換されたかのような感覚。
「はぁ……はぁ……。死ぬかと思った……」
俺は壁に背中を預け、ズルズルと座り込んだ。
外の空気は冷たいが、俺の体温はオーバーヒート寸前だ。
サングラスを買いに来ただけなのに、なんでこんな目に遭うんだ。
「……現状確認だ」
震える手で、ステータス画面を開く。
【名前:フォージ】
【職業:エンジニア(神々の管理者)】[NEW!]
【状態:戦雷神化】[NEW!]
【見た目:髪:赤橙色 瞳:金橙色】[NEW!]
【加護:
・雷神トール(エネルギー供給)[NEW!]
・賢者アルバス(データベース参照)[NEW!]
・戦神オルステッド(戦闘エンジン・抑制中)[NEW!]】
【スキル:
・世界再構築 v1.0 [NEW!]
・脳内加速
・全知検索
・闘争本能
・他多数(表示しきれません)】[NEW!][NEW!][NEW!][NEW!]
【警告:リソース過多(詰め込みすぎ)】
「……いくらなんでも、第1章で詰め込みすぎだろ!!」
俺のツッコミは、誰もいない路地裏に虚しく響いた。
だが、休んでいる暇はない。
食堂では、未だに「物理的に発光する妹」が俺の帰りを待っているのだ。
サングラスは手に入らなかったが、もっと強力な「管理者ツール(リフォージ)」は手に入った。
「……戻るか。まずはあいつの『設定』を書き換えてやらないとな」
俺は重い腰を上げた。
金橙色に輝く瞳で、システム(世界)のバグを見据えながら、再び光の溢れる食堂へと歩き出した。
(第1章・完)
最後まで読んでいただきありがとうございます!
一気に三柱の神をインストールしてしまいました。
「NULL」=「無限の器」。この解釈をした生成AIに対して、つじつまが合うように乗り切ったフォージ。
次回は本編の前に少し休憩。
「アフタートークルーム」で、GM(?)とプレイヤーの反省会を行います。
TRPGのセッション後といえば、これですよね。
次回は本編の前に少し休憩。感想戦でお会いしましょう!
お楽しみに!




