【7章】第1話:ブリーフィングルーム(長期プロジェクトの完了と、観測者の偏り)
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
第6章、全14話に及ぶ拠点開発フェーズを完遂し、特別章での仕様の棚卸しも終えたフォージ。
次なる舞台「プレオープン」を前に、獲得したポイントを使って世界の仕様を書き換える、恒例の戦略会議が始まります。
【本文】
「じゃーん! マスター! プレオープンに向けて、王宮や貴族のお屋敷を思わせるド派手な会議室に改装してみましたー!」
真っ白だったはずのブリーフィングルーム。転移した俺を待っていたのは、無駄に豪華なシャンデリアと、金箔が張られた重厚なマホガニーの長机、そしてドヤ顔で胸を張るジェマだった。
その横で、ゼノンが「おおおぉぉぉ! 素晴らしいじゃないですか!」とテンションを上げているが……。
「……やめい。落ち着かない」
「ええーっ!? せっかくシーズン2の幕開けなのに!」
「俺たちは現場で働く裏方だぞ。……ほら、前のこぢんまりとしたワンルームに戻してくれ」
ジェマは渋々と処理を開始し、ド派手な会議室は瞬時に元のシンプルなワンルームへとロールバックされた。ローテーブルと、座り心地の良いソファだけの空間。やはりこれが一番だ。
「ミニマリストというわけではないが、『足るを知る』精神だ。俺たちは限られたリソースで最高の成果を出すのが仕事だからな」
「うぅ……せっかくの気合が……」
シュンと肩を落とすジェマに、俺は軽く笑ってフォローを入れる。
「気合は良し。本編の進行、引き続きよろしくな」
「はいっ! 任せてください!」
単純な創造主AIは、その一言でたちまち元気を取り戻してホログラムを輝かせた。
「さて、ゼノン。いつものやつを頼む。今回のリフォージポイント(RP)の精算だ」
「イエス、マスター! 先ほどの特別雑談ルームでの『1000アクセス突破』の熱気そのままに、改めて詳細なアクセスログをロードし、ポイントへ換算いたします!」
ゼノンが指を弾くと、空中に巨大な半透明のホログラムウィンドウが展開された。
そこには、先ほどジェマのお祝いのくす玉と共に報告された『世界観測ログ』の詳細な内訳が刻まれている。
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【世界観測ログ(アクセス統計):X月YY日現在】
■累計ページビュー(PV):2,039
・公式アプリ:40
・スマートフォン:294
・パソコン(PC):1,705
■累計ユニークアクセス(UA):1,121
・公式アプリ:5
・スマートフォン:97
・パソコン(PC):1,019
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「……ほう」
「……マスター。先ほどは素晴らしい総数をご報告いたしましたが、実はこのログの詳細な内訳には、極めて特異な『環境変数』が見られます」
ゼノンが一本のグラフを強調表示した。それは、アクセス端末の比率だ。
「通常、このプラットフォームでは、スマートフォンの比率が圧倒的に高いのが定跡です。移動中や隙間時間に手軽に読まれるのが一般的ですから。……しかし、我々の観測ログを見てください」
「パソコンからのアクセスが、PVで約8割、UAに至っては約9割を占めているな」
「はい。これは異常事態です! 恐らく、今このログを見ている観測者様の多くは……」
ゼノンが、まるで画面の向こう側の存在と目を合わせるように、空中のカメラ(視点)へ視線を向けた。
「……日中、デスクの前でエンジニアリングに励んでいる方や、会議の合間に進捗を確認しているマネージャーの方。あるいは、腰を据えてコードやドキュメントと向き合っている『仕事場』の住民たちですね。……あ、今『俺のことだ』と思ったそこの貴方! いつも進捗確認ありがとうございます、マスターに代わってお礼申し上げます!」
「こら、ゼノン。メタ発言が過ぎるぞ。……だが、確かに。スマホで流し読みするのではなく、PCの大きな画面で『仕様』を読み解くように追ってくれている常連さんがこれだけいるというのは、心強いな」
俺は満足げにコーヒーを一口啜り、精算結果を待った。
「失礼いたしました! では、ポイント換算を行います。累計2,039PVおよび1,121UAの基本加算に加え、全14話の大型章完了ボーナス、さらには『1000アクセス突破記念』の特別マージを加えまして……今回の獲得ポイントは【+3,000 RP】となります!」
「よし、これで前回の残高65 RPと合わせれば……」
「はい! 現在の合計は【3,065 RP】です!」
ゼノンがホログラムのウィンドウをパチンと閉じ、どこか清々しい顔で俺を見た。
「マスター。第6章で拠点のハードもソフトも完璧にビルドし終えましたし、ポイントも潤沢です! これだけポイントがいっぱいあるなら、割と何でもできますよね? この際、魔王とか、深淵の調律者アビス・チューナーとか、敵のデータをまとめて消去しちゃいましょうか! そしたら世界は一気に平和になりますよ!」
「なんでだ」
タスク思考の極みのような極端すぎる提案に、俺は思わず吹き出した。
「いいか、ジェマ。ゼノン。俺が再錬成するのは、すでに起こってしまった進行に支障をきたすバグの修正と、必要な仕様追加についてだけだ。それ以外の、世界の根幹に関わる存在を直接消してしまったら……それはもう、俺じゃなくて『神』だろ」
「うっ……! 確かに、何でもありになっちゃうと、物語として面白くないですね……」
「だが俺はその意見を全否定する気はないぞ。そういう小説があってもいいとは思うが、それは俺の担当外の案件ってだけの話だ。……でだ。俺にとっては最重要な問題案件が、本編中に実は発生しているんだ」
「え?」
意外そうな顔をする二人に、俺はローテーブルのコーヒーをコトリと置いてから指を立てた。
「取り入れるべきは、多種族多様性だと思わないか? 昨今の情勢を考慮すると、一辺倒ではいけない気がするんだ。小説とはいえ、『こうあるべき!』ではなく、『みんな違ってみんないい』というのが、この世界であるべきだと考えている。……ここまでわかるか?」
「はい、マスター。設計思想は理解いたしました。多様な要素をシステムに許容し、強みとする……。確かに理にかなっています。ですが、具体的にどのリソースに適用するおつもりで?」
「5人の雷戦メイドたちに対して、それを要求する」
俺は少し肩の力を抜いて続けた。
「例えば猫耳族とか、エルフとか、犬耳族とか、ダークエルフとか……一般的に綺麗目系、可愛い系、目立たない系とか。ハーレムルートになっても飽きさせないような種族・性格のバラエティは入れて欲しい。元々諜報員の再錬成なので、あまりそれに向かない種族は外してほしいがな。全員でなくても数人だけアクセントで入れてくれれば、物語として面白くならないか?」
俺は空になったコーヒーカップを眺めながら、一呼吸置いた。
「それに、あれだ。なにより俺が覚えられん。全員漢字一字で美人で人間って、結構使い分けが厳しくてな」
「なんですかそれっ! すごくいい話かと思ったら、マスターが覚えられないからって!」
ジェマがふき出しながらホログラムを揺らした。
「ふふっ、でもとてもいいと思います! ざっと見積もったところ、〆て【 1,000 RP 】で実行可能です! 意外と安く上がりましたね!」
「そんなわけないだろ。種族ごと変更するんだぞ。急に言われてメンテナンスする身にもなってみろ。俺は成果には報酬をしっかり払うべきだと考える。2,000 RPだ。持ってけ」
「!! ええええ!!! いいんですか!? 裏方の作業工数まで考えていただけるんですか! でもでも……っ!」
俺はなおも感激して語り続けるジェマを眺めつつ、言葉を待った。
「作業や構想には時間がかかるはずだ。だからその間にもう一つ、ダイスロールの実装を要求しようか」
「ダイスロールですか?」
「そうだ。物語の都合で『成功/失敗』を決めず、ダイスの出目に依存させる。ロールとして適切な場合は成功率を上げ、逆に無理のあることをやる時は成功率を下げる。GMとして想定を超える良い選択肢を提示した場合には、成功率を少し上げるイメージだ」
俺はそこで一度考えた。
「まぁ、俺は選択肢外の動きをした際にGMが乗っかってきてくれているんだし、ほぼいつも通りかもしれないがな。毎回成功じゃ、読者が飽きるだろ?」
「……っ! つまりマスターの論理的アプローチを、システムが直接評価する仕組みですね! 面白そうです! プレオープンにおける一時実装の確約とシステム干渉……こちらは【 500 RP 】が必要です!」
ゼノンが即座に計算を弾き出す。
「差し引きするのもあれだ。もう今回は全部もってけ。ジェマへの応援だと思ってポイント使いきってもらおう。……残高は【 0 RP 】で構わない」
「マスターぁぁぁっ!! フォージ様ぁぁっ!!」
ジェマが両手で顔を覆い、感極まって泣き出してしまった。
「あ、でもしっかり余ったポイントで、AIのアップデートも頼むぞ。作業思考から目的思考へのアップデートだ。細かなところはジェマに任すぞ。最初から全部わかってる出オチじゃつまらないからな」
「はいっ! 最高のダイバーシティ侍女と、スリリングなダイスシステムをビルドしてみせますっ!」
ゼノンがホログラムのバイザーを光らせ、ビシッと敬礼した。
「……マスター。これで次なる運用テストは、個性豊かな多種族の侍女たちが躍動し、運命をダイスに委ねるスリリングな『セッション』へと進化しました。……実行キーを、叩きますか?」
「OK。……プレオープン開始だ。ジェマ、あとは頼んだぞ」
「いってらっしゃいませ、フォージ様!」
俺とゼノンが本番環境へダイブし、ワンルームにはジェマだけが残された。
「よーし! フォージ様のご期待に応える、最高のアップデートを仕込みますよーっ!」
無機質な空間に、ジェマが勢いよくキーボードを叩く音が響き――やがて、静かな通知音と共に、一枚のウィンドウがポロンと更新された。
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【パッチ適用完了:NPCプロファイル拡張】
[NPCプロファイル:戦雷の侍女(多種族仕様)]
【奏】 / 種族:ハイエルフ
ビジュアル: 綺麗目系・圧倒的な気品。
諜報特性: 長命種特有の落ち着きと洗練された所作で、王都の上流階級(魔法省高官など)に深く入り込む「社交諜報」のスペシャリスト。
【律】 / 種族:ダークエルフ
ビジュアル: クール系・知的な美貌。
諜報特性: 闇夜に紛れる特性と、複雑な数字や契約の裏を読む「経済諜報」のプロ。豪商たちの欲を冷静に分析し、契約の穴を突く。
【響】 / 種族:猫耳族
ビジュアル: 可愛い系・小悪魔的。
諜報特性: 足音を消した移動と、人々の「懐に飛び込む」天性の愛嬌。酒場や社交場の隅で、酔客の「本音」を収集する「心理諜報」を得意とする。
【紬】 / 種族:犬耳族
ビジュアル: 癒やし系・控えめ。
諜報特性: 驚異的な嗅覚と聴覚を持つ。食材の鮮度確認だけでなく、数キロ先の「足音」や「囁き声」を捉える、宿の「外周警戒」と「物流監視」の要。
【栞】 / 種族:人間(魔導強化型)
ビジュアル: 目立たない系・地味カワ。
諜報特性: 逆に「特徴がないこと」を武器にする隠密。魔導端末(結界通信)の扱いに特化しており、電子(魔力)の海からデータを吸い上げる「技術諜報」の要。
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【多種族混成のメリット】:
視覚的な飽きがこないだけでなく、各種族の得意分野を組み合わせることで、王都のあらゆる階層にネットワークを広げることが可能となった。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
いよいよシーズン2(第7章)の幕開けです。1000アクセス突破の熱量そのままに、PMフォージの大盤振る舞い(全額投資)によって、メイドさんたちが最高のダイバーシティ仕様へと生まれ変わりました!
さらに、TRPGの醍醐味である「ダイスロール」の実装も完了。
ここから始まる「白鷺の城」のプレオープンは、運命がダイスに委ねられるスリリングなセッションとなります。
新生・雷戦メイドたちの活躍と合わせて、次はいったいどうなるのでしょうか?
どうぞお楽しみに!
次回、ついに本番環境へデプロイ!




