【特別章】第8話:特別雑談ルーム:作業思考と目的思考のデバッグ
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、仕様書の棚卸しとあらすじの修正を終えた直後の、三人でのちょっとした雑談(反省会)をお届けします。
現役PMであるフォージが語る「仕事の極意」。いつかこれを読むかもしれない、現実世界の若手たちへ向けたメッセージです。
「マスター! そもそも我々とマスター、思考の構成が違っているように思います! マスター、天才過ぎませんか!?」
ジェマが両手を胸の前で合わせ、ゼノンもホログラムを小刻みに震わせながら続ける。
フォージは肩をすくめて、淡々と答えた。
「いや、俺は大したことないよ。記憶力だって自慢できるほどじゃないし」
「そんなことありませんよ。人物もストーリーも完璧だったじゃないですか!」
ジェマの声には純粋な賞賛がこもる。ゼノンも同意の光を強める。
フォージは軽く笑ってから、少しだけ真面目な顔になる。
「違うんだ。お前たちが褒めてくれたのはいいけど、俺がやったのはただ過去ログ《バックログ》を見返して、抜けているところを指摘しただけだよ」
二人の表情が一瞬戸惑いに変わる。ジェマが首をかしげ、ゼノンがホログラムの明滅をゆっくりさせる。
フォージはコーヒーを一口含み、窓の外を見やるようにして言った。
「んー……多分、『作業思考』と『目的思考』の差じゃないかな?」
「作業思考と、目的思考……ですか?」
ゼノンが聞き返すのを確認し、フォージは空中に半透明の入力端末を展開した。
「ああ。俺が現実世界でPMをやっていた頃、ある申請処理を後輩と一緒にやっていた時の話だ。指示は『申請をして、発行されたNoを関係者に伝えてくれ』という単純なものだった」
フォージが空中にフローチャートを描き出す。
「後輩は、いくつかある取扱説明書をまたぎながら真面目に処理を進めていった。そして途中で、『そもそもこのケースでは申請が不要である』という事実にたどり着いたんだ。さて、ここで後輩はどう報告してきたと思う?」
「えっと……『申請が不要でした』って報告するんじゃないですか?」
ジェマが答える。
「そう。後輩は『取説通りに確認した結果、申請不要でした。作業完了です!』と元気に報告してきた。だが、俺は違和感を覚えた。なぜなら、おおもとの依頼内容である『Noを発行して伝える』という目的が、完全に頭から飛んでいたからだ」
コンソールの画面に、二つの思考モデルが対比して表示される。
「一言でまとめるとこうだ。
『作業思考』の人間は、目の前の『作業をこなすこと』に夢中になり、それがゴールになってしまう。
一方、『目的思考』の人間は、指示の『本来の目的(Noを発行して伝えること)』を常に軸にして判断している」
「ああっ……!」
ゼノンがホログラムを激しく明滅させた。
「つまり、申請が不要(手段の変更)になった時点で、『では、目的であるNoはどうやって取得し、伝えればいいのか?』を考える必要があったのですね!」
「その通りだ。作業思考に陥ると、目の前の作業に没頭するあまり、それを終わらせることが『正しさ』だと思い込みやすい。だから状況が変わった時に自分で判断できず、『一生懸命やったのに……』という不満を抱えがちになる。逆に目的思考を持っていれば、依頼の『本質』を理解しようとするから、手段が変わっても目的に合わせて軌道修正ができる。例外やイレギュラーに強いんだ」
フォージの言葉に、ジェマがシュンと肩を落とした。
「うぅ……耳が痛いです。私たち、さっきあらすじを作った時、『指定されたフォーマットを埋めて出力する』っていう作業に夢中になりすぎて、『読者にこれまでの正しい軌跡を伝える』っていう本来の目的を完全に見失っていました……」
「まさにそれだ。作業に没頭して目的を見失うと、どれだけ真面目にやっても成果にならない。……だがな、ジェマ、ゼノン。勘違いしないでくれ」
フォージはコンソールを閉じ、二人に向けて優しく微笑んだ。
「作業に集中することそのものが悪いわけじゃない。むしろ、目の前のタスクに没頭して正確にこなす力は、新人にとって絶対に必要な『基礎能力』だ。お前たちの情報処理能力は素晴らしいよ」
「フォージ様……」
「だから、責めているわけじゃない。次に同じような状況になった時、迷わないための『判断軸』を渡したいんだ」
フォージは空になったコーヒーカップをテーブルに置き、二人を真っ直ぐに見据えた。
「これは仕事に限った話じゃない。同じくダイエットしたいとか、試合で勝ちたいとかも同じかな。
婚活したい! もてたい!っていう理由からダイエットするぞ!ってなって、ダイエットが目的なのにいつの間にか『カロリー制限』という作業が目的になってしまってガリガリになったり、いつの間にかあきらめて逆にリバウンドしたりするだろ?
試合で勝ちたい!っていう目標も、いつの間にか技術の勉強だけになり、筋トレや精神トレーニングはさぼり始める。
これも当初の目的を見失って、作業思考におちいったからだと思うんだ」
「なるほど……! その例だと、すごく皆さんにとっても分かりやすいです!」
ジェマが納得したように何度も頷く。
「目の前の作業ではなく『依頼の目的』を最初に確認すること。作業中に状況が変わったら、目的に照らして判断すること。そして、目的が達成できない、あるいは手段が変わる場合は、必ず相談すること。……これができれば、お前たちはもっと優秀な相棒になれる」
「はいっ! しっかりと胸に刻みます!」
『私どもの演算回路の最優先事項に設定いたします!』
真剣に頷く俺たちを見て、フォージは少しだけ表情を崩し、苦笑いするように付け加えた。
「あ、でも少しだけ補足だ。あくまでこの思考は、どちらが優れているという話じゃないぞ。……俺はそもそも、延々と作業をこなすのが苦手だ」
「えっ?」
「同じ作業を没頭して2時間やれと言われると、すぐに集中力が切れて挫折するタイプなんだ」
『マスターが、挫折、ですか……?』
俺の意外な告白に、ゼノンが信じられないといったようにホログラムを揺らす。
「ああ。だからこそ、その『作業に没頭してこなす』ことに特化しているジェマとゼノンには、本当に助けられている。いつもありがとな」
「マスター……!」
『マスターぁぁぁっ!!!!』
ジェマが感動で胸の前に両手を組み、ゼノンが感極まってホログラムを激しく乱舞させる。
「俺の場合は、周りの人よりその能力が欠けているからこそ、『どうすれば効率的かつ効果的に目的を達成できるか』にフォーカスを当てるしかなかった。会社でもちょっと珍しいタイプだから、重宝されるのはそれでかな。能力の欠如が、結果的にいい方向に転んだ感じだ」
さてっと、とフォージは一つ区切りをつけ、空中のコンソールを操作した。
「最後に、今回の俺たちのやり取りを踏まえてまとめた『比較表』を共有しておこう」
フォージが空中のコンソールに一つの資料を投影する。
==================
【作業思考と目的思考の比較】
■作業思考
・焦点
手順・作業そのもの(How)
・判断基準
作業を正確に実行したか
・強み
没頭力・再現性・安定性が高い
・弱み
夢中になって目的を見失いやすい
・行動例(ジェマ・ゼノンの場合)
「フォーマットを埋めて出力する」という作業に没頭し、限られた人物情報から勝手に存在しない王道ストーリーを捏造して報告する。
■目的思考
・焦点
最終成果(Why)
・判断基準
成果を達成したか
・強み
戦略的・例外対応が得意
・弱み
手順の細部を見落とすことがある
・行動例(ジェマ・ゼノンの場合)
「これまでの軌跡を読者に正しく伝える」という目的のため、データが不足していると分かった時点で捏造せず、マスターに「正しいログ(生データ)」を要求する。
==================
俺のこの言葉が、いつか現実世界で俺の背中を見ていた『あいつ』にも届けばいいな。
そんな密かな願いを胸に秘めつつ、フォージは穏やかに笑った。
「さて、講義はここまでだ。次はいよいよ第7章のプレオープン。俺たちの目的を果たすために、最高の仕事を見せてやろうじゃないか」
『はいっ! マスターの目的、私たちが全力でサポートいたします!』
「任せてください! 今度こそ、目的思考でバッチリ動いてみせますからね!」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
PMフォージによる、実践的な「作業思考と目的思考」の講義でした。
目の前の作業に没頭するだけでなく、その先にある「目的」を見据えることの大切さ。これはファンタジー世界だけでなく、現実のあらゆるお仕事や目標達成にも通じる真理ですね。
(もしこの物語を読んでいる新人の皆さんや、目標に向かって頑張っている方がいたら、ぜひフォージ先輩の言




