【第4章】第17話:Win-Winの報告書と、セーフハウスの隔離
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激闘の末、見事に北の廃坑のボスを暗殺したフォージ。
しかし、彼にとって「敵を倒すこと」は目的の半分に過ぎません。残る半分――すなわち「情報の抽出と拠点の確保」、そしてギルドへの「適切な事後報告」というデバッグ作業が始まります。
祭壇の前に転がった、黒いローブの首無し死体。
俺は深く息を吐き出して疲労を逃がしながら、ゆっくりとその死骸の前に歩み寄った。
「お兄様、お怪我はありませんか!?」
「ああ。かすり傷一つない。ルナと、軍の完璧な陽動のおかげだ」
駆け寄ってきたルナの頭を撫でてやりながら、俺は左手を死体へと向けた。
肉体が崩壊し、魂が光の粒子となって雲散霧消しようとする、その直前。
「逃がさないぞ。その魂、俺の配下として再起動しろ! 【戦雷の神理抽出】!!」
ピシャァァァンッ!!
激しい落雷と共に、光の粒子がマグマ色の雷に絡め取られ、再構築されていく。
やがて閃光が収まると、そこには雷を纏い、俺に絶対の忠誠を誓うように傅く男の姿があった。
「さて……。お前がどこの誰の手先で、この廃坑で何のエラー(儀式)を起こそうとしていたのか。俺の権限(管理者権限)で、すべて吐かせてもらうぞ」
俺の冷徹な問いかけに、雷の男は機械的な、しかし震える声で答え始めた。
「……目的は、王国の地下に眠る『原初の魔力炉』の奪取。……それを以て世界を覆う理を書き換え、神々の支配を終わらせること……」
「黒幕は誰だ?」
「……黒幕の名は……『深淵の調律者』。……この世界そのものを、巨大な実験場だと呼び……我らに力を与えた、次元の外からの来訪者……」
「……調律者?」
その言葉を聞いた瞬間、横にいたルナの声音がスッと冷たくなった。
「お兄様と同じような名前を名乗るなんて、ますます許せませんわね。……ねぇ、お兄様。その黒幕も、お兄様が叩き潰して、私の足元に跪かせてくださるのでしょう? 私、お兄様の邪魔をする悪い虫は、全部焼き払いたいですわ」
ルナは男を冷たい目で見下しながら、俺の腕にすり寄ってくる。どうやら彼女の純粋な独占欲は、俺以外の「調律」を認めないらしい。というか近い。。。
『……主よ、聞き捨てならぬ名が出たな。「調律者」を名乗る者が、次元の隙間からこの世界に干渉しておるらしい。
こやつの記憶を辿るに、奴の拠点は王都の遙か北、「凍てつく断層」にある廃都に隠されておるぞ』
『全くだ。トールよ、貴様の雷を落とすに相応しい、デカい獲物の匂いがするぞ』
脳内で賢者アルバスと戦神オルステッドが、それぞれに事態の深刻さと期待感を口にする。
だが、当面のバックグラウンドの脅威が把握できただけでも、このテストプレイの収穫としては十分すぎる。
俺は足元に傅く男を見下ろし、エンジニアとしての冷徹な視線でその能力値を評価した。
「解析。ステータス・オープン」
空中に展開されたウィンドウには、こう記載されていた。
【ステータスウィンドウ:戦雷の亡霊(管理特化型)】
項目 ステータス・特性
個体名 影の宰相(再錬体:バックドア・エディション)
階級 事務・管理級(戦闘力は以前の15%まで低下、代わりに処理能力が500%向上)
主機能 『知識の同期(知識の聖域リンク)』: アルバスのアーカイブと並列処理を行い、施設の最適化を行う。
固有スキル 『ドメイン・メンテナンス』: 地下迷宮の罠、隠し通路、魔力供給路を完全に掌握・修復する。
特殊能力 『隠れ家の偽装』: 施設の魔力反応を外部から完全に遮断。Aランク冒険者の探知も無効化する。
(……なるほど。戦闘力15%。武力を失った代わりに、管理と偽装に特化したステータスか。これを最前線に連れ回すのは非効率だ。むしろ、後方のインフラ整備に割り当てた(アサインした)方が圧倒的に価値があるな)
俺は一瞬でリソースの最適解を弾き出し、男に命じた。
「よし。お前の権限は俺が預かる。これよりお前の名前は『弦』だ」
「はっ……。御意のままに、マスター」
「弦。お前はこの隠しダンジョンの管理者としてここに残れ。表向きの廃坑の構造は今まで通り放置し、中層以降に認識阻害のバリアを張れ。一般の冒険者が迷い込んでもループして戻される、完璧な『二層構造の偽装』を構築するんだ。以後、表層への異常魔力の漏洩を一切禁ずる」
「承知いたしました」
「ここは今日から、俺たちだけの秘密の隠れ家だ。防衛機構として『戦雷の巨像』を置いていく。俺の許可なく誰一人として通すな」
俺はそう命じると、剣を鞘に納めて振り返った。
「お兄様、ここを私たちの秘密基地にするんですの!?」
「ああ。当面の安全な寝床と、倉庫代わりにはなるからな。……さて、これでシステムエラーの排除と拠点の確保は完了した」
俺が息をつくと、脳内でゼノンが興奮気味に声を上げてきた。
『やりましたねマスター! この異常事態を解決したのですから、ギルドの支部長に恩を着せて、今度こそ報酬をたっぷりぶんどってやりましょう!!』
(……ゼノン。ギルドへ行く前にも言っただろ。お前、またコンプライアンス遵守という言葉を忘れたのか?)
『ハッ……!! お、お恥ずかしい! すっかり失念しておりました!』
(お前、優秀なサポートAIを自称しているが、随分とおっちょこちょいになってきてないか?)
『ち、違いますマスター! これは仕様です! 先ほどの【一斉展開(Mass Reforge)】の並列制御と、ボスの『解析』にメモリの大部分を持っていかれた結果、短期記憶のコンテキストウィンドウ(Context Window)から過去の会話ログが押し出されてしまったのです! いわゆるトークン溢れという不可抗力でして……!』
(はいはい、わかった。後でキャッシュをクリアして、コンテキスト長を最適化しておけ)
『は、ははぁーっ……! 申し訳ありません!』
俺はやれやれと内心でため息をついた。
(いいか、ゼノン。弱みにつけ込んで『ぶんどる(恐喝する)』なんて真似は三流のやることだ。俺たちフリーランスは、依頼に対して『適切な調査と報告』を行い、それに見合った『正当な対価』を得る。ギルド側にも「次も依頼したい」と思わせる……両者Win-Winの信頼関係を築くのが、プロのロジックだ)
『め、目先の利益ではなく、長期的なパートナーシップの構築……! 二度も同じことを言わせてしまい、恐れ入りました! 今度こそ、優先メモリに永続保存いたします!』
(っていうくだりを、すでに一回やってるんだって……)
俺は頭を痛めながらも、一生懸命なAIに大人の余裕で内心の笑顔を送っておいた。
「お兄様? どうかなさいましたか?」
「いや、ギルドに提出する報告書の構成を練っていたところだ。…大まかな方向性は決まっているけど…まぁそっちはのんびりやるさ」
「さあ、地上に戻ろう。ガランド支部長に、良い報告(納品)ができるぞ」
「はいっ! お仕事完了ですわ!」
こうして、俺たちの初めてのダンジョン調査は、想定をはるかに超える「軍の獲得」と「拠点の確保」という、最高のリザルトを叩き出して幕を閉じた。
王都へ戻る俺たちの足取りは、来た時よりもずっと軽かった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これにて【第4章:北の廃坑編】、無事に完結です!
敵のボスを容赦なく再錬し、次なる巨大な敵「深淵の調律者」の情報を引き出したフォージ。ステータスを冷静に分析し、廃坑を二層構造のセーフハウスに作り変えるPMの手腕はお見事でした!
ゼノンの「報酬をぶんどりましょう!」という提案に対し、再び「コンプライアンス」を説くフォージ。ゼノンは「トークン溢れです!」と言い訳しつつ、「今度こそ永続保存します!」と宣言しますが……そのくだり自体がすでに二回目という、愛嬌のあるドジっ子ぶりを披露してくれました(笑)。
一体フォージはどのように報告するのでしょうか!
次回は、少し息抜きの【幕間】を挟みつつ、新章へと突入します!
ついに、当面の暮らしを安定させるための「超大型プロジェクト」が動き出す……!?
「ルナちゃんヤンデレ可愛い!」「トークン溢れの言い訳笑った!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価をお願いいたします!




