【第4章】第16話:対人戦(ヒューマン・ターゲット)と、無気配の刃
いつもお読みいただき、ありがとうございます!第4章・第16話です。
後方の絶対的な安全を「巨像」に任せ、憂いを断ち切ったフォージたち。
ルナの号令のもと、怒涛の進軍が始まります。
そしてフォージの刃は、ついに彼の最も得意とする「対人戦」へと向けられます……!
「いっけえええええええっ!! お兄様の敵は、私とこの子たちが全部吹き飛ばしますわーーーっ!!」
ルナの無邪気で容赦のない号令と共に、最深部の重厚な大扉が、大蝙蝠とゴブリンの群れによる決死の特攻によって罠ごと爆砕された。
広い石造りの空間。その中央の祭壇で、黒いローブに身を包んだ男(影の宰相の手先)が、驚愕に目を見開いていた。
「な、何奴だ!? この神聖な儀式の場に踏み込む愚か者は――って、ヒィッ!?」
男が絶句するのも無理はない。
粉砕された扉の向こうから、マグマ色の雷を纏った異形の軍団が怒涛の勢いで雪崩れ込んできたのだ。
ルナの杖から放たれた『極大の炎球』と『暴風の刃』が先制攻撃として乱れ飛び、それに呼応するように戦雷兵たちが部屋の防衛設備を次々と破壊していく。
「くそっ、なんだこのデタラメな火力と物量は!? だが、舐めるなよ!!」
男はパニックになりかけながらも、咄嗟に多重の『物理・魔法反射防壁』を展開し、ルナの極大魔法を間一髪で弾き返す。
「正面に全防壁を集中させろ! 一匹たりとも通すな!!」
男は血走った目で正面を見据え、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。その意識の百パーセントが、ド派手に暴れ回る美少女と雷の軍勢に向けられている。
――完璧な盤面支配だ。
俺はアルバスが見つけた天井付近の『隠しバイパス』を抜け、すでに男の背後の死角へと到達していた。
分岐路には巨像を配置し、背後からの奇襲リスクはゼロ。後顧の憂いはない。
だからこそ俺は、この前方のターゲットの「暗殺」だけに、脳の全リソースを割り当てることができた。
疲労で身体は重いが、心はかつてないほどに澄み渡っている。
眼下にいるターゲットは未知の魔物ではない。二本足で立ち、魔法という名の武器を振るう「人間」だ。
(……人間の骨格、筋肉の連動、視線の死角。これなら、何万回とシミュレーションしてきた)
『そうだ。人間が相手ならば、貴様の剣術は神の領域に等しい。……己の存在を世界から切り離せ』
戦神オルステッドの静かな声すらも、思考の裏側へと退けていく。
――今だ。
ルナの放った最大の炎球がボスの防壁に激突し、男の意識が完全に「正面」へと引っ張られた、その0.1秒のラグ。
俺は着地の音すらも殺し、男の背後三歩の距離に音もなく落下した。
静かに、そして滑らかに、雷を纏った鉄剣を振り上げる。
「くそっ、この化け物どもめ! 防壁の出力をさらに上げ――ッ!?」
男が背後の「異変」に気づいたのは、俺の剣が振り下ろされる直前のマイクロ秒の出来事だった。
男は咄嗟に振り返り、背後にも魔力防壁を展開しようとした。
(遅い)
俺の放った力みのない無音の一閃(無気配斬り)が、男の防壁が形成されるより一瞬早く、その首のルート・ディレクトリを正確に両断した。
ドサッ、と。
黒いローブの首無し死体が、祭壇の前に崩れ落ちる。
「お兄様! やりましたわ!」
「ああ。ルナと、軍の完璧な陽動のおかげだ」
剣の血糊を払いながら、俺は深く息を吐き出して座り込んだ。
疲労困憊だが、その口元には満足げな笑みが浮かんでいた。リスクを完全に排除し、手持ちのリソースで盤面を支配し、『最も得意な状況(対人暗殺)』を人為的に作り出した完璧なデバッグ作業だった。
『マ、マスター……。あまりにも、あまりにも鮮やかで無慈悲なクリアです……!』
脳内で、ゼノンがドン引きしながらも震える声でクリア報告を告げた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
後方の安全を確保したことで、100%の力で「対人戦」の暗殺に振り切れたフォージ!
大群による陽動で意識を完全に逸らし、長年の経験が活きる「無音の暗殺」が炸裂しました。
行き当たりばったりではなく、退路の確保、リソースの分散、そして得意分野での確実な刈り取り。
盤面を完全にコントロールして最小の隙を突く、まさにエンジニアの頭脳と剣士の技が融合した見事な勝利でした!
次回は、このダンジョンを「隠れ家」にするための最後の大仕事が待っています!
「退路確保の伏線がここで活きるの最高!」「ボスの防壁ごと意識を刈り取るのシビれた!」と思っていただけましたら、ぜひ下の【☆】から評価をお願いいたします!




