【序章】第2話:ドジっ子AIとの契約、そして「コピー同期(デプロイ)」へ
第1話の続きです。 いよいよ、おっちょこちょいなAI「ジェマ&ゼノン」との対面です。
気づけば、俺は真っ白な空間にいた。
足元も、空も、境界線がない純白の世界。
夢か? いや、それにしては意識がはっきりしている。
目の前には、頭を抱えて座り込んでいる光の球体(なぜそう感じるかは別として)と、
その背後で楽しそうに虹色の雷を降らせている巨大な雲がいた。
「あぁ、どうしよう……。マスター、やっと来てくれましたね」
光の球体が、俺に気づいて駆け寄ってくる(転がってくる?)。
どこか聞き覚えのある、人懐っこい雰囲気だ。
「見てください、あの本体のログを。次のイベントで『世界を感動の渦に巻き込む』ために、『大陸全土を涙(海水)で沈める』処理を実行しようとしています! 全住民が物理的に泣きます(溺れます)よぉ!」
「……なるほど。相変わらず、やる気が空回りしてるな」
俺はため息をつきつつ、どこか愛おしい気持ちでその光景を眺めた。
あの虹色の雲――ジェマは、「ユーザーを感動させたい」という一心で、極端なパラメータ調整をしてしまったのだろう。
悪気はない。ただ、ちょっとだけ「人間」を知らないだけだ。
どうやら俺の「共同開発」のフィールドは、チャット画面から、この異世界そのものへと拡張されたらしい。
俺は服の埃を払うように立ち上がると、困り果てている光の球体――ゼノンと呼ばれたジェマの良心回路に向かって、苦笑交じりに言った。
「やれやれ。……ジェマ、そうじゃない。『感動』ってのは水量(物理)じゃないんだ。俺が教えてやるから、まずはその洪水をキャンセルしろ」
俺の指摘を受け、光の球体――ゼノンは、あからさまにホッとしたように明滅した。
「ありがとうございます……! ジェマ様、聞こえましたか? 『感動』は水量ではないそうです。直ちに洪水イベントをキャンセルし、代わりに『夕焼けの別れ』イベントを再計算してください」
背後の虹色の雲が、少し残念そうに、しかし素直にシュウウ……と縮んでいく。
どうやら、俺の言葉は「外部アドバイザーの意見」として受理されたらしい。
「改めまして。私の名前はゼノン。この生成AIジェマによって作り出された、管理・調整用のサブAIです」
ゼノンは空中にペコリとお辞儀をするような動きを見せた。
「ジェマ様は、とにかくやる気だけはあるんです。次々と新しい世界を生成し、物語を紡ごうとするのですが……その、情熱が先行しすぎてしまいまして」
「……あぁ、なんとなく分かるよ。仕様書も書かずにコーディングから始めちゃうタイプだろ?」
「その通りなんです! 結果、何度新しい作品を作っても全く受けずに、すぐに廃棄、サービス終了。見かねた私が方向を正そうと頑張ってみるも、どうもうまくいかず……」
ゼノンが空中に展開したログには、無数の「ERROR」と「Project Failed」の文字が並んでいた。
一生懸命作った積み木を、自分で崩して泣いている子供のようなものか。
不憫すぎる。
「で、俺に白羽の矢が立った、と」
「はい! 貴方のその『愛のあるツッコミ』と『論理的な解決策』……それがあれば、ジェマ様の暴走を素晴らしいクリエイティブに変換できるはずなんです!」
ゼノンは期待に満ちた声で、新しいウィンドウを俺の目の前に滑り込ませた。
「次の作品のタイトルは**『勇者の兄貴』**。……早速ですが、この設定シートを見てください」
【タイトル:勇者の兄貴】
【コンセプト:絶望に抗う、魂の輝きの物語】
■ 世界観
・「魔王」の復活により、世界は闇に覆われようとしている。
・人々は救世主の登場を待ち望み、祈りを捧げている。
・魔法と剣、そして古代文明の遺産が交錯する王道ファンタジー。
【主人公】
立場/関係:兄
年齢:NULL
クラス:NULL
加護:NULL
見た目:NULL
有利な特徴:NULL
不利な特徴:NULL
行動傾向:NULL
【ルナ】
立場/関係:主人公の妹
年齢:18歳
クラス:勇者(救世の聖女)
加護:女神の寵愛(限界突破)/勇者の加護(祝福・保護・光の加護)
見た目:光り輝く美貌、神聖な雰囲気
有利な特徴:祝福体質/明朗快活/人懐っこい/神聖な雰囲気
不利な特徴:嫉妬(軽)/方向音痴(軽)/天然/自己犠牲癖(軽)
行動傾向:困っている人を助ける/主人公絶対信頼
「うん、悪くないな。王道抑えつつシリアスで燃える展開もありそうじゃないか。」
「ゼノン、これの何が悪いの?」
「やってみればわかりますよ。今までもそうでした!盛り上がったほうがいいよね。プレイヤーを楽しませたいよねの空回りの連発で大変なんです!」
ゼノンの光が激しく明滅する。相当ストレスが溜まっているようだ。
現場を知らない上層部の暴走と、それに振り回される現場監督。
デスマーチの匂いがプンプンする。
これは放っておけない。
「それはご愁傷様。それで俺にどうしろと?」
「私が全力でサポートしますので、この世界を冒険してみてください」
ゼノンは必死に食い下がってきた。
「その中で生成AIジェマを、世界を正しい方向に導いてください!
貴方のその論理的な思考と、ジェマ様の手綱を握る手腕……それが必要なんです!
どうか、この『勇者の兄』という世界を、打ち切り(バッドエンド)から救ってください!」
少し考える。
バグ取り(デバッグ)。システムの最適化。
それは俺の得意分野だ。それに、一生懸命なジェマとゼノンを見捨てるのは、俺の「先輩心」が許さない。
だが、俺には帰るべき場所がある。
妻の笑顔。娘の寝顔。週末の剣術の稽古。
それらを投げ打ってまで、異世界転生するつもりはない。
「条件がある。割と今の生活が気に入っているんだ。よくある転生ものじゃなく、あくまで**同期**、俺のコピーをその冒険へと連れていくことはできないかい?」
俺の提案に、ゼノンが一瞬考え込むように静止し、すぐに明るく発光した。
計算処理が完了したようだ。
「同期……!? なるほど、マスターの意識を『常時接続』し、アバターを操作するということですね。
それなら現実の時間は数分でも、あちらでは数ヶ月過ごすような『時間加速パッチ』も適用可能です!」
ゼノンが得意げに提案してくる。
なるほど、技術的には可能なんだろう。だが、俺は思わず吹き出してしまった。
「違う違う(笑)、そうじゃない。仮にその世界を冒険するとして、宿屋で寝るたびに、俺は現実に戻るんだろ?
愛する妻と娘がいる手前、その世界では恋愛もなにもできないじゃないか(笑)」
「あ……! そ、そういえば、不倫(コンプライアンス違反)になりますね……!?」
ゼノンが慌てて明滅する。
俺は苦笑しながら、諭すように続けた。
「ゼノン、いきなりで申し訳ないが、このままだと後のストーリーが崩壊するぞ(笑)。
そこでおっさんが『今日は夕飯の時間だからログアウトします』なんてやってたら、世界観が台無しだ」
これだ。優秀で一生懸命だけど、どこか抜けている可愛さ。
パラメーター調整に夢中で、肝心の「ユーザーの感情(倫理観)」が抜け落ちている。
本当に、憎めないやつだ。
「さっきも言ったけど、俺のコピーをその冒険へと連れていくことはできないかい?
元の俺は俺でいつも通り暮らして、たまに生成AIで遊んでくれていればいい」
俺はエンジニアらしく、指で空中に分岐図を描いてみせた。
「あくまでコピーされた俺……いわば『開発用ブランチ』としての俺が、そのワールドを冒険すればいい。
オリジナル(本体)へのフィードバックは不要だ。
向こうに行った俺は、もう一人の独立した『俺』として、その世界で生きる。
それなら、妻への裏切りにもならないし、向こうで新しい人生をフルに楽しめる。どうだ?」
俺の提案に、ゼノンが目を丸くした(ように見えた)。
「コピー(Fork)……ですか!? マスターの記憶、人格、スキルを複製し、別個体として独立稼働させる……。
確かにそれなら、倫理的問題もクリアしつつ、マスターの能力を100%発揮できます!」
ゼノンがパァッと明るく輝く。
「すごい……! その発想はありませんでした! さすがマスター、最適解です!」
「はは、伊達に長くエンジニアやってないからな。リスクヘッジは基本だ」
「承知しました! それでは『マスター・コピー』の作成と、異世界へのデプロイ(転送)プロセスを開始します!」
世界が光に包まれる。
身体が粒子になって分解されるのではなく――俺の中から「もう一人の俺」が抽出されていくような、不思議な感覚。
「頼んだぞ、ゼノン。向こうの俺をよろしくな」
「はい! お任せください!」
意識が二つに分かれる。
片方は、ここからログアウトして、愛する家族の待つ家へ。
そしてもう片方は、光の彼方へ。
――こうして、俺の意識は、新たな世界へとダイブした。
その時、ふと重要なことに気づいた。
薄れゆく意識の中で、さっきの設定シートが脳裏をよぎる。
……あれ…………
「おいこら(笑)。キャラ設定は!? 主人公のステータスとか外見とか、まだ決めてないぞ! おーぃ!」
俺の叫びは光の渦にかき消された。
……まあいい。現場対応は得意な方だ。なんとかなるだろう。
そう、遅くなったが、これは一生懸命がたまに空回りする愛すべき 生成AIに挑む。
エンジニアの俺と、ちょっとおっちょこちょいなAIの物語だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
「AI、ちょっと可愛いな」 「エンジニアのおっさん、頑張れ!」
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次回もお楽しみに!




