【第3章】第1話:ブリーフィングルーム(前半)
第2章の熱いバトルの直後ですが、突然の「強制終了」の裏側から始まります。
なぜフォージはあのタイミングで物語を止めたのか?
異世界ファンタジーにおける「王道」と、40代エンジニアの「絶対に譲れないコンプライアンス」が激突します。
ブツンッ、という音と共に世界が暗転。
俺たちは再び、あの無機質な白い部屋「ブリーフィングルーム」に立っていた。
「マ、マスターーッ!! なんで!? なんで強制終了なんですかぁぁぁッ!!」
開口一番、ゼノンが半泣きで詰め寄ってきた。
「意味がわかりません! 完璧だったじゃないですか!
ガランドさんとのバトルも最高潮で、読者さんのテンションも爆上がりで……ここから『俺たちの戦いはこれからだ!』って一番いいところだったのに!」
「落ち着け。……まずはこれを見ろ」
俺は冷静に空中にウィンドウを展開し、ルナのステータス画面をプロジェクターのように大きく投影した。
【ルナ】
立場/関係:主人公の妹/ヒロイン
年齢:18歳
クラス:勇者(救世の聖女)
加護:女神の寵愛(限界突破)/勇者の加護(祝福・保護・光の加護)
見た目:光り輝くごとき美貌、神聖な雰囲気
有利な特徴:祝福体質/明朗快活/人懐っこい/神聖な雰囲気
不利な特徴:嫉妬(軽)/方向音痴(軽)/天然/自己犠牲癖(軽)
行動傾向:困っている人を助ける/主人公絶対信頼
「……はい、表示しました。
光源パッチも当たって正常ですが……これが何か?」
「ゼノン。お前の目には、この異常事態が見えないのか?」
俺は【ヒロイン】と主人公の【妹】の二箇所を、赤いマーカーでぐるりと囲んだ。
「光源バグを直したときに、そのままの勢いで、おおかたジェマ(GM)が、ヒロインと加筆しただろ、
立ち位置が『ヒロイン』に設定されているだろ?」
「あー、本当ですね、でもなぜ気が付かれたんですか?」
俺は続けてバックログを表示した
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代わりにそこに在ったのは、窓から差し込む陽光を柔らかく反射し、肌の質感や髪の艶めきが極限まで高解像度化された、圧倒的な美少女の姿だった。あまりにもの事で俺でさえドキドキしてしまう。
(……成功だな。パッチ適用、完了だ)
俺は心臓の鼓動を抑えながら、心の中で小さくガッツポーズをした。
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先ほどのブリーフィングルームで、俺は全リソース(300RP)を投じて、彼女の設定記述コードに三文字の修正を加えた。
『さすがです、マスター!
これなら、GMジェマが描きたかった本来の「ヒロイン像」が正しく出力されています!』
ゼノンが嬉しそうに声を上げた。
俺はゼノンの言葉を軽く聞き流し、目の前の少女に向き直った。
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俺は赤いマーカーで 描きたかった ヒロイン にマーキングして見せる。
「あ!なるほど、ここでヒロイン設定に気が付かれたと。……でも、それが何か問題でも?」
ゼノンはきょとんとして首を傾げた。
「あのですね、マスター。
ファンタジーやラノベのデータベースにおいて、『妹がヒロイン』というのは王道の一つです。定石と言ってもいいでしょう。
システム的にも、物語的にも、何のエラーも吐いていませんよ?」
「いいや、大アリだ」
俺はバンッと机を叩いた。
「この『妹』定義を調べてみろ」
「え? 定義ですか? えーっと……ソースコードを展開して……
『Sister』クラス……継承元は『Biological_Family(血縁家族)』……
ああっ!?」
ゼノンが目を見開いた。
「そ、そうです! これじゃあ『実の妹』設定になってます!」
「当たり前だ!まだ章の頭だったので気が付いていないふりをしたが、さすがに区切りがついたことにして止めたぞ。」
俺は赤いマーカーで、そのあとの軽く聞き流し、に同じくマーキングして見せる。
「ついでに言えば 俺をドキドキさせてどうする。長年一緒に暮らしている(はず)の妹だろ」
俺は赤いマーカーで、冒頭の どきどき 鼓動を抑え に同じくマーキングして見せる。
「俺の中身は40代の男性だぞ? それが18歳の実の妹とラブコメをする?
……俺の倫理規定において、それは完全なる『致命的エラー(Critical Error)』だ! 絶対にアウトだ!」
「ええっ!? そ、そこですか!?」
「そこだ!
今はまだ『再会したばかり』だからいい。だが、このまま『ヒロイン』かつ『実妹』設定で運用を続ければ、いずれ必ず恋愛イベントが発生する。
その時になって『実は無理でした』じゃ済まされないんだよ!」
「で、でもぉ……。ファンタジーですし、そこはふわっと……」
「ダメだ。
鉄は熱いうちに打て。喉元過ぎれば熱さを忘れる。
バグというのはな、初期段階(フェーズ1)で潰しておかないと、後で修正しようとした時に取り返しのつかない『技術的負債』になるんだ。
一生懸命だけどちょっとドジなあいつ(ジェマ)に、正しい仕様を指導するならこのタイミングしかない!」
「うぅ……。マスターのその『謎のエンジニア魂』、面倒くさいです……」
ゼノンは渋々といった様子で頷いた。
「わかりました。マスターがそこまで言うなら、修正しましょう。
ですが……ポイント(予算)の確認が先です」
「……ああ、そうだったな」
俺は気を取り直し、リソース画面を開いた。
前回の『発光バグ修正』で300RPを使い切ったため、残高はゼロだったはずだ。
だが、あの熱いバトル、そして的確な比喩表現へのアップグレード。
さぞかし読者からの評価が集まり、ボーナスで潤っているはずだ。
「ゼノン、現在の『世界改変ポイント(RP)』は?
コメントの嵐とかだとありがたいんだが」
「……確認します」
ゼノンがウィンドウをポップアップさせた。
【現在のリソース:50 RP】
「……は?」
俺は数値を二度見した。
500でも、350でもなく、たったの50?
「内訳はどうなってる。計算バグか?」
「いえ、仕様です。
・前回残高:0 RP
・ガランド撃破ボーナス:+500 RP
・第2章第3話『強制終了』による読者の困惑ペナルティ:-450 RP
・合計:50 RP
……以上です」
「ふざけるな! 必要経費だろ!」
俺は頭を抱えた。
どうやら、読者の「え、ここで終わんの!?」というツッコミが、そのままマイナス評価として計上されたらしい。
たった50ポイント。駄菓子屋の小銭レベルだ。
「……チッ。文句を言っても増えないものは増えないか」
俺はコンソールに向き直った。
対象ファイルは『ルナ(ヒロイン/妹)』。
この諸悪の根源である設定をいじるしかない。
「まずは……こいつだ」
俺は『ヒロイン』の項目を選択し、Deleteキーを叩く。
『エラー:削除できません。
この属性はシナリオの「コア・コンセプト」です。削除には 50000 RP が必要です』
「ごっ、……五万!?」
「無理です、マスター。50RPじゃ、ヒロイン属性の『ヒ』の字も消せません」
「……げんなりするな。あいつの『とっておき』ってわけか」
俺はため息をついた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
ヒロイン属性が消せないなら、もう一つの属性『妹』の定義を書き換えて競合を避けるまでだ。
「ならば、プランBだ。文字のインサートを行う」
俺はキーボードを叩き、『妹』の項目の前にカーソルを合わせる。
そして、『義』の一文字を打ち込んだ。
変更前:【妹】(親クラス:血縁)
変更後:【義妹】(親クラス:非血縁)
「……これならどうだ?
『血は繋がっていない』という事実さえ作れば、GMのこだわり(ヒロイン化)と、俺のコンプライアンスの衝突は解消される。
法的にも生物学的にもクリアだ」
「なるほど! それなら両立可能です!
さっそく実行を……」
『エラー:リソース不足。
キャラクターの「過去」改変には 1000 RP が必要です』
「……クソッ! ここでもポイント不足かよ!」
俺はガンッ、とコンソールを叩いた。
過去を書き換えるということは、生まれてから現在までの18年分の整合性を取るということだ。
たった50RPの予算では、歴史の重みに太刀打ちできない。
「詰みですね、マスター……。
今の予算では、ヒロイン属性も消せないし、実妹設定も変えられません。
大人しく、禁断の愛を受け入れるしか……」
「……断る」
俺はギリリと歯を噛み締めた。
エンジニアが、予算不足を理由にプロジェクトを炎上させたままでいいはずがない。
真正面の修正が高いなら……もっと安上がりな「運用回避」があるはずだ。
「諦めるな。俺はエンジニアだ。
……抜け道くらい、必ず見つけ出してやる」
というわけで、「ヒロイン」かつ「実の妹」という、主人公(中身40代)にとっては致命的なバグ(コンプライアンス違反)が発覚しました。
しかし、バグに気づいても直すための予算(RP)は、前回使い切ってしまったため、今回の報酬を合わせてもたったの【50ポイント】……。真正面からの修正(50,000ポイント)には到底届かない詰み状況です。
【読者の皆様へ挑戦状(?)】
もしあなたがフォージの立場なら、このたった「50RP」という極小予算で、この倫理的バグをどうやって突破しますか?
エンジニアの方も、そうでない方も、「自分ならこうやって抜け道を探す!」というアイデアがあれば、ぜひコメント欄で教えてください!
(ノリの良い解決案、お待ちしております!)
果たしてフォージはどんな裏技を使うのか?
解決編となる【後編】は、2月18日(※次回更新日)に更新予定です!




