【第2章】第1話:ブリーフィングルーム
第1章と第2章の幕間。
ここは世界の裏側、「ブリーフィングルーム」。
フォージとゼノンが、限られたリソースで「詰み」を回避するための、シリアスな作戦会議を行います。
気がつくと、俺は再びあの「無」の空間に立っていた。
地平の果てまで広がる、眩いほどの白。
第一章を終えた俺の意識が、次章へ進むためのインターフェース――ブリーフィングルームへと強制的に同期されたのだ。
「フォージ様、同期完了しました。現在、世界設定への介入権限が一時的に開放されています」
脳内に響くゼノンの声が、いつもより冷徹に、そして厳かに響く。
視界には、複雑に絡み合う光の幾何学模様と、それを取り巻く無数の「数字」が浮かび上がっていた。
「……ゼノン、この浮遊している数値は何だ? 以前はなかったはずだが」
「これらは『高位の存在』からの観測データです。この世界を観測する者たちの評価が、直接的なエネルギーとして変換されています」
ゼノンが指し示した先には、ホログラムのインジケーターが明滅していた。
・ビュー(観測数):1,24
・レビュー(評価):8
・コメント(思念):2
「……少ないな。エンジニアとして言わせてもらえば、このリソース量で本番環境を回すのは心許ない」
「左様です。現状、こちらから提供できるポイントは依然として不足しています。内訳を解説しますと、第一章における『三神インストール』の達成報酬が100。アドリブによる『システム安定化』のボーナスが180。そして先ほどの観測データからの変換分が20。合計して、現在保有しているのは『300RP(世界改変ポイント)』のみです」
300。神々をねじ伏せ、観測者たちの注目を集めてようやくこれだけか。
俺はこの貴重なリソースをどう使うべきか思考を巡らせる。
真っ先に修正すべきは、あの「光源」だ。
「ルナの『物理発光』を削除したい。あの設定そのものをデリートするには、何ポイント必要だ?」
「確認します。……個体名『ルナ』の根幹定義の消去。……必要ポイントは5000RPです。現状のリソースでは、全く手が届きません」
ゼノンの無慈悲な回答に、俺は思わず舌打ちをした。
勇者というメインプログラムの根幹に触れるのは、やはりコストが跳ね上がるらしい。
だが、あんなバグ(光害)を放置したまま第2章を戦い抜けるほど、俺の精神はタフじゃない。
(削除がダメなら……書き換え(パッチ)はどうだ?)
俺はエンジニアとしての視点で、ルナの設定コードを見つめる。
『光り輝く美貌』という記述。この「輝く」という動詞が、物理的な発光処理をダイレクトに呼び出してしまっている。
ならば、その後に「条件」をインサートしてやれば、コストは下がるはずだ。
その時!俺はあるアイデアを思いついた!
「ゼノン、いいアイデアがある!
実際にやってみる。コストを確認してくれ!設定そのものを消すんじゃなく、文字を追加して意味を限定させるんだ。これなら……」
「……マスター!これは……いける気がします!計算します!」
数秒の静寂。幾何学模様の展開速度が上がり、ゼノンが弾き出した結論が宙に浮かぶ。
「……算出完了。この三文字の属性追加であれば、ちょうど300RPで実行可能です。現在の全リソースを使い切ることになりますが、これなら『仕様変更』として受理されます!」
やはりな。仕様そのものを変えるには莫大なエネルギーがいるが、記述の「解釈」を歪めるだけなら、この程度のリソースでもセキュリティの隙間を突ける。
俺は指先を動かし、光のコードの中間に、楔を打ち込むように三つの文字を刻み込んだ。
「リフォージ・プロセス、実行。――世界に、新しい定義を適用しろ」
刹那、精神世界が激しく明滅し、俺の意識は再び「現実」へと引き戻されていった。
***
【リフォージ・ログ】
個体名:ルナ
変更前:光り輝く美貌
変更後:光り輝く『ごとき』美貌
※物理現象としての「発光」を、文学的な「比喩」へと強制置換する三文字。
これにより、システム側は「実際に光らせるのではなく、そう見えるほど美しい」と、正常なレンダリングへと処理を変更した。
わずか三文字の「ごとき」。エンジニアの機転が「光源」を「直視できる美女」へと再構築しました。
これにて準備万端。第2章、本格始動です!
次回、ギルドでの実測試験が始まります!お楽しみに!
お楽しみに!




