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第1話より一時間おきに投稿しておりました、全4話の最終話となります。
最後までお付き合いください!
主には“授ける者”というスキルがあるだろう、と問われれば確かにあるなと俺は答えた。
そのスキルとは支援系のスキルの中ではかなり特殊であり、一番万能なスキルであると言う。
支援系で言うと、普通は能力をアップさせる“強化”や命中率を上げる“必中”、相手から受けた攻撃を倍にして返すという“返攻”など、ひとつひとつが独立したスキルとして付与されるもので、ある人には強化スキルだけがあるとか、そう言う事らしい。
しかし俺が持っている“授ける者”は、それら支援系が全て使用可能なのだとゾイは説明したが、俺はそもそも支援系のスキルを持つ者は、皆が多種のバフを掛けられるのだと思っていた。―――というか、“黎明の光芒”には今まで当たり前の様にそれらを使ってきていたのだが……。
俺の常識は常識ではなかったと言う事なのかと思考していれば、尚且つ、“授ける者”だけが魔剣を生み出せるのだ、と聞き捨てならない事を言い出したのだ。
『主の持つ授ける者とは己のものを与えるスキルであり、それがバフなどの支援であれば“己の魔力”という事になる』
なるほどな、と俺は頷く。
『そのスキルの究極とも言える使用方法として、己の命を差し出し、“物に命を宿らせる”というものがある』
「……」
『それ故、我は主の心臓を貫いた事で生命を得ることが出来たのだ。そして魔剣として生を受けた我は、溢れ出る魔力とその力を使い、逝った主の中へと命を巡らせ蘇生させた、という事だ』
「はあぁーーーーー??!!」
ここまでかみ砕いて説明してくれているとは分かっているが、どうにも思考が追い付かず、何と言葉を出してよいのかすら分からない。
ただここまで聞いて、俺はある噂を思い出す。
「って事は、魔剣を持っている奴は死なないってのは本当なのか?」
「間違いではないな」
「はぁ~そう言う事か」
盛大にため息をつき、俺は背後の壁に寄りかかった。
ジョアンが魔剣を欲しがった最大の理由がコレだった。しかも本当の事だと信じていたなら、絶対に入手したいと思うのも道理。魔剣一本で不死となるのであれば、Sランクも確かに夢ではないなと思う。
『ただし』
とゾイの声が響き、俺の思考はそこで中断する。
『――それが可能なのは魔剣が主と定めた者のみ。単に手にしているだけの者では、死すればそこで終わりとなろう』
なんだよ、その落とし穴みたいな設定は……。
「その“主”というのに基準はあるのか? 名前を付けた奴が主になる、とかか?」
『では聞こう。その理由で言えば、主は未だ屍のままという事にならぬのか?』
そう言えばそうだった。ゾイに名前をつける前から“主”と呼ばれ、蘇らせてもらっていたのだった。
であるならば、その基準とは……?
『難しく考える事ではなく、魔剣が主と認めるか否かという話だ。直感的な相性の問題、もしくは共鳴する何かがあるか。それ故、我を生み出した主には共鳴するものがあり、我の主たり得る者であった。その主を蘇らせるのは当たり前の行いである』
その説明では今ひとつピンとこないが、要するに、俺が自分の命を使って創り出した魔剣だから、俺を主と認識してすぐに蘇生してくれた、という事なのだろう。
果たして魔剣を求めている奴らに、その詳細を知っている奴がいるのだろうか……。
そんな俺の心を読んだかのように、ゾイは続けた。
『我らと意思疎通ができる者は、魔剣を創り出せる者のみ。故に魔剣が主と認めた者だけを蘇生させるという事実を知る者はまず居るまい。もしも主がこれまでにその様な話を聞いた事があるならば、目撃した誰かが勝手に勘違いをして、使用者は死なぬなどと広めた話であろう』
俺はブルリと体を震わせた。
噂の通り、確かに魔剣を持つ者は死ぬことはなくなるらしいが、それには条件があるなどと、俺は今まで聞いた事もなかった。もし皆が俺と同じ認識ならば、間違った知識が広がっている事になるだろう。
あの魔剣に執着していたジョアンですらそこまで知っていたとは言い難く、奴がもし魔剣を手に入れたとしても、その魔剣に主と認められない限り死のリスクは変わらぬままという事になる。
「ハハッ」
それが滑稽で、思わず笑い声を上げた。
俺は一度、奴らに殺された。だからもう二度と奴らに係わりたくないし、正直顔も見たくない。もう忘れよう。
今の俺は、己が創り出した魔剣によって生き返ったのだから、これから先の事も考えねばならないなと気持ちを切り替え、座り込んでいた血だまりから立ち上がった。
まずは相棒となったゾイの能力を確認する。
「なあ―――魔剣って強いのか?」
『笑止、その問いは愚問という。魔剣とは膨大な魔力を所持し、一騎当千の威力を誇るものなり。これより我は、主の前に立ち塞がるものを全て蹴散らすであろう』
「頼もしいな。それでゾイは、何の魔法が使えるんだ?」
『我は風に系統するものである』
「そうか、風魔法が使えるのか……」
俺が冴えない冒険者だったのは、これまで魔法が使えなかったからだ。
魔力自体は持っている。しかしそれはスキルを使う時にしか活用できず、戦闘では体力と剣のみでしか戦えなかった。だから、そんな俺の戦い方を見たジョアンたちが戦闘に加わるなと言って、俺を非戦闘員扱いにしたのだ。
でも、これからはゾイと一緒に戦う事ができる。
――実際にはどこまでの能力になるかは戦ってみないとわからないが、これまでの俺よりはずっと強くなるはずだと確信する。
それから俺は、ゾイの灯りを頼りにして宝箱があった方へと移動し、ゾイの鞘を探した。
―――あった。
奴が俺のところに来た時には既に剥き身の剣だったから、きっとこの辺りに捨てたのだろうと思ったのだ。
とは言え、ゾイは形が変わってしまっているから入るのだろうか?
『我の鞘か。確かに主を傷つけぬよう、あった方がよい。どうした主よ、我を納めぬのか?』
俺が拾った鞘をいつまでも手に持ったままだった為、ゾイが不思議そうに聞いてくる。
「だが、ゾイは形が変わったんだぞ?」
『案ずるな。我と鞘は対となるもの故、間違いなく納まる』
と、何が不思議なのかと言うように、あっけらかんと言われてしまった。
そうなのか……。
考える事を放棄してゾイを鞘に差し込めば、握っている鞘の形が一瞬で変わり、最初からこの形であったかのようにすっぽりと納まってしまった。
―――――もう深く考えるのは止めよう……魔剣だし。
これでここにもう用はないから、地上に戻るか。
………ああでも、それ以前に最大の問題があったではないか。
「まずいな……水と食料が入った荷物を、全部持って行かれてしまったようだ」
俺が背負っていた荷物には、パーティーメンバーの全員の着替えや食料など、ダンジョン探索に必要な物一式が入っていた。それが全て無いとなれば、俺はここから外に出るまでの三日間は飲まず食わずという事になる。流石に水も飲まずに三日は耐えられないだろうなぁと、ため息をついて髪を搔きむしった。
『それがどうかしたのだ、主よ』
「ゾイとペアを組んで活動する前に、俺はこのダンジョンから出られないかも知れないと思ってな……」
『何故そう思うのだ?』
「食料が入った荷物を持って行かれた。俺達がここまで来るのに三日かかっているから、帰りも三日は掛かる計算になるが、俺には水も食料もないという状態なんだ」
諦めたように説明する俺に、ゾイは鞘ごと明るく光る。
『案ずるな。我が居るではないか』
確かに俺はもう死ぬことを心配する必要もないため、ダンジョン内に出る魔物を蹴散らしながら進む事は出来るが、流石に衰弱死するたびに生き返らせてもらうのもキツイ……と俺が想像していれば、ゾイがサラリと言った。
『我が転移で外に出してやろう。その代わり主は我に触れながら、その場所を思い描かねばならぬが』
「!!! ―――出来るのか?」
『無論。出来ぬ事は口にせぬ』
「はぁ~~~」
これで今度こそ悩みの種はなくなったと、盛大に安堵のため息が漏れた。
俺は手に持っていたゾイを、腰帯に差し込んでから声を掛ける。
「よろしく頼むな、ゾイ」
『任せておけ。それでは行くぞ』
ゾイの言葉の後、一瞬にして俺達は、ダンジョンの最下層にあるボス部屋から姿を消した。
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いきなり太陽の下へと出た俺は、余りの眩しさに腕で目を覆った。
明かりと言えばゾイの淡い光源だけだった真っ暗なダンジョンから、一気に昼間の明るさになったのだからそれは仕方がない。
ゆっくりと目を慣らしていけば、そこはダンジョンの入口から少し離れた場所で、俺が思い描いた通りの位置に辿り着いていた事にホッとする。
一応人目を気にして、人気のない所を選んだのだ。
『ここで良いのであろう?』
「ああ、完璧だ」
笑顔で頷けば、ゾイから誇らしげな気配が漂ってきた。
ああ、すげーなゾイは。
俺は体に触れる爽やかな空気と太陽の光を存分に浴び、大きく伸びをして解放感に満たされていた。
と、俺はなぜ隠れもせずのんびりとしているのかと言えば、俺が死んでからまだ一日も経っていないとゾイから聞いていたからだった。
だとすれば、俺が生き返る前に奴らがボス部屋を出たところで、少なくともあと二日は経たないと地上には戻ってこれないだろう。それに、まさか死んだはずの俺の方が先に地上に戻っているとは微塵も思っていないはずで、時間はたっぷりあるという訳だ。
「なあ、ゾイ。もうひとつ頼んでもいいか?」
『主の頼みとあらば、いくらでも』
「それじゃあ、ゾイの風魔法で俺の髪を短くしてくれないか?」
『よかろう、それくらいは造作もない』
――ブワンッ――
いうが否や、俺を包むように風が渦を巻いて空へと上って行き、一瞬の後にはハラハラと煌めく塵埃が地に降り注ぐ。
俺は奴らに気を遣い、顔を隠す為に髪を伸ばしていた。
しかしもうそんな事も考えなくて良くなったと思えば、開けた視界は生まれ変わったかのように、輝きに満ち溢れたものへと変わる。
そしてそれは俺がゾイと共に、俺の望むままに生きると決めた瞬間でもあった。
「どうだ? おかしくはないか?」
『おかしなところなど、ある訳はなかろう。主は男前じゃ』
「………頼みを聞いてくれてありがとう」
『礼には及ばぬぞ、主よ』
自分で姿は見えないが、自分の主の事を悪くするような事はないはずだ。
それに、お世辞だと分かっていても気遣ってくれる言葉がくすぐったくて、俺は切ったばかりの髪を触る。
「それじゃ、ここから俺達の新たな旅の始まりだな」
『うむ。だが、行く先は決まっておるのか?』
「具体的には決めていないが、まずは奴らが居た街とは別の場所へ向かうつもりだ」
『主の食料は問題ないのか?』
「ああ。外に出れば食べ物はいくらでも手に入るし、湧き水もあるから問題ないだろう」
『主がよいならば我に異議はない』
「それじゃ行くか、相棒」
『承知した』
ダンジョンの入口に背を向け、俺は道をはずれた林の中へと歩き出して行く。
俺は次の街でこれまでの名前を捨て、新たに違う名前の冒険者として登録し直そうと考えていた。
それはこれまで関わった者達との決別を意味し、人生をやり直すという意味でもあった。
冒険者はひとつの国に縛られる事のない自由な旅人だ。
この国では碌な事はなかったが、俺には頼もしい相棒もでき、これからは希望に満ち溢れる旅となるだろう事は決まっているのだ。
一度はダンジョンで殺されたこの男が、始めからSランクの実力を持って彗星の如く現れるのは、これより少し経ってからの事。
そして“黎明の光芒”と再び顔を合わせる事になるのは、それよりもずっと後の話である。
『俺はパーティーメンバーに殺されたとさ。』
完
この度は、拙作にお付き合いいただきありがとうございました。
この4話にて、一旦物語は終了となります。
この後に続く物語もありそうですが、今回は旅立ちの物語(短編)とさせていただきました。
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それでは、また皆さまにお会いできる日を楽しみにしております!!!
盛嵜 柊




