8. ユリシアの想い(2)
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化けガエルと戦い子供を助けたあと、なぜか全裸にオムツの姿に片手にガラガラを持っているところをダクト達に見られて赤っ恥をかいたあの事件以来、俺は村には出ていない。
この呪いを背負った以上人前にはなるべく出ないようにしないといけないことがあの一件で結論づいた。
あんな風にオムツ一丁になった原因はどう考えても幼児退行の呪いしか考えられない。
そして、バケモノを閃光のみで倒したあのガラガラ、神にもらった時は単なる悪い冗談の代物だと思っていたが、これは明らかに単なるガラガラではない。
もしくは、あれも俺自身の幼児退行による力だったりするのか……?
だとしたら、幼児退行の呪いとは、事あるごとに変態化するデバフと引き換えに何かすごい力をもたらしてくれるんじゃないか。
あんなにも強力な光線を安易と打てたことを考えると、まだ付き合い始めのこの体には、もっと何かすごい秘密が秘められてるのかもしれない。
都で逮捕され、町で変態として蔑まれる、たんなるデバフでしかないと思っていた俺の呪いだが、捨てたもんじゃないのかもしれない。
ただし……、使うたび、基本的に周りからの社会的な尊厳は失われていく。
これは本当に洒落にならない。
学校の入学式を想像してみて欲しい。
異世界転生してから間もない俺にとって今の時期はこの新しい世界というクラスでの1年1学期自己紹介の時間だ。
周りに自分という人物像を伝えていく重要な時期に、時と場を選ばず全裸になってしまっていてはどうだ?
事情を知る由もない周りからは絶対に孤立する。
自己紹介中に全裸になったやつには灰色の学園生活しか望めないだろう。
つまりはこの異世界での人生そのものがお先真っ暗になるってわけだ。
だからこそ、もう俺は街には出ない。
もうあんな失態2度とごめんだからな。
そもそも、今の俺に街を練り歩けるほどの立場はないのだが……見つかり次第ダクトに殺されかねない。
なんなら今ここユリシアの家まで俺の息を止めにダクトがやってきたっておかしくはない。
とにかく、今の俺に外の世界は危険すぎるのだ。
この呪いをどうにかする方法を考えないと……。
最近、呪いの影響が強くなってきた気がする。
「……?
はいとさん、どうしたんですか?
さっきから目がどこか遠くを眺めてますけど……」
物思いにふけって食事の手が止まっていたようだ。
正面でパンをはむはむと食べるユリシアが心配そうにこっちを覗き込む。
「いや、何でもない……。
……!!」
目線をユリシアに向け、俺の視界をジャックしたのはついさっき俺を誘惑してきた二つの特大蒸しパン達。
こうよく見ると、ユリシアの胸って本当にでかいな……。
サイズの概念がこの世界にあるのかは不明だが、地球でいうところのH,I……Kカップはありそうだな……、って! まずい!
なにがまずいのか。
この呪いにかかってから胸などの母性を象徴するもの、特に巨乳を見ると、幼児退行が進行していくようになっているのだ。
騎士団長の胸を俺が揉んだあの一件も団長のでかい胸を見て幼児退行を引き起こしたことが原因であると言える。
もともと男というのは大きな胸に誰しもがそれなりに欲情する物だが、呪いはその感情を指数関数的に爆増させていく。
そして、何者かに操られているかのように思考まで赤ちゃんになっていくのだ。
最近はその前兆が来るペースが日に日に頻繁になっていっている。
こんな食事中の一時ですらだ。
俺は落ち着いて目を閉じてスープを一飲みする。
そして、無言でユリシアの目を見つめる。
「……」
「……」
お互い無言の時間が続く。
ユリシアの顔はまるでそういうタイプの温度計みたいにみるみるうちに紅潮していく。
俺の頭の中に住まう赤ん坊よ、聞け。
この人はお前の個人的な欲をぶつけていいような相手じゃない。
まあ、そもそも誰に対してもダメなんだが。
この人は森の中で瀕死になっている見ず知らずの俺を助けてくれた命の恩人なんだ。
何があっても決して悲しませてはいけない。
そして、ユリシアにだけは幻滅されたくない。
異世界に来てからというもの人と会い知り合っていくたびに呪いが発動し蔑まれてきた。
そんな俺を初めて人間として扱ってくれ、情をかけてくれた。
ユリシアに嫌われたら、俺は全てが嫌になるだろう。
だから、絶対に傷つけたくないんだ。
呪いに勝つんだ、俺。
「あ、あの……////
はいとさん?……////」
耐えきれなくなったユリシアが俺に声をかける。
「さっきからどうしたんですか?
なんだか、浮かない感じですけど……」
「ユリシア」
数秒間の間の後、俺は真面目なトーンで口を開く。
「ひゃっ、ひゃいっ?!」
驚いたユリシアが声をうわずらせる。
「俺、ユリシアのこと、絶対大切にするから」
俺は今の気持ちをそのままユリシアに伝えた。
同居人として、命を救われた者としての。
「ええぇぇえぇぇえ?! …アっ、エ、アッ、エッ、あ……」
その瞬間、ユリシアは壊れた機械人形のように口を動かし、やかんが沸いたかのように今までで1番顔を赤くしてからぷしゅーと湯気を頭から吹くと、机にそのまま突っ伏せた。
「……おい? ユリシア……?
おい! 大丈夫か!!
俺そんなまずいこと言ったか?!
ユリシア?!」
「……それがお前の遺言でいいな?」
俺がユリシアを介抱しようとすると、廊下から、大男の唸るような声が聞こえてきた。
「ダクト?!
お前、なんでいるんだよ?!
しかもこんなタイミングで!!」
ダクトの耳に俺の声はもう入らない。
獲物を狩るような目でただ俺を視界から離さず、一歩ずつこちらに近づいてくる。
「なあ、はいと。
言ったよな……?
ユリシアには手を出すなって……」
「待て待て!
俺はそんなつもりで言ったんじゃない!!
ユリシアの様子はなんだかおかしいが、そもそも俺たちの関係性は全くもってそういうのじゃ……」
「この期に及んでもしらを切るつもりか!!
もう容赦はしねぇ」
ダクトはご自慢のバトルアックスを振りかぶる。
心底丁寧に磨いてきたようで刃は太陽光で輝いている。
「死ねぇぇぇ!!!!」
「俺の平穏な朝を返してくれ!!!!」
(続く)
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