10. ユリシアの想い(4)
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ダクトがユリシアの家を発った後、俺たちは気を取り直して食事に戻っていた。
まだ昼前だというのにどっと疲れた。
最後のパンの一かけを口に入れた俺は、まだまだ半分ほどパンが残ったユリシアに喋りかける。
「今日のパーティー街の方でやるんだっけか」
「は、はい。そうです」
一生懸命に食べているユリシアはこちらに目を合わせる。
「どんなところでやるんだ?」
「この間私がはいとさんに案内した酒場です。
どうやら貸切って頂いているようで……」
ユリシアはもじもじと申し訳なさそうに言う。
「あんな広い酒場全部貸し切りか!
すごいじゃん!」
「ダクトさんたちが手配して下さったようで……。
はうぅ……、恐れ多いです……」
「それだけユリシアがみんなから愛されてる証拠だって。
誇っていいと思うよ?」
「そ、そうですか……ね……」
ユリシアは少し照れる。
「会場がどうなってるのか気になるな」
ユリシアはこくっとうなずく。
「昨日のお昼過ぎにお店に伺ったんですが、既に準備を始めていてくださってて……。ほんとになんとお礼を言っていいのやら……」
「村のみんなは流石の力の入りようだな」
流石はこのあたり一帯のマドンナだ。
「そ、それで……あの……」
ユリシアは何かを言い淀む。
「ん? どうかした?」
「あ、あのですね、明日の晩、はいとさんはお暇でしょうか……」
「あ、ああ、うん。暇だけど」
「そ、そのですね、もしよろしかったら、……その、私と一緒にパーティに来ていただけませんか……?」
ユリシアの顔を覗くと、大きな瞳をうるうるとさせながらこちらを見つめていた。
まいったな……。
俺は元々今日の晩にはこの家を離れ、元居た都、グリーンレイクに戻るつもりだったのだ。
時間は戻って昨夜。
変わったな漂流人がこの辺りに住み着いたと聞きつけたピンプがユリシアの家の一室で眠る俺のもとに会いに来てくれていた。
ああして別れた後も俺の安否を気にしてくれていたらしい。
枕元の窓に小石を投げられ、気づいた俺は外に出てピンプと話した。
妙なことをするとは思ったが、念には念をと考えてのことらしい。
確かに、手配済みの人間と会うのはなかなかリスキーだからな。
曰く、近隣地域への魔物退治で王国の騎士団は忙しく、最近の日中は都グリーンレイクでは滅多に見ないらしい。
ピンプは今がチャンスだと言った。
騎士団の奴らがのさばっていない今、さっさとグリーンレイクからの港に行き、別の国に入れば姿を眩ませられる。
しかし、騎士団が天手古舞な状態がいつまで続くかもわからない。
魔物退治の団体も出来つつある。
もたもたしてはいられない。
ピンプには今日の夕方ごろ、この片田舎からグリーンレイクまでの馬車が来るからそれに乗ることを提案された。
そこに間に合えば俺に付き添ってくれるという。
何から何まで世話を焼いてくれてピンプには感謝してもしきれない。
一度別れた俺のことをまだ心配してくれていたんだもんな。
ピンプの意見には賛成だ。
お尋ね者になってしまった俺には待っても見なかったこの千載一遇のチャンス、現状の打開策になるのかもしれない。
それに、俺は元々ユリシアのパーティに行くつもりはなかった。
変態と住民に認識されてしまった俺が居ては、場の雰囲気を乱すことは想像に難くない。
ユリシアにとって、ふるさとを離れる最後の日という大切な日だ。
俺が壊すわけにはいかない。
だが……。
ユリシアの瞳。
不安と期待にあふれていて、今にも雫がこぼれそうだ。
こんな顔を前にして、本心を言えるほど俺は気高い心を持ってはいなかった。
「うん。いいよ」
口にした途端、とてつもない罪悪感が俺を襲う。
行けるはずがないのに。
行ったとしても彼女を傷つけるだけなのに。
だが、可哀そうな目の前の彼女は自分が置かれた状況に気づいていない。
顔をぱぁっと明るくし、ただでさえ大きな瞳をより大きく見広げて、バレバレな笑みを隠そうと口元に手を当てている。
その愛らしい素振りを見ていると、余計に自分の心が荒ぶ様だった。
食事をし終えた俺たちは、庭からつながる森の湖に水を汲みに出かけた。
ユリシアの家の井戸の調子が悪いらしい。
やはりこの辺りは田舎な様で、特にユリシアの住む村の外れは家から離れるとすぐに頭上まで緑の生い茂った天然の森が広がっていた。
ユリシアの後に続き獣道を進む。
これだけでちょっとした冒険だな。
「はいとさんとはこの辺りで出会いましたよね……」
唐突にユリシアが話しかけてくる。
「うん。そうだね。
あのときユリシアが俺を助けてくれなければとっくのとうにゲームオーバーだったわけだよね
ありがとう。本当に感謝してる」
俺は本心を包み隠さず告げる。
さっきの罪滅ぼしになんてなるわけがないのに。
「い、いえ……。でも、私も、あの時の出会い、運命だと思っています……。
はいとさんみたいな素敵な人、今まで出会ったことがなかったから」
ユリシアにそう言われ俺はぽかんとする。
「俺が素敵? こんな俺が? そんなわけないって」
ユリシアは少しむっとして言い返す。
「はいとさんは素敵です。
いつも私のことを気にかけてくれてますし、とっても優しいですし、か……かっこいい……ですし……あぅあ……」
ユリシアは自分で言いながら頭から湯気を吹き出す。
俺もさすがに照れるな……。
「ユリシアみたいな可愛い子を前にしたら、誰だって気に掛けるって」
「そ、そんな、あうぅ……」
そうこうしてると湖が見えてきた。
2つの天秤棒に水を汲み終わり、肩にかけようとするユリシアを俺は止める。
「大丈夫。俺に2つとも貸して。……と言ったはいいが、結構重いな……これ……」
「いえ、私が1つ持ちます……!」
「女の子に重いもの持たせられないって」
「……」
ユリシアは頬を赤くして黙る。
「……はいとさんは悪い人です。そんな風に言われたら誰だって、す、好……」
ユリシアは何かぼそぼそと言っている。
「え? 何か言った?」
「な、何でもないです! べー」
(続く)
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