過去という傷跡が、
両親にバレてからも、毎日書斎にこもって魔法の本を読み漁っていた。
両親の期待もあってか、魔法科学校への入学がすでに決まっているという話を聞いてからは、胸の高鳴りが止まらなかった。
没落騎士爵であるフォルセイド家は、かつて一度でも王国の役職を務めた家系だったため、魔法科学校から特別推薦を受けることができる。
その推薦は、一般の者より優先的に入学が認められる特別な資格だ。
だから俺には期待がかかっている。
没落した家の名誉を取り戻すため、ここで結果を出さなければならない。
まだ幼い身体に魔法の才能があるかは分からない。だが、勉強だけは誰にも負けたくなかった。
これまでの人生を変えるための第一歩だ。
「絶対に諦めない。ここで俺は変わるんだ。」
その決意を胸に、俺は新たな世界へ歩み出す。
ーそれから2年
俺が4歳になった頃弟が生まれた。
その知らせを聞いたとき、正直複雑な気持ちだった。
前世で兄弟に裏切られた記憶が、脳裏をよぎったからだ。
あの時の痛みは、今でも胸の奥に棘のように刺さっている。
だが、生まれてきた弟――名前は「リアム・フォルセイド」と言う――の顔を見た瞬間、その不安は少しずつ溶けていった。
小さな手、小さな笑顔。何も知らない無垢な存在が、俺に向けて笑ってくる。
可愛い。そう思ってしまった。
驚くほどあっさりと、俺は過去のトラウマに線を引くことができた。
しかもリアムは驚くほど成長が早く、生後一年で自力で歩けるようになってしまった。
一瞬こいつも転生者なのではと疑ったがこの純粋な笑顔がそれを否定した。
「このまま、仲のいい兄弟でいられるといいんだがな、」
そう呟きながら、俺はまた書斎へと向かう。
家族が増えても、やるべきことは変わらない。
今、俺たちフォルセイド家は王都から遠く離れた辺境の村で暮らしている。
屋敷とは名ばかりの、老朽化の進んだ木造の家。
貧相で、冬はすきま風に凍え、夏は屋根裏の熱気に耐える日々。
それでも、俺にとっては「やり直し」の舞台として、十分すぎる環境だった。
この荒れた場所から、もう一度家名を立て直す。
そのためにも、俺は魔法科学校に入って誰よりも強く、そして賢くならなければならない。
魔法科学校への入学は6年後、10歳になる年。
それまで、俺にできることはただ一つ。
必死に学び、備えること。誰よりも早く、遠くへ進むために。