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ラッカスの冒険

作者: 川瀬 晶

ラッカスを大好きだった、亡き妻の思い出に捧げます。

 昔々、ラッカス(おおさわぎ)という名前の垂れ耳で真っ黒な仔犬がいました。でも周りの子供からは「らっかしゅ」と呼ばれていたので、自分でも「らっかしゅ」が名前だと思っていました。自慢の立派なオレンジの首輪には、ちゃんと名前が書いてあったのですが。


 ある日、ラッカスは森のはずれを探検していました。初めての大冒険です。実のところ、完全な迷子でしたが、まったく気がつかないほどはしゃいでいたのです。しかし、日差しが傾いてくるとうっすらと気がつきました。お腹がペコペコなのにご飯がありません! ラッカスはふんふんと鼻を鳴らしてみましたが、お母さんのも兄弟のも匂いがしなかったので、急に心細くなりました。


 そこへ何かがやってきました。勇敢なラッカスは短い足を踏ん張って身構えました。それは一匹のうさぎでした。ただのウサギではなく、ラッカスよりずっと大きなアウスラ(戦士)うさぎで、名前をふーたんと言いました。

 ふーたんはラッカスを気にしたようすもなくまっすぐに向かってきました。ラッカスはうさぎを見たことはなかったのですが、大胆無謀にも吠えかかりました。わんわん! わんわん! するとふーたんは初めて足を止めてラッカスをみました。ラッカスはそれを見て調子に乗って吠え続けました。


 ふーたんはじっとしていたかと思うといきなり突進して前足を一振りしました。ふーたんに鼻面を叩かれたラッカスはキャインと一声鳴いて転がりました。でもふーたんは本気ではなかったので爪は立てませんでした。ラッカスは慌てて転がったまま降参降参のポーズを取りました。そして哀れっぽく鳴きました。


 ふーたんは横目でラッカスを見つつ通り過ぎようとしました。ラッカスは起き上がってなおも鼻を鳴らしていましたが、ひとりぼっちになるのが怖くてふーたんを追いかけました。


 ぽふぽふ、ぽふぽふ。ふーたんの足音をラッカスが追いかけていくと行く手はひらけて、原っぱになりました。ふーたんはそこでシロツメグサを食べていました。

 もぐもぐ、もぐもぐ。ふーたんは美味しそうに食べています。ラッカスも真似をしようと匂いを嗅いでみましたがまったく食欲が湧きませんでした。お腹はますますぺこぺこになってきました。ラッカスは、今度は慎重に、哀れっぽく吠えてみました。


 ふーたんはそれでもしばらくもぐもぐしていましたが、やがてまたぽふぽふ歩き始めました。ラッカスも後ろに従いました。しばらくすると一軒の農家が見えてきました。ラッカスには背が低くて見えなかったのです。農家からは色々な匂いが漂ってきました。


 ふーたんは母屋を避けて家畜小屋に回り込みました。ラッカスも付いて行きました。ふーたんは馬小屋に潜り込みました。おやつにカラス麦を食べるのです。ラッカスも真似しようとしましたが、ふと頭上からすごくいい匂いがしてくるのに気がつきました。


 懐かしい美味しそうな匂いは隣の牛舎からでした。よじよじ、よじよじ。ラッカスは空腹に急かされて牛舎の横柵を一生懸命によじ登りました。その先には二つに割ってくり抜かれた丸太があり、中に入ったミルクを二頭の子牛が嬉しそうに飲んでいました。ラッカスはもちろん牛を初めてみたのですが、それよりもお腹が減っているほうが先立ったので、負けじとミルクを飲み始めました。真っ黒なラッカスの口の周りはすぐに真っ白になりました。子牛たちはびっくりした目をしてちっちゃなラッカスを眺めていましたが、ラッカスがミルクに夢中になっているのをみて、自分たちもごはんを再開しました。


 一方、ふーたんはカラス麦を少しだけ食べると(カラス麦は本当はうさぎには良くないのです)、母屋の裏手に向かいました。そこには一家が自分たちで食べるための小さな野菜畑があったのです。人参、キャベツ、芽キャベツ。グルメなふーたんは堪能しましたが、油断はしませんでした。そして満腹になるとどこかへ行ってしましました。きっと奥さんうさぎが掘ってくれた巣穴に帰ったのでしょう。


 お腹がくちくなったラッカスはふーたんがどこへ行ったか気になって、鼻をふんふんさせながら探しました。するとふーたんの代わりに母屋の裏口が目に入りました。ラッカスはドアがなんなのか知っていました。ご主人様たちがいるところです。


 お母さんの匂いがしないことを不思議に思いつつも、ラッカスは裏口のドアを引っ掻いてみました。カリカリ、カリカリ。しばらくそうしていると、軽い足音がしてドアがいきなり引かれました。


 エプロンをつけたかわいい女の子が立っていました。ラッカスは初めてあう人にびっくりしましたが、家の中からいい匂いがしてくるので、慌てておすわりをして、期待に満ちた目で女の子を見上げつつ尻尾を振りました。


 首輪を見て取った女の子は迷子なの?と訊きましたがラッカスは相変わらず尻尾を振っていました。女の子はちょっと考えたあとで、まあいいかと言ってラッカスの寝床を用意してくれました。寝床は女の子の匂いがしました。それに家の人たちが夕ご飯を食べた後に残り物がもらえました。ラッカスはもちろん全部食べました。


 こうしてラッカスは新しいお家を手に入れました。女の子はラッカスに、カラス麦を狙うネズミや、裏の畑を狙ううさぎを追い払うように命令しました。ラッカスはネズミを追いかけるのは好きでした。そしてふーたんを見つけても決して吠え掛かったりはしませんでした。ラッカスは賢いのです!


 おしまい


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