天災は悪魔の如き禍々しさで現れて
何と言うか、目の前は地獄絵図と化していた。脇でも白いタキシードに身を包んだ親友――康太が若干震えている。
「お前がやったんだろうが」
康太が指差す先には空になったウィスキーのボトルが無残な姿になっていた。
「どうして」
ある種納得がいかなくて、俺は思わず呟いていた。
地獄絵図の中心で白いドレスを振り乱して笑っている鬼子母神の如き人物は、主役であるはずの康太の花嫁だった。全然アルコールに手をつけようとしない彼女に、俺がこっそりウィスキーを半分ぐらい注いでしまったのがそもそもの間違い。もちろん、止めにかかる康太は他の仲間が押さえつけていた。そして、この大惨事。
最初の異変は彼女が唐突に大笑いし始めた事。笑い上戸なのかと楽しくなった周囲に冷たい風が吹いたのは数秒後だった。彼女はおもむろに手近にあったウィスキーを空にした。ボトルを持って飲み干す事で。
そしてそのボトルをテーブルに叩き付けた。もう周囲は完全に凍りついた。
飛び散るガラスを見つめて彼女は呟いた。
「綺麗……だな……」
言った彼女が次にとったのは、他のボトルを飲み干す事。そして、油断しまくりだった康太の父親の頭をかちわる事だった。血が流れまくっていようとも、辛うじて生きている事が素晴らしい。
康太が笑って俺の肩を叩いた。いくらかその顔が恐怖に引きつっている。
「後、頼んだぜ?」
「何言ってるんだ!」
本気で非常口に逃げ込もうとするコイツを、俺は『柔道の時にこれぐらいの力が出せれば成績が良かったのに』と思うような力で引き止める。首をきめる事で。
しかし、思わぬ声が別のところから振ってきた。結婚式の司会をやっていた雅樹だった。
「オレが行く。お前、俺の代わりをやってくれよ」
コイツ、俺を司会にして自分は逃げようってのか。許せねぇ!
「ダメだ」
泡を吹いている康太をさっさと捨てて、俺は雅樹の足を綺麗な足払いで払ってやった。そりゃもう、見事に後ろにステーンと倒れる。
頭を押さえている雅樹を見下ろして、俺は笑った。
「お前は残れ。それが妥当だろ」
司会なんだから。
俺は自動ドアへ向かって歩き始めた。
「どこに行くんだ!」
雅樹の叫び声が聞こえる。
んなもん、あの花嫁が来られない場所に決まってるだろ。
最後まで読んでいただきまして、まことにありがとうございます。
ここまで読まれた方には私が何で遊んだのか、もうお分かりでしょうね。一応、念のために書きますと『台詞の配置を逆転させる事』です。
全く違う二つの話で、使用する台詞は同一のモノ。しかし、その配置を逆転させて構成しています。
ただひたすら『台詞の配置を逆転させる事』に重きを置いているため、自分で書いていて何ですが、設定も構成も無茶苦茶です。
ですが、どうぞ『子供の戯れ』と思って許してください。
まさに『児戯に等しい』小説ですが、面白いと感じてくださったなら嬉しく思います。
では、この作品は『戯れ』ですから、今回はご感想をお待ちしております。