2-6.魂の器
準備は整った。アイリさんは両手をリオのおでこ付近にあてて回復魔法を使い始めた。それと同時にボクもリオの頭の裏から鎮静作用のイメージしつつ、回復魔法をかけ始めた。
鎮静作用のイメージって、どうしても愛用していたあの胃にやさしい錠剤のお薬なんだよね。元の世界ではよく二日酔いでお世話になったし。
そのイメージが良かったみたいだ。リオの顔は、それまでの緊張しきった顔から眠っているみたいに穏やかな顔になったよ。
一方のアイリさん、非常に難しい魔法なのか、額にたくさん汗をかいている。表情は真剣だ。本気なのかわからない冗談言ってリオと大ゲンカしていたけど、やっぱり大切な仲間なんだよね。なんとか成功してほしい。
リオ、がんばれ!!
治療を始めてからだいたい5分ぐらいが経過した。治療はまだ続いている。
ボクの方はあと半分くらいかな?普段とは違って少しずつ魔力を消費しながらか細くかけつづけている。このあたり、魔力操作はかなりできるようになった証拠だね!これもリオのおかげなんだ。そのお礼を、今してあげれることに感謝している。
そして、ボクの残り魔力量が1割を切ろうとして、魔力枯渇の状態になりかけた瞬間、ボクの頭の中に別のイメージが流れ込んでくるような気がしたんだ。
···これは?
何もない真っ白な空間にポツンとボロボロな噴水があった。元は立派な噴水だったのだろう。かっこいい竜の彫像は壊れていて、その隙間からちょろちょろしか水が出ておらず、噴水の池もひび割れて水が溜まっていない。荒れてひどい状況だ。
ここはどこなんだ?見たことのない場所だ。
すると、どこからかアイリさんの声が聞こえてきた。
『アキさん!?まさかリオの魂の器に入り込んだのですか!?』
「えっ?ここってリオの中なんですか?よくわからないんですけど?」
アイリさんはここがリオの魂の器だと言っている。ということは、このボロボロの噴水がリオの魔力の源泉なのかな?
『そうですわ。目の前の噴水がリオの魂の力を具現化したものなのですわ!これを修復できればいいのですが、私の力では完全に修復できそうにないことが判明してしまいましたわ。しかし!アキさんがその場に入れたのなら解決できそうですわ!今使われている回復魔法をやめれば戻ってこれるはずですわ。一度戻っていただきまして対策を立てましょう!』
「はい!わかりました!では戻りますね」
そうなのか、ボクがリオを助けてあげられそうなんだね!よかったよ。これで少しは恩返しできそうだ!とりあえず元の世界に戻ろうか。
そうして元の世界に戻ったボク。目の前には疲労困憊状態のアイリさんと、ぐっすり眠っているリオ(まだ拘束中)がいた。
「お帰りなさいませ。まさかアキさんがリオの魂の器に入れるとは思いませんでしたわ。それもあなたの創作魔法ですの?」
「いいえ、アイリさんのいう通り鎮静の回復魔法を使っていたんですよ。それで魔力枯渇近くなった時に頭の中に別のイメージが流れ込んできたんです。そうしたらリオの魂の器にいました」
「···どういうことかしら?鎮静の魔法にはそういった作用はないはずですし。もしかしたら私の魔法と合わさったことで副作用としてそういった事が起きたかもしれませんわね。これは日を改めて再度挑戦してみる価値はありそうですわね」
「そういう事なんですね。じゃあ、次回もボクに協力させて下さい!」
「それはこちらからお願いすることですわ。リオを助けるために協力をお願いいたしますね」
そして夕食となった。リオはその時間には起きてきたけど、ボクが魂の器に行ったことはわからなかったそうだ。という事は、リオの意識と魂の器は別物って事になるかな?ヘタにいじってリオがおかしくなったら困るし。
ある意味今日の実験は大成功だ。治療方法の目途がたったのは非常に大きい。ただ、アイリさんが回復魔法をかけられる時間は非常に短い。その間にボクはリオの魂の器の修繕作業を行わなければならない。でも、どうやって修繕したらいいかわからないんだよね。
「アイリさん、魂の器の修繕作業って具体的にはどうしたらいいんですか?」
「そのままの意味で修繕でよろしいですわよ?」
「えっ?それはどういう意味ですか?」
「ですからそのままですわ。ひび割れしているのであれば石材と石膏などの材料を持ち込んで割れた部分の石と取替えればいいのですわ」
···どういう事?実験前に石材屋さんで石を仕入れて、それで魔法を使った際にボクの意識と一緒に修繕資材を持ち込んでリオの魂の器でガーデニングやれって事?
そんな物理で治せるの?魂が?う~ん、これも創作魔法ゆえの自由度なのだろうか?いまいち納得できないんだけど。
「力仕事が厳しいなら兄さんも一緒に連れてってあげて下さいな」
「おう!そうだな!力仕事は任せろー!!」
「げっ!?カーネまでオレの魂の器に入ってくるのかー!?オレ、魂壊されちゃうかもなぁー」
「そうならないようにボクがちゃんと治してあげるよ!ガーデニングはやったことないけど、やってる人は見たことあるから!」
「それが一番怖いんだけどなー。でもアキしか頼れる人いないし、よろしく頼むぞー」
「私は頼れないとでもいいたいんですの?ちゃんとお膳立てしてあげたのにひどい言い草ですわね!」
「アイリは何の説明もなしにいきなり拘束したりしただろー!?信用できるわけないぞー!」
また始まったよ。でも仲がいいんだなぁ~。
さて、明日以降も学園帰りにリオの治療を行うことになったよ。カーネさんが石材屋さんに頼んで修繕物資の調達をするようだね。ボクもどこまでできるかわからないけど、できる限りのことはしてあげようっと!
なんとアキくんの創作魔法で『物理的』に魂の器を治すという、土木作業なのかファンタジーなのかわけわからん!と思うでしょう。
でもいいんです!治ればいいんですよ?
魔法を行使している中で『土木作業して治す』というイメージを具現化しただけなんですからね。
さて次回予告ですが、いきなりリオの魂の器を治すことはしません。
石材屋さんに発注かけて納品までは時間がかかるんです!現実世界でも一緒ですね。ホームセンターなんてエーレタニアには『まだ』存在しませんから。
ということで、アキくんの学園でのお話です。新たな事実が発覚するか!?




