2-5.さようなら?リオ
昼食で満腹になったボクは、昼から武術の授業を受けることになり、指定された講義室へ行く。講義室には10人程度がいて、ボクが入るとジロッと見られたけど、あんまり興味がないのか話しかけられることはなかった。
う~ん、気まずいなぁ。まぁ、短期間だけだから友達にはなりにくいのかもしれないんだけどね。適当に空いてる席についたらアピアさんがやってきた。アピアさんが講師なんだね。
「はーい、みんな!それじゃ武術についての講義を始めるわよ。その前に、今日から短期留学でひとり増えたからね!アキくん?短めでいいから自己紹介をしてくれる?」
教室中が一気にざわめいた。てっきりかわいい女の子だと思ったら男の娘だった!信じられない!という顔をしている女の子もいたよ。
···もう好きにしてくれ。
「はい。皆さんこんにちは、アキと言います。旅をしていて武術を学ぶために短期留学しました。短い間ですがよろしくお願いします」
特に拍手はなかった。みんな呆然としちゃってるからね。まぁ、印象は強烈だったようで名前はすぐに覚えてもらったよ。
さて、武術の講義は心得のようなものだった。
そもそも武術自体は攻撃術だ。相手を攻撃してダメージを与えて倒すのが目的なんだよね。
相手を傷つける行為ではあるけど、使いようによっては襲い掛かってくる人に対抗する術でもあるんだ。要は使いようだって事だね。
ボクが習得するのは後者の襲い掛かってくる人に対抗する術なんだよね。もしくは逃げ方だね。
力は使い方次第で凶器にもなればほかの人を救う手段にもなる。だからこそ、間違った力の使い方をせずに正しく守るための武術を教えてもらおう。
そんな感じで講義は終了し、今日のカリキュラムはすべてこなした。特にやることも今のところないので領主邸に帰った。
そして帰ってみると、領主邸でとんでもない『惨劇』が行われようとしていたとは全く思ってなかったのだ···。
「やめろぉー!!アイリー!!これ外さないと、ぶっとばすぞー!!」
···なんだか聞いてはいけないセリフを聞いてしまったかもしれない。領主邸に戻って自分の客室に行こうとする途中の部屋からリオの絶叫が聞こえた。
「外したら逃げるじゃありませんか?それがわかってるから付けてますのに」
「どうしてオレの魂の器の回復実験で拘束されるんだー!?しかも魔法封印の刻印までされてる拘束具じゃないかよー!!ヤバい事する気マンマンだろー!?やめろーーー!!」
「まぁ、なんて失礼な!あなたの事を思って高額な実験機材(拘束具の事だった)を取り寄せて事前準備も万全ですのよ?やめるわけにはいきませんわ!」
2人がケンカしているね。どうしよう?この部屋に入っていく勇気ないんだけど···。
でも、どういった実験をするかは興味あるから見てみたいって気もしてるんだよね。
ダメだったら追い出されるだけか。とりあえず入ってみよう。
···入ったら顔が真っ青になって泣きながら叫んでるリオが、手術台っぽい台の上に足4本すべて拘束具をつけられて、大の字に寝かされて身動きが取れなくなっていた。そしてアイリさんは白衣を着て手袋をしており、今から手術する気マンマンでリオに迫っていた。
「あのー、ただいま帰ったんですけど、いったい何やってるんですか?」
「アキ!?ちょうどよかったぞー!すぐにこの拘束具を外してくれよー!!アイリに殺されるーーーー!!」
「あらアキさん、お帰りなさいませ。夕食はもう少し後ですから、それまでは客室でごゆっくり休まれてくださいね。私はこれからリオの『実験』を行いますのでしばらく手を離せませんの。お相手ができず、ごめんなさいね」
「···いえ、相手はいいんですけど、どんな実験なんです?」
「えっ?見ての通り手術ですわよ?まずは頭を開いて···」
「わーーーー!そ、そんな事するつもりだったんですか!?魂の器って脳みそ見ないと治せないんですかーーー!?」
「ナ、ナンダッテー!?オレ、頭ぱっくり開けられてしまうのかーー!?やめてくれー!!死んじゃうー!!」
「ふふっ!というのは冗談で、特殊な回復魔法を頭にかけて魂の器の回復を促すんですよ。かなり集中しますし、リオもかなりの痛みを伴うので拘束しただけなんですけどね。
魔法は封印しておかないと、器が回復した際に魔力が暴走してはいけないので、その対策ですけど?」
う~ん。アイリさん、実験と称してリオをからかってない?結構大がかりだけど。
でも、アイリさんの言う通りならこの状態は正しいんだけど、ちゃんとリオに説明してないような気がするぞ?
「そういうことだったんですね。ほんと、見た時はビックリしましたよ」
「ふふっ、確かにそう見えますわね。さて、思いのほか準備に時間がかかったので早速始めましょうか!」
「や、やっぱり実験は勘弁してくれー!オレ、このままでも生きていけるからぁーーー!!」
「は~い、大丈夫ですよ~。『(死ぬほど)痛くない』ですからね~。痛かったら手を上げて下さいね~」
「拘束してるのに上げられるかー!!アキー!助けてくれぇーー!!」
なんか歯医者さんみたいな事を言ってるなぁ~、アイリさん。しかし、歯医者さんもそうだけど痛いのは嫌だよね?ボクも痛みを緩和できるよう回復魔法使ったほうがいいかな?
「アイリさん、ボクも回復魔法使ってみましょうか?リオの痛みを多少やわらげれるかもしれませんし」
「そうですわね。本来は複数の術者が同系統の魔法を使うと思わぬ副作用が出てしまう可能性があるのですが、まぁリオですから大丈夫でしょう!お願いしますわ」
「え~っ?本当に大丈夫なんですか?」
「死んだらその時ですわ!ちゃあんと蘇生してあげますので安心してくださいな!」
「おぉぅ~、オレもうダメかもしれんなぁー。アキー、最後まで一緒に旅できなくてゴメンなぁー。とりあえずさよなら言っとくぞー」
どうしよう?めっちゃ判断に迷うよ。
でも、創作魔法はイメージが大事なんだ!リオを大切な相棒だと思って回復魔法をかけてあげれば、『絶対大丈夫!』だと信じてあげればいける!と思うんだよ。
「リオ、安心してってまでは言えないけど、ボクだってリオを助けてあげたいんだ。ボクにはリオに今できることが回復魔法だけだから、それでリオのためになるんだったら協力したいんだよ」
「う~、アキがそういうならお願いするぞー。痛くしないでくれよぉ~」
「うん!頑張ってみるよ!」
「話はまとまったようですわね?では始めますよ!アキさん、回復魔法のイメージですが、鎮静剤と同じようなイメージが最適かと思いますわ。それをイメージしながらリオの頭の裏側に手を潜らせて、私の回復魔法が終わった後でもできる限り続けれるようにして下さいね」
「わかりました。微力ではありますが精一杯努めさせていただきますね」
リオ。痛くないようボクも頑張るよ!元気なリオと一緒に旅したいからね!
アイリさん、『実験』と言いながら真剣にリオの事を考えていました。
ただ、この兄妹はリオをからかうのがとても楽しくて面白がってますので、こういうやり取りになっちゃうんですね!
さて、治療はうまくいくのでしょうか?気になる方は明日の投稿をお楽しみに!




