14-8.ハルが里に来た経緯
「チパさん?話せるようでしたら聞きたいんですけど、ハルを拾った経緯ってどういったものなのですか?」
「···経緯ねぇ~。まぁ、そんな大層なもんじゃないさ。···ハルには実を言うと、ウソを教え込んでるけどね」
「···えっ?ど、どういうことです!?」
「···実の親から預かったんだよ」
「···えっ?どうしてウソを?」
「···それをハルの両親が望んだからさ。詳しくは聞けなかったけど、『私達は追われている。もう逃げ切れないから、この子を匿ってほしい。この子には捨てられてて拾われたと伝えて欲しい』ってね」
「そうだったんですね。ハルのご両親はその後は?」
「···わからないね。ただ、翌日に見知らぬ男が里にやってきたよ。『整調者だが、ここに捨てられた獣人の赤子がいるだろう?出してもらおうか』ってね」
「············」
「···私はそこで気付いたさ。この子を追ってるということは、あの両親とこの子は『世界の叛逆者の一族』だってね。でも、赤子には関係ない話さね。
『確かに預かったが、すでに衰弱しきっていて、預かってすぐに亡くなったから火葬済みだ』って答えてやったら、確認もせずにすぐに帰ってしまったよ」
「そんな事が···。その整調者さんは罪もない子どもや赤子まで討伐することに躊躇してたと聞きましたから、もしかしたら知ってて気付かないフリをしたのかもしれませんね」
「···そうかもね。まぁ、今となってはもうどうでもいいさ。···アンタと結婚したって事は、神にもバレてるって事だしね」
「そうですね。神様からは祝福の言葉をいただきましたよ。『新しい歴史を作ることを期待する』って」
「···そうかい。···私はハルにすべてを教えた。預かった経緯を考えると、この先の未来で普通の力では太刀打ちできないだろうってね。修行に耐えれるなら生き残れると考えたのさ。···予想以上に習得したのは驚いたし怖かったよ。もう、私が教えれる事もなかったから、お守り代わりに私の武器を与えたのさ」
「そうだったんですね。改めて、お礼を言わせて下さい。ありがとうございました」
「···お礼を言われることはしてないさ。すべては『そういう運命だった』って事さね。ハル自身が選択し、勝ち取った未来なんだよ。そういう意味ではアンタもハルの運命を変えた1人なのは間違いないね」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。ハルを幸せにしてあげるのが、今のボクの義務ですから」
「ははは!ハルはいい旦那を見つけたね。···私が言うのもなんだが、あの子を頼むよ。子を持つことができなかった私が親代わりっぽくしていたけど、育ての親ではあるからね。しっかりと言わせてもらうよ?」
「はい!···って言っても、いつもボクは守られる方が多いですけどね」
「それで充分さ。守るものを持ってる者の方が強いのは世の理さ」
ハルの真実を知ってしまったね。まさかそんな経緯だったなんて思いもしなかったよ。
本当にハルが勝ち取った運命だったんだ。そして、ボクもハルの運命を変えたい、守りたいと思って結婚したんだ。···その選択は決して間違ってなかったよ。
この里に来ることができて良かったなぁ~。改めて、ハルを幸せにしようと誓ったんだ。
こうして、夕食会は終わったんだ。子どもたちも、里の人たちと穏やかに話しながら、楽しく過ごしていたようだったよ。
ただ···、一人を除いて。
会場を出て、ボクたちはコテージに戻ろうとしたら、コテージの前にヨウくんがいた。
「···あれだけやられて、まだナツに用?···邪魔」
「···悪かったよ」
「············」
「俺はこれから旅に出る。世の中にはお前のような強い者がいるって知ったし、どこまで俺の力が通用するか試す」
「············」
「···次に会った時は、今度こそ正々堂々叩きのめしてやる!」
「···いいよ。···やれるものならね。···ただ、覚えておいて。···その時までにナツも強くなってるから」
「···上等だ!次こそはその減らず口ができないようにしてやるからな!あばよ!!」
そう言ってヨウくんは去っていったよ。なんだか完全にナツをライバル認定しちゃってるね。それに対してナツも挑戦を待つ!って宣言しちゃったね。結構気があうんじゃないかな?
そう思ってると、ナツはこうつぶやいたんだ。
「···あんなのがナツの彼氏になるの?···なんでお兄ちゃんやリナみたいにならないの?」
「はぁっ!?ナ、ナツの彼氏ぃ~!?それは絶対にダメだよ!!おれは認めないよ!あんなヤツ!!」
「ナツ?慌てなくってもいいんだよ?ヨウくん以外にもいい男の子がいるかもしれないしね」
「···わかってる」
「ナツにはもっといい彼氏ができるって!」
「···フユ?···前にユキちゃんに嫉妬したナツみたいになってるよ?」
「えっ!?···あ~、あの時ナツが抱いてた感情がコレだったのかぁ~。···ちょっと気持ちわかっちゃったわぁ~」
やっぱり双子の兄妹なんだなぁ~!今度はフユがヨウくんに嫉妬しちゃってるよ。お互いブラコン・シスコンなんだなぁ~。まぁ、それは今のうちだけだろうけどね。
「ははは。さあ、今日も疲れたでしょ?ゆっくりとおやすみ」
「「うん!パパ、おやすみ!」」
そうして子どもたちは仲良く寝ちゃったね。さて、チパさんに聞いた話をハルにした方がいいのかなぁ~?捨てられたのじゃなくて、両親からお願いされて預けられたって。
「···ハル?寝る前にちょっとだけいいかな?」
「···なに?···さっきまで師匠と長話してたみたいだけど、もしかしてその話?」
「うん···。正直なところ、これは話していいのかまだわからないんだけど···。ハルの両親の話が聞けたんだ」
「···そう。···やっぱり私が捨てられてたってのはウソだったか」
「···気づいていたの?」
「···なんとなく。···こんな寒いところで赤ちゃんが長く生きれるはずがないし。···いくらなんでもムリあるなぁって思ってたよ」
「話しても大丈夫?」
「···うん。···もう私の正体はわかっちゃってるからね。···もう何が起きても驚かないかな?」
「そう。じゃ、チパさんから聞いた話だと、ハルはご両親からチパさんに匿ってもらうようお願いしたんだって。『もう逃げきれないから』って」
「···そう。その後に私の親は整調者に···」
「そこまではわからないって。ただ、整調者が里に来た時に、チパさんは『亡くなって火葬した』って言ったらあっさり引き上げちゃったんだって。おそらく見逃したんだと思うよ」
「···アイリさんの話からするとそうだろうね。···私は幸運だったね。···いろんな人に助けられて、今幸せに暮らしてるから」
「···ボクもその手助けができて幸せだよ。いつもありがとうね。改めてこれからもよろしくね!」
「···うん。···頼りにしてるね」
やっぱりハルは気づいていたんだね。悲しい過去だったけど、今、ハルは幸せに暮らしている。
···この姿をハルのご両親が見たら喜んでくれてるだろうね。かわいくて強い子どもたちもいるしね!
会う事はできなかったけど、ハルのお父さん、お母さん。ハルはボクが幸せにしますね!暖かく見守って下さいね。
ハルちゃんの過去が明らかになりました!
チパさんの機転によりハルちゃんは助かったのですが、実はこの時点で神狼族の討滅を命じた神もハルちゃんが死んでない『可能性』がある事を承知してました。このあたりは本編完結後の番外編で補完しますので、ご期待下さい!
そして、フユくんも嫉妬持ちであることが判明しました。双子なのでお互いが大好きなんですね~。若干行きすぎなところもありますが···。
さて次回予告ですが、雪を初めてみた子どもたちなので雪で遊んでみよう!ということで大はしゃぎします!子どもらしい一面をみせつつ、やっぱりちょっと違うなぁ~?という感じがしますけどね。
明日は夜勤のため、朝に投稿します。お楽しみに~!




