14-7.寝言は寝てから言え!!
ブートの里に入ったとたんにボクたちを襲った隊長さんたちがナツに試合を申し込んできた。
ナツはものすごく嫌な雰囲気を出して強烈な毒舌を食らわせていたんだ。
そして案内された来客用コテージにてちょっとくつろいだら試合だ。
「···ナツ。さっきあの隊長を煽ってたけど、ナツも少し興奮してる。···言ってる事は正しいけど、ナツ自身も同じだからね」
「···わかってる。···でも、あの態度はイラッっとした」
「まぁ、確かに奇襲仕掛けて跳ね返されたのに、正々堂々と正面からやっても勝てるわけないのに勝つ気でいたらなぁ~。おれもちょっとどうなんだろう?って思ったよ」
「でも、あんな啖呵切るって事は、なにかあるんじゃないかな?」
「···そんなのはない。ただのバカなだけ」
「まぁ、油断せずにほどほどにしてあげてね」
···多分だけど、ナツはあの隊長さんを『彼氏』に見立ててるんじゃないかなぁ~?
フユとリナにいい関係の子ができて焦ってるんだろうね。好きでもないのに彼氏として見ちゃって、あの不甲斐なさから怒ってるんだろうと思うよ。
···もしくっついちゃったらナツに尻に敷かれるのは確定だな。案外いい関係になるかもね?
そして道場にボクたちはやってきた。中にはすでに多くの人がいたんだよ。もちろんチパさんもいたよ。
「···悪いね。ヨウが勝手な事を言い出しちまって。···でも、私も子どもたちの実力を見てみたいってのもあったので止めなかったよ。···まぁ、煮るなり焼くなり好きにしてやってくれ」
「師匠!?俺が負ける前提で話さないで下さい!」
「···ふふっ。···あんた自身もいい経験にもなるだろうさ。···手加減抜きで最初から全力でやりな。10秒もたないよ?」
「···!わ、わかってます!おい、女!覚悟はできてるな!?今度こそ叩きのめしてやる!!」
その言葉を聞いたナツはプッツンしてしまった!!
「···寝言は寝てから言え!!」
「···な!?」
「···そっちからかかっておいで。···全力で。···ナツが遊んであげる」
···ナツがキレたのを初めて見たよ。しかも、すぐに冷静さを取り戻したね。たぶん、自分を抑えようと必死になってるんだろうなぁ~。
隊長さんはヨウくんっていうのか。さっきのナツの威圧を受けてちょっと怯んじゃってるね。これもナツの作戦かな?
そして試合は始まった。
すぐにヨウくんは姿を消した!···どこに行ったか全然わからないぞ?
すると、ナツは半歩右へ動き、その跡に投げナイフが刺さっていた!
···ナツは後ろ見てないよね?どうやって気づいたんだろう?
その後もナツは前後左右に半歩だけ移動して投げナイフを避けていった。そして、床に刺さった1本を抜いて···、右斜め後ろの天井に向けて投げた!
「うわっ!?」
えっ!?そこにいたの!?全然気づかなかったよ···。
ヨウくんは床に着地して、そこにナツが首元に投げナイフを突きつけた。そして、今までボクが見たことのないような冷え切った目でこう言った。
「···この程度?···じゃ、次はナツが本気出してあげる。気を抜くと···、死ぬよ?」
「くっ!?」
ヨウくんは後ろに飛んで間合いを取った。一方のナツは···、
「暗殺技、裏空蝉」
ナツはヨウくんに向かって歩き出した。これってチパさんの得意技で、カーネさんも負けかけた技だよね?
「···ナメてんのか!?師匠の得意技を知らないわけないだろ!?本物は、後ろだぁ!」
「···残念。ハズレだよ」
「なっ!?ぐぁっ!!」
確かにヨウくんの後ろにナツはいたよ!?でも、本物は歩いていた方だったのか!
「く、くそっ!空蝉にそんな技があったなんて!」
「···知らなくて当然。···これはナツのオリジナル技だから。···ママも知らない」
「なっ!?」
「···パパの剣術と組み合わせた。···ママの技をすべて知ってるから普通の空蝉と思い込んだ。···それが敗因」
「う〜〜〜〜!!」
「···じゃ、次はナツの家族が使う技を見せてあげる。···秘技、螺旋斬」
···ナツは本気だったね。まさかハルの技を応用した技を見せちゃったよ。これにはハルもビックリしてたね。
そして、ボクが変身した時に使う、某ゲームの剣術をすべて見せちゃったよ···。
ヨウくんはもうボロボロにされちゃってたね。プライドもボロボロにされたかも?
そして、ナツが最後の技を繰り出す直前に
「そこまで!!···ははは!すごいじゃあないか!?私の暗殺術に剣術を組み合わせただって!?その幼さでよく考えついたもんだよ!···いや、幼いからこその発想と言ったところかな?···とてもいいものを見せてもらったよ。ありがとな」
「ハァッ!ハアッ!し、師匠!?」
「···気は済んだかい?···アンタは確かにこの里で現時点で最強だよ。でも、それは里の中だけの話さ。世界は広い。まだ見ぬ強者がたくさんいるのさ」
「···はい。身を持って体験しました」
「···もうお前に教える事はないね。里を出て、これからは自分の力だけで生きてみな」
「そ、そんな!?師匠!俺はまだ学びたい事があるんです!」
「···私が最後に教えるのがこれだ。『世界へ出て自ら学べ』。以上だ」
「し、師匠···」
「···さて、せっかくここまで来たのだから、ちょいと私が相手してやろうかね?···ナツ?まだやりきってないだろう?私でガス抜きしてやるよ」
「し、師匠!?」
「···いいの?···ママのお師匠さんの稽古、楽しめそう」
「···はははっ!楽しむってかい!?いいねぇ~。···なんだかナツを見てると、ハルを鍛えた時を思い出すねぇ~。体格、視線や体の動き、そして性格と言葉遣い。···ハルにそっくりだよ。···全力でかかっておいで。久々に私も楽しませてもらうよ!」
「···じゃ、お願いします」
そこからはナツは楽しそうにチパさんとやり合っていたよ。···これで体調崩してるの?本気のナツの攻撃を、いともたやすく躱してるんだけどね。
「···なかなかいい動きじゃないか。技の精度、キレ、速さ、力。この里を出る直前のハルに匹敵するね。···いや、見知らぬ剣術を使えるだけ上だね。···その幼さでよくここまで身につけたもんだ。きっと教え方がよかったんだね。
···あとは経験と、精神だね。それはこれからじっくりと時間かけてゆっくりやっていけばいいさ」
「はぁ、はぁ。···やっぱり攻めきれない。···さすがママの師匠だね」
「···ふふっ。長生きして経験があるだけさ。···ナツもいずれこうなるさ。じゃあ、次はフユ!やるかい?」
「はいっ!!よろしくお願いします!」
「···ふふっ!いい気合いだね。ナツと同様、全力でかかって来な!」
次はフユがチパさんとやり合った。ナツと同様にフユも、それはもう楽しそうにしていたね。
「···ナツとはスタイルが異なるけど、なかなか太刀筋がいいねぇ。ただ、ちょっと素直すぎるね。ナツのようにフェイントを織り交ぜるともっと良くなるよ。私の技もなかなかうまく使いこなしてるじゃあないか。これはこの里の連中では荷が重かっただろうね」
「はあっ、はあっ。あ、ありがとうございます!」
「ねぇ、ハル?チパさんってあれで本当に体調崩してるの?」
「···少なくとも、私が里を出る前に比べたら衰えてるね。···それでも現役時代の半分程度だったらしいけど」
「···そりゃ、カーネさんが負け寸前まで追い詰められるわけだよ」
そして、フユの稽古も終わった。この後、チパさん込みで夕食をいただいたんだ。その時に弟子さんたちが子どもたちやハルに話しかけていたよ。
本当はフユとナツに試合を申し込まれていたんだけどね?さっきのチパさんとナツとフユの稽古を見て『これは勝てんわ···』って思っちゃったみたいで、試合はやらなかったよ。逆に実力があると認められたようで、楽しく話をしていたよ。
さて、ちょうどいいかな?チパさんに聞きたかった事があったから、聞いてみることにしたんだ。
イライラが絶頂に達したナツちゃんがマジギレしました!普段のナツちゃんは自身の性格の特長を活かすべく、ハルちゃんから感情を抑えるように教育されているので、ここまでの激情を見せることはありません。よっぽど怒っちゃったんですね~!
ちなみにこちらのセリフは作者が応援している作家さんの小説の決まり文句から引用させていただきました。まぁ、向こうはあいさつみたいなものですけどね。
チパさんは最初からこうなるとわかりきってました。ナツちゃんとフユくんの実力を見ただけで把握してました。だからヨウくんに本気でやれ!とアドバイスしています。まぁ、ムダでしたね···。
この後、ナツちゃんとヨウくんはどういった関係になるのかもご期待ください!
さて次回予告ですが、アキくんはチパさんにハルちゃんを拾った経緯を聞いてみました。すると思ってもない真実が語られたのです!その真実とはいったい···?
お楽しみに~!




