14-6.ブートの里
グロー歴514年9月1日 晴れ
昨日は特に国の中で見るものはなかったので、せっかくだったからご当地食材をたっぷり仕入れておくことにしておいた。
ここだけでしかとれない魔獣のお肉とか、それ以外にも『よくわからないけど見たことのない新鮮そうなお野菜』とかも仕入れることができたよ。シチューとか鍋とかの煮込み料理にもってこいかな?
今日はハルが育ったブートの里に行く事になった。どうもハルのお師匠さんがハルに会いたいんだって。
もとから行くつもりだったからちょうどよかったよ。どんなところか見たかったしね!
今は雪が積もった山に向けて進んでいるんだ。『雪に閉ざされた里、ブート』って言われてるそうだけど、年中雪が積もってるんだね。
···そして、ここの近くでハルは実の親に捨てられちゃったんだね。確かにこんなところに捨てられたら、まぁ生きてるとは思われないよね。ハルが強かったのが幸いだったよ。
「···もうすぐ里の入口だよ。···今のうちにもう1回言っておくけど、命の保証はないからね。···どこから襲ってくるかわからないから」
「うん。···まぁ、ある程度は覚悟してるけどね。大丈夫だと思いたいんだけどなぁ〜」
「···ワナは私で対処する。よかったらナツたちもする?」
「···ナツはやるよ。アクロのダンジョンである程度のワナは回避できるから」
「じゃあ、一番危ないのはリオだね。一番うしろにいる方がいいんじゃない?」
「あー、そうだなー。···なんだかパーティー組んでた時と同じ扱いだなー」
「やっぱりそうだったんだ···」
「それでもワナを発動させてしまったんだなー。そのたびにアイリに叱られ、他の連中には笑われたからなー。あー!今思い出してもムカつくぞー!」
「もう昔の事でしょ?···って、アクロのダンジョンでもハルがいても全部発動させちゃったからなぁ~。大丈夫かなぁ~?」
「···静かに。···ここからが大変だよ」
どうもハルによると、すでに里に入ってるらしいんだよ。何の目印もないからわからなかったよ···。
山中に入り、足元にも雪が積もっていた。そういえばこの世界に来て積もった雪の中を歩くのって初めてかな?
子どもたちも初めて積もった雪を見ておおはしゃぎ!ってなりたいんだけど、すでにワナ警戒モードだったよ。アクロのダンジョンで鍛えられちゃったんだろうね···。ある意味ボクよりもプロになってない?
そうして進むと、やっぱりワナがあったんだ。ハルと子どもたち全員が気づいて、ボクとナナ、そしてリオはまったく気づかなかったよ···。
そして、ワナを回避して進むこと30分。ついにボクたちはブートの里に到着したんだ。今回はリオは引っかからなかったよ。途中でケンがリオの後ろについて注意していたからね。
そして、里の入口でボクたちは里の人の手荒い歓迎を受けた!
いきなり冬季迷彩である真っ白な服を着た8人に襲いかかられた!うち2人はバックアタックだ!
「···甘い」
「···バレバレ」
バックアタックはハルとナツがすぐに対応した!あとは目の前の6人に対応するよ!
ただ、ボクとナナとリナはあんまり近接戦闘向きじゃないんだよ!そこはリナが防御結界を張ってフユがカバーに入り、けん制している間にリオとケンが対応した。
戦闘自体は2分弱で終わったよ。うちらの子どもたちは本当に強いわ···。
「ふぅ〜。本当に命の危険があるとは思わなかったなぁ〜」
「···アキは甘いよ?···私があれだけ言ってたんだからウソのわけないじゃない」
「信じてなかったわけじゃないんだけどね。まぁ、なんとか切り抜けれてよかったよ」
「ママの技とか戦い方だからよく知ってたしね~。おれたちじゃなかったら大変だったと思うよ?」
「···そだね。···フユもよくやった。···さて、ちょっと話聞いてみようか?···そこの少年でいいか。···隊長は誰?」
「···お、俺だ!···お前ら!な、何者なんだよ!?流し斬りが完全に入ったはずなのに···!里のワナを全部回避されてこれだけ強いなんて!しかも、里の技を使ってるなんて!!」
「···里出身だからワナを知ってて当然。···技だって師匠から仕込まれたんだから使えて当たり前。···私はハルって言うんだけど?」
「ハ、ハルだって!?ま、まさか!?」
「···やっぱ知ってたか。···師匠が会いたいって言ってるってテリーから聞いたから来たんだけど?···案内して」
「···わ、わかったよ。ついて来い!」
こんな小さい子なのに隊長なんて、相当強いんだろうね。でも、ハルとハルに仕込まれて技を習得しちゃったフユとナツの敵ではなかったなぁ〜。
案内されたのは里の奥の方にあった道場っぽい建物だったよ。そこに入ると···。
そこには小さな老婆がいた。···もしかして、この人がハルのお師匠さん?
「···来たね。···思った以上に立派になったじゃあないか?···あれから11年近くかね?」
「···そだね。···師匠も元気そうで良かった」
「···ふふっ。もう私は本当に引退だよ。寄る年波には勝てないってね。···ここ最近調子も悪くなりだしたし、そろそろお迎えが来るかもしれないね」
「···冗談。お迎えなんか、怖がって誰も来ないよ」
「···言うようになったね。···そばにいるのがお前の子だね?···世界に出ていい出会いがあったようだね。···幸せに暮らせているようでよかったよ」
「···そうだね。···紹介するよ。···私の夫のアキ。···そして双子のフユとナツ」
「初めまして。アキと言います。ハルの夫として、ハルを支えています。お会いできて光栄です」
「初めまして、フユです」
「···ナツです」
「···そう言えば名乗ってなかったね。···私はチパ。···外の世界の連中は『伝説の暗殺者のチョッパ』なんて言ってるようだけどね」
「ボクはあなたにお会いして、お礼が言いたかったんです」
「···お礼?···覚えがないね。···人違いじゃないかね?」
「いいえ、あなたがハルを拾ってくれたおかげで、今のボクたちがいるんです。ハルを救ってくれてありがとうございました。ボクたちは今、幸せです」
「···そうかい。···あの時の気まぐれが、こんな結果になって返ってくるなんてね。···思いもしなかったよ。···ハルは子どもたちにも私の技を伝えたんだね?···見ただけでわかるよ」
「···そんなのがわかるんだ。すごい」
「ママが優しく教えてくれたからね。役に立ってます!」
「ははっ!暗殺術が役立つ?自衛手段でだろうけど、馬鹿言っちゃいけないよ。『人を殺しやすくする術』だよ?今は役立ってるのかもしれないけど、使い方を間違えたら闇に堕ちるよ。悪いことは言わないからやめときな」
「···そんな事は百も承知。間違った使い方はしない。···やったらママのお仕置きが怖い」
「···ははは!そうかい!お仕置きが怖いかい!···まぁ、警告はしたよ?
···あとは間違った使い方をしないように自分を抑えることだね。···人間ってのは力を持ってしまうと、『どうしても使いたくなってしまう』もんだからね。
···今後は精神を鍛えな。···特に『怒った時でも常に冷静でいる』こと。···それだけでも大違いさね」
思ったよりいい人だね。チパさんって。フユとナツに力の使い方を諭してくれたよ。
ボクたちは今日はここで1泊することになったよ。
ただ···、予想してたように里の人たちがフユとナツに試合を申し込んできたんだよ。
言い出しっぺはさっきの隊長の少年だった。
「おい!そこのお前ら!さっきはやられたが、正式に勝負を申し込む!」
「···さっき奇襲でナツにやられたのに、試合で勝てるって本気で思ってるの?···バカなの?」
「さ、さっきは油断しただけだ!今度こそ叩きのめしてやる!」
「···やっぱりバカだ。···襲いかかるのに油断する時点で暗殺者失格。···ママだったらおしりぺんぺんのお仕置きをされるね」
「な、なんだと〜!!」
「···そして、ナツが煽ってあげたら怒って冷静さを失うのも失格。···さっき、ママのお師匠さんも言ってたし、先日はナツがそうなってママに怒られた」
「ナツ?別にいいんじゃない?おれはやってもいいよ。絶対勝つんだから」
「···お兄ちゃんがそう言うなら相手してやってもいいよ。···ありがたく思ってね」
「絶対に叩きのめしてやる!!覚悟しておけ!!」
そう言って隊長さんは去っていった。
今日のナツは毒舌が絶好調だったなぁ〜!きっと襲われたことを根に持ってるんだろうね。それに、フユも素で隊長さんを煽っていたね。気づいてないだろうけど。
···気のせいかな?ちょっとだけナツがイライラしてたような気がするんだけど?
という事で、あとで道場で試合をすることになったんだ。
ハルちゃんのお師匠さんであるチパさんが登場しました!この話も以前から書きたかったお話ですね。
あとは里の警備隊長の少年を煽るナツちゃんでした。ナツちゃんは結構毒舌家なんですが、思いっきり煽ってますね(笑)!フユくんもさりげなく煽ってました。フユくんには自覚ありませんけどね。
さて次回予告ですが、ナツちゃんに勝負を挑んだ隊長くんは、ナツちゃんを挑発します。すると···!
ナツちゃんがマジギレします!!マジギレさせてしまった隊長くんの運命はいかに!?
お楽しみに~!




