14-5.なんでこんなところにいるの!?
グロー歴514年8月33日 雨
今日の天気は日中雨のようだね。まぁ、ボクの撥水魔法は魔力共有でうちの家族全員にかけることができるし、リオ一家は全員竜気で雨を弾くから雨具いらずだ。
雨の日でもあんまり関係なく進めるのは非常にありがたいね!雪は多分ダメだろうけどね。
「よーし!今日も魔獣を見かけたらぜーんぶ倒していくぞー!これも経験だからなー!」
「「「「おーーー!!」」」」
リオが気合を入れて、子どもたちはやる気マンマンだね。さて、今日も1日元気に行ってみよ〜!
午前中だけで80体ぐらい倒しちゃったね···。しかも見つけたらあっという間に殲滅しちゃうから、ボクたちの行軍速度はほとんど変わってなかった。
意識の共有のおかげで、子どもたちはもう普通の魔獣だったら無双状態になっちゃったね。あとは数が来た時に対応できるか?ってとこか。
このあたりは大人になっても難しいだろうけどね。とにかく今は経験を積むのが大事だ。
そして午後もドンドン進んでいき、今日の宿場町に着いたんだけど···、全滅していた。
襲われたのはだいぶ前のようだったけど、あんまり見ていいものじゃなかったね。誰もおらず、ゴーストタウンになっていたんだよ。どうも放棄されてしまったっぽいね。
子どもたちもショックを受けていたね。今までこんな町は見たことないだろうからね。
「みんな、仕方ないから今日はここで廃屋にお邪魔してキャンプにしようか?」
「···うん。おれたちが間に合わなかったって事じゃないよね?」
「そうだよ。昨日ああ言ったけど、全部救えるとは思っちゃダメだよ。こういう事になっている場合もあるんだからね」
「ねえ、パパ?パパが整調者の時って、こんな町はあったのかしら?」
「たっくさんだぞー。今の町みたいに兵士がいなかったところがほとんどだったからなー。オレたちだって助けれる人は助けたけど、助けられなかった人はそれ以上たくさんいたなー」
「パパもつらい思いをしたんだね···。アキパパ?この周辺に魔獣っていっぱいいるの?いるならぼくたちで片付けてくるよ?」
「その心配はいらないよ、ケン。ここを襲ってきそうな魔獣は周辺には見当たらないからね。その気持ちだけで十分だよ。ありがとう」
···つらいかもしれないけど、これも経験だ。こういう現実もあるって知ってるだけでもだいぶ違うからね。
グロー歴514年8月34日 曇
今日も魔獣を倒しながら北へ進んでいったんだ。···なんだか時代劇の御老公様の旅のような気がしてきたなぁ〜。ボクたちは3倍の9人パーティーだけどね。
ただ、子どもたちは昨日の惨状を見てしまったせいか、さらに積極的に魔獣を探して倒すようになってしまったんだ···。暗黒面に落ちないといいんだけどね。ここは少しリオと一緒にフォローしておこう。
そして、ついに北の小国スルタンに到着したんだ。
ここスルタンは林業がメインの国だそうだ。ここから北にはもう雪が積もった山が見えるんだよ。だいぶ北の方にやってきたね。元の世界だと北欧みたいな雰囲気かな?
まずは入国審査を受けよう!兵士さんが外壁の外の警備をしているからここは大丈夫そうだね。
ここで、ハルがちょっとした事に気づいたんだよ。
「···あの兵士たち、里出身だね」
「えっ?そんな事がわかっちゃうの?」
「···警戒の仕方でわかった。···あとは視線の動かし方、かな?···すでに向こうも私が里出身だって気づいてるね」
「すごいところなんだね?ブートの里って」
「···そうだね。···でも、私はそこで育ったから、里を出て初めて気づいたけどね。···ここは私が冒険者登録した国なんだよ」
「そうだったんだね。懐かしい?」
「···あんまりそういう気にはならないかな?···私にとってはただの通過点だったから」
「そうなんだね。じゃあ、審査を受けようか!」
ハルはあんまり懐かしいって気分にはならないようだったよ。そう言えば先代整調者だったテリーさんも、ハルは『ボクと出会って変わった』って言ってたっけ。変わる前のハルってボクは知らないけど、ハルが言わないなら聞かないほうがいいよね?ハルから話したくなったら聞いてあげよう。
審査は全員何事もなく通過できたけど、ハルだけはちょっとだけ変わってたんだ。
「ほう?あなたが師匠が言っていた獣人か。どういった用件で来たのだ?」
「···特にないね。···アキたちと一緒に家族旅行。···他に理由いる?」
「···いや。問題ない。ようこそ、スルタンへ」
「···師匠は元気?」
「ああ。もうだいぶお年ではあるが、壮健だ」
「···そう。···それじゃ」
審査官も里出身だったのか···。ということは、ここは結構軍事力があるってことだね。だから魔獣が多くても対処が今のところできているって事だね。
さあ、まずは宿を確保しようか!ハルによると、ここも冒険者ギルドのすぐ近くにあるらしいね。
国の中は林業が盛んなだけあって、家はすべてログハウスっぽい家ばかりだったね。ただ、人口はそんなに多くないようで、すべて平屋で急勾配の屋根の家ばかりだったよ。
屋根を急勾配にすることで、屋根に積もった雪が自重で地面に落ちる仕様になってるんだね。元の世界でもそういう家が多かったけど、最近は落雪で巻き込まれないように敢えて平らな屋根にして、建物の排熱で雪を溶かす仕様の家もあるらしいんだよね。北海道に住んだことないから聞いただけだけどね。
宿は大きな建物じゃなくて、コテージみたいに小屋1つ借りる形式だったよ。そんなに大きな家が建てられないからだろうね。
それでも広さは結構あったから、全員で小屋1つで済んじゃったよ。キッチンがあったから、ボクが料理してみんなに食べてもらった。今日の料理はもちろん鍋だ!寒い日はこれが一番だよね~!
食後にボクは、ここスルタンについてハルに聞いてみたんだ。
「ハル?もし知ってたらでいいんだけど、ここって何か見どころってある?」
「···特にないね。···確か林業が盛んだから木で作った工芸品とかが有名だったかと。···あとは大型魔獣の素材かな?」
「そっかぁ〜。じゃあ、あんまり滞在してもつまんないかなぁ〜?」
「アキー?お隣が冒険者ギルドだから、一応魔獣の情報と、何か緊急依頼あったら受けるかー?」
「そうだね。ちょっとだけ覗いてみようか。ハルもいいかな?」
「···いいよ。···日帰りだったら受けてもいい」
という事で今日はゆっくりして、明日冒険者ギルドに行ってみようか!それじゃあ、おやすみなさーい!
グロー歴514年8月35日 曇
今日は冒険者ギルドに行ってみよう!情報を仕入れるのも大事だからね。
朝食はボク特製のモーニングプレートだ。ここのコテージは食事がついてないからね。だから、ここで食材も仕入れておきたいね。
リオ以外がボクの朝食を食べた後、みんなでギルドへ行ったんだ。リオの朝食?『お寝坊のリオは朝食抜き!』ってナナが怒っちゃって、今もリオのしっぽを引っ張りながらギルドに向かってるんだよ···。
ギルドに入ると···、受付にはなんと!あのテリーさんがいたんだよ!なんでこんなところにいるの!?
「おっ!?やあ、ハル。久しぶりだね」
「···こんなとこでなにしてるの?」
「なにって、受付だけど?なにかおかしいかい?」
「···仕事しつつ、普段はカモフラージュか。···テリーらしいね」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいね。まぁ、最近の『お仕事』は人ではなく魔獣ばかりになってしまってますからねぇ〜。退屈で退屈で···。おかげでこの国は今のところは安全ですよ」
「···そう。···真っ当に生きてるならいいよ。···なにか緊急依頼ある?···日帰りなら受けるよ?」
「そうですねぇ〜。ここから南にある宿場町が襲われたってのがありますよ?」
「···それはもう片付けた。···死者なしで完了してるよ」
「さすがはハルですね〜。でも証明がないから報酬を渡せないですねぇ〜」
「···そう言ってあとで渡す気でいるね?···別にいいけど」
「さすがにお見通しですか。あとは特にないですねぇ〜。王都のすぐ北の魔獣の件も収まったという情報もありますが、それもハルたちのおかげなんでしょうね」
「···ムーオの手下だったよ。···しかも別の世界の神って知ったよ。···こうやって生きてるだけでも不思議だった」
「···そんな事が。これは私の不徳とするところでしたね。どうも最近動きが活発化してきてるようですよ?もしかしたら次代の整調者の選定があるかもしれませんね?」
「···そう。···情報はこんなものかな?」
「ああ!言い忘れてましたよ。先日里に顔を出してハルに会ったと言ったら、師匠があなたに会いたいそうですよ?せっかくここまで来たのだから、里に寄ってはいかがですか?」
「···考えとく」
「そうですか。まぁ、ハルの好きにしたらいいですよ」
冒険者ギルドで想定外の情報のやりとりをしちゃったね。ハルの師匠かぁ〜。呼んでいるならちょっとごあいさつには行ってみたかったから、ちょうどいいかな?
久々に登場したテリーさんでした!
こういった隠密系の人たちって、日中は一般人として、夜間は本業として!ってのが多いですが、ダブルワークってきつくないんでしょうかね?作者はムリですけど(笑)。
さて次回予告ですが、テリーさんからハルのお師匠さんが会いたいと言ってると聞いて、ブートの里へ向かいます。ただ、里は結構ワナなどが多いようで、無事に里へたどり着けるのでしょうか?
お楽しみに~




