12-20.リオ、『最高傑作』の料理を作る! 前編
グロー歴514年8月11日 晴れ
今日はオルさんとネータさんが領主邸に来てくれるようだ。夕食後にジーンからムーオの情報を伝える事になっているんだ。
それまでは時間があるので、アイリさんが常時回復魔法を子どもたちに教えていた。···なんだか某最後の幻想のゲームで出てくる魔法っぽい気がするのはボクだけ?この世界で知ってるのってボクだけだけど。
そしてリオは···、昨日ボクが励ましちゃったせいで気合を入れてコック帽にエプロン姿だった!
「よーし!!これからオレの本気を見せてやるぞー!!みんなに喜んでもらえる料理をおみまいするぞーー!」
···そこは『振る舞うぞー!』だと思うんだけどね。失敗フラグを無意識に立てちゃってるなぁ~。某シェフと一部同じ事言ってるし。
···そして、ボクはナナに朝から思いっきり睨まれてるんですけど。だって、そうしてあげないとリオがかわいそうだったんだから!って理由は聞いてくれないね。命かかってるんだから。
仕方ないので、ナナだけに別に全員分昼食がこっそり用意されてるって教えておいたよ。大喜びしたけども、何か複雑だなぁ~。
料理ができるお昼ごろまでは少し時間があるので、ボクは来期の授業の資料作成をすることにしたんだ。···一度子供たちを学園へ連れて行ってあげようかな~?今は夏休み期間中だから授業はないんだけど、寮住まいがほとんどだし、サークル活動とかはやってるから多くの学生は学園にいるはずだ。
子どもたちのやる気次第だけど、学園に通わせようかな?と考えてるんだ。エーレタニアでは学業は義務じゃない。お金とやる気があれば学園に来てしっかりと学び、国や研究機関などで活躍するって事になるんだ。それ以外にも、友達を作るというのも人生の財産になるからね。···どちらかというと、勉強よりもそっちが大事かな?
とりあえず、何を学ばせようかな~?ある程度の基礎学力についてはボクがしっかりと教え込んで、8歳だというのに中学卒業程度の学力がすでにあるんだ。もうこの時点でお店を出したり国とかに雇われてしまうぐらいなんだよね~。でも、あの子たちはおそらく冒険者になるんだろうね。となると物理かな?さっきアイリさんの障壁で魔法を逸らしたときに『物理を学んでない』って言われちゃったからなぁ~。おそらく今興味津々なんだろうなぁ~。後で聞いてみるか。
そんな事を考えてるとあっという間に時間は過ぎて、もうすぐ昼食の時間だ。さて、リオはどうなったかな?誰もボクのところに駆け込んでこないって事は大惨事にはなってないって事かな?···それも問題だけど。
とりあえずボクは食堂にむかった。中に入ると···、非常に重い雰囲気だった。まだテーブルにはリオの料理は並んでいないんだけど、かなり絶望感が漂う雰囲気だった。カーネさんとアイリさんを除いて。
「···え~っと?みんなどうしたの?」
「···アキパパ?なんでパパを煽っちゃったのよ?せっかくおいしい料理をいただけるのに、なんでパパの料理を食べさせられちゃうの!?」
「さすがにぼくもちょっと困るんだけどなぁ~。パパの料理がほとんど成功しないって知ってるでしょ?この前のキャンプの時は毒になっちゃってたし」
「う~ん···。リナとケンの言う通りなんだけどね?そうやっていつまでも料理させなかったらず~っととんでもない料理しかできなくなっちゃうんだよ。これも『経験を積むため』だから、みんな協力してあげてよ」
「アキパパの言うことはよ~くわかるんだけどね?万が一命に関わる料理だったらわたしは逃げるからね!」
「う~ん···。あんまりボクは言いたくないんだけどね?アイリさんがリオの料理が失敗した時用の昼食を用意してもらってるんだよ。だから、本当にどうしようもない時は後でちゃんと食べれるから、リオには内緒にしておいてね!」
「なんだ~···。よかったわ。とりあえずお昼は食べれるのね?···いや、よくないかしら?今から逃げたほうがいいかも?」
「よかったよ···。お昼抜きをぼくは覚悟してたからね。だったら気楽にしてるよ」
かなり渋っていたリナとケンを説得したところで、リオがカートを押しながら食堂に入ってきたんだけど···。カートには大皿4枚にギリギリ乗っている巨大なパイ包みが『バァァーーーン』とあったんだ!
···いったい何を包んでいるんだろう?パイ自体はいいきつね色に焼けているように見えるんだよ。···問題は中身だ。リオは自信満々の笑みを浮かべてこう言った。
「待たせたなー!今日は最高傑作の料理が出来上がったぞー!!オレもびっくりするぐらい上手くいったんだー!!4つも作ったからたくさん食ってくれー!」
「え~っと、リオ?これは何のパイ包みなのかな~?」
「···なんだったっけなー?とりあえず無限収納カバンと厨房にあった素材を使って作ったことに間違いはないぞー!」
「···姉ちゃん。逃げようか?」
「···そうね。この時点でアウトだわ」
しかし、食堂の入口はリオが作ったパイ包みのカートで塞がれていた!しかもその前にはリオ本人がいる!
···逃げられない!!それはボクたちも一緒だった。今回のリオは本気だった。顔が真っ青になるボクたちに対してカーネさんとアイリさんは冷静だったよ。
「ほほう~!リオの料理はとんでもない出来だと聞いていたが、そうは見えんなぁ~。当たりハズレが大きいとの事だが、今回は当たりを引いたかな?」
「見た目は普通のパイですわね?においも特段おかしいことはなさそうですわね。あとは味ですわね。これで食べれないものでしたら···、わかっていますわね?」
「わからないぞー!そんな事にはならない自信が今回はあるからなー!先制攻撃はこれだー!」
「今まで見たことないぐらいの自信ですわね!いいでしょう。早速いただきましょうか?」
『先制攻撃』って、ちょっと···。まずは1皿目のパイだ。中は···、いもと何かよくわからないひき肉が入っていた。コロッケ仕立て?パイじゃないような気もするんだけど···。
警戒しながら食べようとするボクたちを放っておいて、カーネさんとアイリさんが先に食べてしまった!!···お、お味はいかが?
「ふむ。特に変なことはないな。ただ、こんなパイは食べたことがないが、食べれないことはないぞ?」
「かなり変わったパイですが、味は悪くないですわよ?本当にいつもはハズレなんですの?」
「···あれ?これは食べれるよ、姉ちゃん」
「···ホントだ。不思議な料理だけど、意外といけるわ」
「今日は当たり料理だったのね!うん、不味くはないわ。いつもこれぐらいだったらいいのにねぇ~」
「···まだだよ、ナナママ。安心するのはまだ早い」
「あと3つもあるんだけど、大丈夫なのかなぁ~?おれ、逆に不安になってきたよ~」
「おおーー!高評価をいただいたぞー!!作った甲斐があったなーー!!確かにうまいぞーー!」
1皿目はとりあえず食べることができるパイだった。2皿目はどうなんだろう?
「···ナニコレ?何かが丸ごと入ってるんだけど?リオ?何入れたの?」
「おー!これなー!!レイスの市場で買ったよくわからない名前の魚を入れてみたんだーー!!」
「···あの~?リオさん?下ごしらえってしましたかね?ボクから見てもそのまま入れてそうな気がするけど···」
「···?したごしらえ?ってなんだー??」
「···そう言えば魚を捌いたことなかったね。昔ボレンで釣りした時はボクがやっちゃったから知らなかったかぁ~···」
ボクとリオのこの言葉を聞いてカーネさんとアイリさん以外は全員顔が青ざめた···。失敗作確定の瞬間である!
ボクたちは手がつけられなかったため、カーネさんとアイリさんが今回も先に食べたよ。そして二人同時に叫んだ!
「「ウロコとってないし固いし苦い!!ゴラァ!!リオォ!!何てもの出すんだぁ!!」」
「ええーーー!?ダメだったかぁー!?どれどれー···。うぐっ!!固いし苦いぞー!?なんだー?このジャリジャリしたものってーー!?」
「内臓取ってないでしょ?小魚はいいけど、大きな魚は内臓取らなきゃダメだよ~~!!ウロコも取ってないし、小骨が多すぎたね···」
「はぁ~~、やっぱりこうなったわね。わたし、食べなくて正解だったわ」
「なんでパパはよくわかってない食材を入れたがるんだろうね?ぼくにはわからないよ···」
「青竜であるあたしは多少魚は慣れてるけどね?アンタ!魚使うのはいいけど、わからないならアキとかに聞きなさいよーー!!あたしらを実験台にするなーーー!!」
「わーーーー!!ごめんよーーー!!とってもおいしそうだったから使ってみたかったんだよーーー!!」
結局はボクとカーネさんとアイリさんが一口食べただけで終了した。
2品目は失敗作···、ではなく『実験作』だった!!これは想定外だったよ···。基本的にリオは味見しないからなぁ~。
ついにカーネさんとアイリさんもリオの料理の腕を把握したみたいで、3品目が出る直前に全員顔が青ざめていた。
このあと、地獄の後半戦がボクたちを襲った!!
今のところは1勝1敗でしたね(笑)。これでも成功確率は高い方です。
リオくんは基本的にレシピを見ないでフィーリングで料理をしちゃうので、非常に博打になっちゃってます。でも、創作料理ってどれもそうなんじゃないでしょうか?ちゃんと味見とかはされてるでしょうけどね!
さて次回予告ですが、リオくんの料理後半戦です!
そしてタイミング悪くオルさんとネータさんがやってきてしまい、リオくんの料理の餌食になってしまうのです···。
明日で第12章は完結ですので、朝に本編、昼にネタバレ集、夜に設定資料集を投稿します。お楽しみに!




