10-11.マジで台風に突っ込むの!?
「嵐に突っ込むかもしれない···」
「···へ?もうわかっちゃうのかー?」
「···うん。ほら、天気予報アプリで天気図と雨雲レーダーを見たら、等圧線が同心円状になってるし、雲が渦巻いてるからまともに台風に突っ込んでいってるよ」
「···そうなのかー?いまいち見方がわからないからなー。って、タイフウってなんだー?」
「強い雨雲が渦巻いて暴風が吹き荒れる嵐の事だよ。天気図の見方とかは今度また授業してあげるからね」
「うっ!そ、それはちょっと遠慮したいかなー?」
「···でも、もうどうすることもできないよ?船長さんもわかってるんじゃないのかな?」
「さすがにこんな手前だと気づかないかもしれないわよ?まぁ、あたしたちが言ったところで変更しないでしょうから、このまま任せておきましょ」
その通りなんだよね···。仕方ない。明日の昼頃がピークのようだね。···明日の昼に台風の目って事なんだけど。
とりあえず船酔いも落ち着いたことだし、みんなと話しながら市場で買い込んだ串焼きとかを軽く食べてその日は早めに寝ることにした。
明日は早朝から大荒れだろうからね。寝られないだろうから睡眠時間を確保しておかないとね!おやすみなさーい!
グロー歴505年3月18日 雷雨(大荒れ)
···アプリの予想通り、大荒れの天気だよ。波の高さは···、4m以上ありそうだよ!?船首の部屋だからなおさら縦揺れが酷い!!
身体強化6倍にしてるけど、それでも立ってはいられない!寝ててもフワッと浮いてズシーン!って沈むのをず~っと繰り返しているんだ。身動きのとりようがないんだよ···。
それでも船は進んでいるようだ。···元の世界のフェリーの船員さんも、波が高くても平気な顔してまっすぐ歩いてるのを見たことあるから、もはや体のつくりが違うんじゃね?って失礼な事を思ったことあったなぁ~。ボクには今世でもマネできそうにないよ。
放送設備もないから、今どういう状況なのか?レストランってやってるのか?まったく情報がないからわからないんだよ···。この大揺れでレストランへ歩くのも難しいしね。
でも!トイレだけはどうしようもない!!我慢の限界を迎えて、なんとか四つん這いでたどり着けてヘヴン状態ぃ~!になったけどね。これは大変だぞ!?
「みんな、大丈夫?これじゃあ食事もできないよね···。身体強化6倍でもしんどいよ~」
「あー、こんなに揺れるとさすがにしんどいぞー。···メシはちょっと入りそうにないなー」
「食いしん坊のアンタがそういうなんて珍しいわね~!···って、あたしもちょっとキツいわぁ~」
「···私はなんだか楽しいけど?地上だったらこんな揺れは体験できないしね。今日もひとついい勉強になった」
「···ハルは強いなぁ~。···そんな前向きなハルもかわいいよ~」
「···アキ?···そういう事は身内だけでも恥ずかしい。···思うのはいいけど、言葉で出さないで」
「···はい、ゴメンナサイ。ちょっと気分が滅入ってたので、つい口に出ちゃいました···」
ハルに怒られちゃったよ~。でも、そんな怒った表情もかわいいんだけど。
そうそう、ベッドの振り分けだけど、ボクとリオが下段で、ハルとナナは上段を使ってるよ。ボクが酔いやすいってのがあるからいつでもトイレに駆け込めるようにするためだよ。
一方のリオは···、もう言わなくてもわかるよね?寝相が酷いので上段だと落っこちるからだ。現にさっきまで頭が床で体は仰向けでベッドっていう逆さま状態だったからね。···よくその体勢で熟睡できたね。ドラゴン族って体強いからなんだろうけど、頭に血が上らないのかな?
結局朝食はみんな摂れなかった。···揺れはさらに酷くなってきたよ?大丈夫?沈没しないよね?
万が一の場合は変身して超長距離転移で脱出するけどね。地図アプリで転移ができるか確認したら、現在位置だったら変身しなくてもエイテ帝国の首都レイスには戻れそうだった。
あと、さっきから揺れているけども、単純に縦だけの揺れじゃないんだよ。横もあるから、ゆっくりと時計回りでぐるぐる回ってる感じかな?周期としては···だいたい7秒ぐらいかな?
···あれから2時間が経った。ようやく揺れが収まってきたよ。でも、これって台風の目に近いみたいなんだよ···。本当に台風の中心に突っ込んじゃったね。とりあえず船は無事なようだ。
揺れが収まったせいか、廊下が騒がしくなってきた。みんなトイレ我慢してたんだね···。ボクも今のうちにトイレに行こうと廊下に出たら、船の中央から大声が聞こえたんだ!
「幽霊船だぁーーーー!!もうおしまいだぁーーーー!!!」
···え?···幽霊船?『おしまい』ってどういう事?···これもトラブルだったのかぁ~?船酔いでフラフラなのに勘弁して欲しいよぉ~。
ザワザワしだした廊下を後にして、ボクは部屋に戻ってさっきの幽霊船の話をしたんだ。
「···幽霊船か。そんな話は冒険者ギルドではなかったね」
「このあたりの船乗りのお話かしら?よくわからないけど、なんかマズい事になってるのはわかるわ」
「どうするー?オレたちでその幽霊船ってのをなんとかするかー?」
「う~ん···。今の情報だけだとどう判断していいかわからないね。ちょっと話を聞いてみるとしようか?」
というわけで船室を出てレストランにやってきた。船員さんも混乱してるようで、
「お客さまの中で冒険者の方はいらっしゃいませんかぁ~!?もしくは魔獣退治は任せろ~!って方はいらっしゃいませんかぁ~!?」
···なんだろう?飛行機の機内で急病人が出た時に医療従事者の方に協力を仰ぐような声掛けしてるぞ?
あ~、これだとボクたちが該当しちゃうなぁ~。とりあえず話だけ聞いてみるか···。
「あの~、ボクの妻が冒険者なんですけど、どういった状況なんですか?」
「えっ!?本当にいてくれたぁーーー!!これで助かったも同然だよ!!ありがとう!!」
「ちょ、ちょっと待って!?まだ受けるって言ってないですよ!?」
「拒否したらみんな死んじゃうんだよ!?『はいっ!!』しか選択肢ないでしょ!?」
「だからって!!決めつけないで下さいよ!?こっちだって命張ってやるんですから!!」
「···確かにそうだね!ああ、状況だったね!幽霊船をなんとかしてくれないと船が動かないんだよ。だからなんとかしてくれ!」
「···さっぱりわからん!あの幽霊船って何なんですか?」
「この近海に伝わる伝説なんだよ!嵐の中心に浮かぶ幽霊船に出会ったら生きては帰れないっていう伝説があるんだよ!状況からしてあれがそうなんだよ!父さんは間違ってなかったんだ!!」
「···あなたのお父さんは生きて帰れたんでしょ?『生きて帰れない』って伝説がおかしいような気がしますけど?」
「細かいことは気にしちゃいけない!今回こそはダメかもしれないからね!」
「要するにわからん!って事ですか···。はぁ~···。ちょっと相談しますね」
「あんまり時間なさそうだから早めに乗り込んでくれよな!」
···全く情報が得られなかったよ。めっちゃリスク高いんですけど?···どうしようかなぁ~?
「···アキ?···なんだか疲れた顔してるけど、何かわかった?」
「···何もわからない!ってことがわかったよ。ただ、あの幽霊船をなんとかしないと船が動かないみたいだね」
「···じゃ、乗り込むか。ナナに乗せてもらったら、この風の状況なら行けるよ?」
「そうするしかないかぁ~。あんまり乗り気じゃないけど、どうにもならないんじゃしょうがないか」
「おー、あの船にいったい何があるんだろうなー?お宝とかあったらいいんだけどなー」
「···リオはお気楽だね?とりあえず乗り込んでから考えるか···。ナナ、頼める?」
「ハルがやる気ならいいわよ~。あとでたっぷり謝礼もらいましょ!」
···幽霊船に乗り込むなんて、某RPGのイベントじゃあるまいし。本当に幽霊が出ませんように!
作者は太平洋で非常に発達した低気圧の影響で、本作と同じ状況を経験しましたね。トイレは室内でしたけど、ハイハイしないと行けないぐらいでしたね。
そんな大荒れの中、「大きく揺れてますので、大浴場の営業は終了させていただきました~」って冷静に放送があったんですよ。立ってられないぐらいなのにどうやって放送してるの?って思いましたね。
船酔いする船員さんもいるらしいですが、強靭な足腰が求められるのかな?と思ってしまいましたね。
さて次回予告ですが、アキくんたちは幽霊船に乗り込みます!ただ、ここにはとんでもない魔獣がいたのです。どんな魔獣だったのでしょうか?
お楽しみに~。




