9-12.ボクとハルの決意
ハルは神狼族の最後の生き残りだった。
かつての整調者によって討滅されてしまったという悲しい歴史があったそうだ。
···ボクは心の中で整調者は世界を救う救世主みたいな存在だと思っていたんだ。いわゆるヒーローみたいなものだと『勝手に』思っていたんだよ。
でも、この話を聞いて愕然としてしまったんだ···。
確かにリオは『世界の調和を崩すものがいたらそれを討伐する』と言った。
調和を乱すのが、神狼族だったと言うことなんだね···。でもどうして···?
「どうして神狼族は討滅されてしまったんですか?力を持ったからというにしては過激な対応に聞こえるのですけど···」
「神狼族は『他種との子を作ると両親の力を継承し、強くなるという特殊能力』があるのですわ。
しかも、生まれた子は混血にも関わらず神狼族の特徴しか発現しないという恐ろしい能力もあったのです。
もちろん一族のすべてがそうではないのですが、一部の者は整調者の力まで手を出してしまったようです。
そうすると、神に依らない、神すら手出しできない存在が誕生してしまう事態に気づいた神が、やむを得ず緊急処置的に可能性を潰す目的で討滅を指示したようですわね。
先代は指示通り討滅を完了させましたが、『これが本当に正しかったのか、何も罪のない赤子や子どもまで討滅した事に今でも疑問に思う』と言ってましたわ」
「···そんな特徴があるんですね。でも、ハルはそこまで強い存在じゃありません。確かにさっきは変身っぽい変化でカーネさんと渡り合いましたけど」
「その結果から、ハルさんは過激派の神狼族ではないんでしょうね。
ただ、やはり戦闘能力は他種族よりも段違いですわ。この年齢で兄さんと互角の時点でありえないですし、爆発的な力を発揮できる『トランス』状態になれるのも考えられないのです。成長しきってないと発現しないはずなので。
これは私の予想なのですが、最後の一人となってしまったがために種の生存本能が強烈に発現してしまったのでは?と思われますわ」
「···もし神様が、ハルが神狼族の最後の生き残りと知ったら、ハルはどうなってしまうんでしょうか?···答えによっては、ボクは神様と対立する覚悟です」
「···なんとも言えないというのが私の見解ですわ。
ただ、アキさんは神より能力を与えられてこの世界を楽しんでもらうと聞きましたので、回避手段としても『結婚する』というのが得策だとは思います。
···卑怯な手法であることは謝罪させてもらいますわ」
「···わかりました。対応についてはゆっくりと考えさせてもらいます。ハル?それでいいかな?」
「···うん。私も混乱している。···私が何者なのか?がわかったけど、これからどうしたらいいかは、いつもよりも考えたい」
「···わかったよ。一人で考え込まないでね。ボクに何ができるかわからないけど、そばにいるから」
「···うん。ありがと」
微妙な空気の中、みんなで夕食を摂って、ボクはハルと一緒に客室に戻ったんだ。
ちょっと話を整理するべく、ボクはハルに話しかけたんだ。
「ハル、今の気持ちはどう?ムリしてない?」
「···うん。ムリしてるのかはわからないけど、大丈夫だよ。
そうだね···。まずは私の親を探す必要はなくなったってのはありがたい情報だった。不毛な旅をすることになるからね。
···私が冒険者になった理由の1つだったんだよ。だから、本当の意味で自由になったかな?」
「ハル?本当にムリしてない?辛い事だと思うけど···」
「···うん。むしろ聞けて良かったよ。それに、私の強さの秘密も知れた。
···もしかしたら、師匠は私が怖くなったのかな?技を全て習得しちゃったからね」
「···その場にいなかったからボクにはわからないけどね。でも、もしかしたらそうかもしれないね」
「···これからどうしたらいいかな?私としてはアキと一緒にいたいんだ。でも···、さっきアイリさんが言ったように神が私を狙って、次の世代の整調者を仕向けてくるかもしれない。···そうしたら、私のそばは居るだけで危険なことになるんだ。
その時にみんながキズついてしまう事が···、一番怖いんだ」
「気持ちはわかるよ。もしボクがハルの立場だったら同じように考えちゃうね。
···ここからはボク個人の意見だけどね?ボクはそんな事はどうでもいいと思ってるんだ。
ボクがハルを守る。襲ってくるなら追い返す!···その気持ちは、今後も変わらないよ」
「···ホントにそれでいいの?死んじゃうかもしれないんだよ?」
「ボクはもともと1回死んじゃってるしね。もちろん元の世界で、だけど。でも、ハルを守って死ねるなら本望だよ。
もし、ハルがやられちゃったら、ボクも一緒にいくよ。行先が地獄でも、付き合うよ!」
「···ありがとう。そこまで言ってくれる人って今までいなかったよ」
「ははは、ボクもなぜか不思議なんだよね〜。一緒に寝ちゃった3日前までは、こんな気持ちにならなかったのに、今は自然とそう考えられるんだよ」
そう、だからこそこの言葉が自然と出てきたんだ。
「ハル。こんな頼りないボクだけど、一緒になってくれるかな?」
「···はい。よろしくお願いします。···頼りにしてるね」
···初めてのプロポーズって、緊張するもんじゃないかな~?と思ってたんだよ。
もちろん、人によると思うよ?
スルッと自然に言えちゃったんだよ···。ホントにビックリだわ。どうしたんだろう、ボク?
よく『元の世界で結婚できないヤツが異世界でも結婚なんてできるわけねぇだろ!』って言う人いるけど、そういうもんでもないね。ボクはできちゃったし。
さて、結論は出た!あとはアイリさんに話して、結婚式やっちゃおう。
家はアクロにもうあるからね。温泉地だし、もう終の棲家にしちゃえ!ボクの理想が現実になってるしね。
旅は続けよう。···って、家に帰るまでが旅行だから、今後は期間が不明な新婚旅行になっちゃうね!それはそれで楽しそうだよ。
後はハルが狙われないか?って事だけだ。こればかりはこちらから潰しにいくことができないんだよね~。
もう待ち構えるしかない。これからはボクも戦えるようにならないと···。
まずは得意な雷属性魔法のバリエーションをもっと増やそう。しびれさせてしまえば非殺傷でクリアできそうだしね。
そんな幸せな妄想をしつつ、夜も更けてきたので、ハルと一緒に寝たよ。
今日もグッスリ眠れそうだよ···。
おやすみなさーい!
付き合いだしてわずか3日でアキくんはここまでの決意を胸に告白をしました!
本作は恋愛ものではないので、イチャイチャ描写はほとんどなく、あっさりと結婚に至っています。
まぁ、作者が独身のおっさんで恋愛経験が残念ながら無いっていう残酷な現実があるんですけどね···。
あっさりと結婚まで行ってしまうのは故鳥山明先生の2作品のまんまです(笑)!もちろん参考にさせていただきましたとも!
そして神狼族の特徴から、アキくんたちに今後産まれてくるお子さんは混血ではなく純粋な神狼族なのが確定しました!神様が創ったのが最初はたった1人だけだったので、種族が繁栄しないためにそういうシステムが遺伝子レベルで組み込まれちゃってます。
これは神様が『男女作るのメンドクセ!恋愛は自由なんだから種族縛りなしで繁栄したらいいんじゃね?』って適当に考えてしまったからなんですね。
さらに、アキくんの能力までも受け継いじゃうのも確定しています。
どんなお子さんになるんでしょうね~?すでに舞台裏にある楽屋ではお菓子食べながら出番をもう待ってるんですよ(笑)!登場はちょっと先なんですけど、出たがりなので早めに楽屋に来ちゃってるんですよ!ご期待下さいね!
さて次回予告ですが、アキくんとハルちゃんの結婚式が行われます!
まぁ、身内だけなのでこじんまりとしてますけどね。そして、とある謎の人物からお祝いが届きます。
それでは明日の更新をお楽しみに~!




