9-11.ハルの出生の秘密
···ハルはもう全身ボロボロだった。深いキズはなさそうだったけど、見るに堪えられないほどのキズを負っていた。
ボクはもうこれ以上キズつくハルを見たくなかった!でも、今は真剣勝負中だ。止めちゃいけないとはわかっているんだ。···でも!やっぱりガマンできなかったんだ!
「ハル!もう終わりにしよう!これ以上はダメだよ!」
「···アキ、ごめん。···それ以上は言わないで。私は···、まだやれる!」
「でも!これ以上キズつくのは見てられないんだよ···。いくら回復魔法があるからって、そこまでしなくてもいいじゃない!?」
「···言わないで!!···まだ、試したいことが、あるの。···カーネさんだから、心おきなく試せるんだよ。···魔獣や、ほかの人だと、これは使えないから···」
「···え?···信じていいの、ハル?」
「···うん。最初に言ったでしょ?『本気の私』を見てって。···今から見せるよ」
「ハル!?まさか、アレを使っちゃうの?」
「···うん。とっておきの。ここなら後を気にせずに使えるから」
「ナナ?何なの?それって···」
「黙ってみてなさい。···ハルの本気を」
「ははは、まさか本気のオレにこれだけ長時間まともにやりあえる人間がいるとは思わなかったな。
しかも、年端もいかない少女ときたもんだ。さすがあの女の弟子なだけはある。···いや、もしくはそれ以上かな?
それに、最後の切り札まであるとは恐れ入ったよ。
では、その最後の切り札を切り伏せて、この試合は終了としよう。さあ、最後の勝負だ!切り札を見せてみろ!!」
「···じゃあ、いくよ」
そう言った瞬間、ハルの顔に見たことのない紋様が浮かび上がってきた!目の色も普段の茶色から金色に変わった!···えっ!?なに!?なにが起こったの!?···変身!?
その姿を見たカーネさんとアイリさんが驚愕の顔をした!いったいどういう事なの!?
「その姿は!?ま、まさか!?」
「···時間がないんだ。続きをやるよ」
「くっ!!」
ハルとカーネさんの姿がまた消えたんだ。ただ、今回は金属音がせずに重低音が響いていた。どうなってるんだ?
「リオ?どうなってるの?」
「···ありえねー。本気のカーネと殴り合ってるぞー。どんな身体能力なんだよー」
「···え?ハルがカーネさんと殴り合ってる?どうなってるの?」
「わからないぞー。ただ、あの雰囲気が変わってからは戦闘スタイルが全く違うんだ。今はまさにケモノのような動きをしているぞー。時折武器を使ったりしているけどなー」
「そうなんだ···。ハル、無茶しちゃって···」
そして3分程度過ぎると、二人とも姿を現したんだ。今度はカーネさんがボロボロにされていたよ···。
「ハアッ、ハアッ、···ここまでやっても、···攻めきれなかった。···もはや、···これまで、···だ、···ね」
「ハアッ、ハアッ、···まさか、···伝説の神狼族の力がここまでとは。だが、この勝負はオレの···、勝ちだ」
カーネさんが勝利宣言をした瞬間、ハルはその場で倒れてしまったんだ···。
慌ててボクはハルに駆け付けて、全力で回復魔法を使った。もうすべての魔力を使い切ってもいい!ぶっ倒れても構うもんか!!
ハルのキズはそんなに深いものじゃなかったから、ボクの全力の回復魔法できれいになったよ。ただ、気を失ったままだった···。いくら勝負だったとしても、心配だよ···。
ボクは気を失ったハルを抱えて客間に向かって、ハルをベッドに寝かせてあげた。アイリさんの話だと、一時的に体力を消耗したショックだから、1時間程度で目を覚ますとの事だった。
起きるまでの時間はとても長く感じられたんだ···。もう目を覚まさないんじゃないのか?って思うぐらいだったよ。
今のボクはハルがいない世界なんて考えられなくなっていたんだ···。
自分でも驚いているよ?まだ出会って2週間だけど、一緒に寝た3日前からはもうハルなしでは考えられなくなっちゃったんだよ。
あまりにも急すぎて、周りの人も信じられない!ってなってるけどね。ボク自身が信じられないよ。
アイリさんの言う通り、1時間ぐらいでハルは目を覚ましたんだ。
「···あれ?···アキ?···ここは、どこ?」
「ここは客間だよ。カーネさんとの試合でハルが倒れたから、ボクが回復魔法をかけて部屋まで抱えてきたんだよ」
「···そう。···やっぱりカーネさんは強かったよ。···私の隠していた力すら適わなかったね」
「···聞いちゃまずいかもしれないけど、あれって何なの?答えたくなかったら別にいいよ」
「···私にもわからないんだ。···ただ、いつも以上の力を出せるけど、3分ぐらいで力尽きちゃうから、普段は絶対に使えないんだ」
「そんな力があったんだね?だからリアたちと戦った時も使えなかったんだね?」
「···うん。もし使って逃げたとしても、時間が来たら全滅確定だったからね」
「なんだかカーネさんとアイリさんはハルのあの姿を見て驚いていたから、もしかしたら何か知ってるかもしれないね?起きれる?」
「···うん、もう大丈夫。···アキの回復魔法のおかげだね。···ありがとう」
「お礼なんていいよ。当たり前のことをしただけだからね!じゃあ、話を聞きに行こう」
よかったよ。特に異常はなさそうだね。
ボクはハルを連れて応接室へやってきた。すでにみんな揃って話をしていたね。ボクとハルもソファに座った。
「気が付きましたのね?その様子だと、アキさんの回復魔法がちゃんと効いてるようで安心いたしましたわ」
「···心配かけた。···申し訳ない」
「いや、本気のオレをあそこまで追い詰めたのはすごかったぞ。···おそらくキミの師匠よりも追い詰められたと言っても過言ではないな!だが、負けではないからな!」
「あの、試合の最後にカーネさんは言いましたよね?『伝説の神狼族』って。あれって何ですか?」
「それなのだがな···。ハルさんが聞きたいという事であれば話すのだが···。大丈夫だろうか?」
「···むしろ、私が聞きたい。···私は孤児なんだ。···だから、自分が何者かがわからない」
「···そういうことでしたのね。それならば納得ですわ。では、少し長くなりますが、ハルさんの正体について私が知る事すべてお話いたしますわね。
神狼族というのは、獣人の『元』一族でしたわ。一族は群れでの狩りを得意としていまして、種族自体で『共有』という固有創作魔法を持っている戦闘種族でしたわ。
ただ、何を共有するかは個人次第ですわ。さきほどナナさんから聞いたところ、ハルさんは魔力の共有だそうですわね?
この時点でハルさんは神狼族の獣人という事が確定しておりますわ」
「···そうだったんだ。初めて知ったよ」
「でしょうね。そして、おそらくハルさんは神狼族の最後の生き残りと思われますわ」
「えっ!?それって、どういうことなんですか?ハルが最後の生き残りって···」
「ここからは大変言いにくいのですが···。神狼族は先代の整調者によって一族全員が討滅されましたの」
「···どういう事なんですか!?ハルの一族全員が···、討滅なんて···」
「実は、神狼族は『神がかつて創った戦闘種族』で、整調者の制度を神が作るまで、荒れた世の中の悪を正すために創ったのですわ。
ところが、過剰な戦闘力を結果的に持ってしまったがために一部の神狼族が世界に牙を剥いてしまったのですわ。そこで、やむを得ず神は整調者に一族全員の討滅を命じてしまいましたの」
そんな···、そんな事があったなんて···。じゃあ、ハルは本当に天涯孤独って事に···。
ハルちゃんの種族が明らかになりました。
実はこの設定は、半分近くが書いてる最中にハルちゃんが指定してきたんです。
当初の設定だとトランス能力があるだけだったんです。魔力共有もハルちゃん自身が編み出した創作魔法だったんです!
それが!こんな壮大な設定にされてしまいました!種族名も当初考えてた元ネタの『リカオン族』から変わってるんですよ!
こんな勝手に設定を改変された事は、皇帝に勝手になっちゃったパスさん以来です。
本当に本作ではキャラが好き勝手やってますね~。調整する作者の身にもなって欲しいもんですよ。
でもね?キャラに全任せしてると、作者が当初思い描いていた物語よりも内容が明らかに良くなってるんですよ。困る時もありますけどね!
さて次回予告ですが、アイリさんからさらにハルちゃんの種族である神狼族のお話の続きから始まります。
ハルちゃんは自身の出生の秘密を知り、困惑してしまいますが、アキくんが寄り添って気持ちを落ち着けさせます。
そして!そこでアキくんは重大な決断を下します!もう何するかお気づきでしょうけどね!
ちょっと次回までドキドキするかもしれませんが、明日の21時過ぎあたりの更新をお楽しみに!




