9-6.ハルの過去
ボクとリオが身バレしないかヒヤヒヤしつつ、パスさんは皇国への誘致を成功したその間、ハルとナナは劇団員と情報交換をしていたよ。
やっぱり演者さんはハルの武器と戦闘スタイルについて熱心に質問していたようだね。確かにショートソードに銃の機構がついてるってまず見かけないし、しかも双剣だから珍しいよね。
一方のナナも、この大陸ではまずお目にかかれない青竜だ。『あたし主役の劇もみたいわね~』って言って、なんと青竜の姿も見せちゃってた!
もちろん、団員さんは大喜びだ!本物の青竜の姿と触感やサイズ感などをじっくりと観察して体感していたね。···ホントにナナ主役の作品が作られそうだよ。
そして宴もたけなわ、お開きとなった。
今回は劇団のテントには泊まらないよ!前回は危うくニーナのテントに泊まらされそうになったけど、今回は転移があるんだ。もう夜だし、さっとリオの拠点に帰って寝ることにした。
もちろん!ちゃんと出街審査を済ませてからだよ!門が閉まるギリギリの時間だったけどね。門番さんが心配してくれたけど、3人も冒険者がいるしドラゴン族のリオがいるから納得してくれたよ。
そして転移で戻ってからはまたひと悶着あったんだよ···。
「うふふ!さーて、今日もみんなで一緒に寝るわよ!って言いたいんだけど、アキとハルは小屋でゆっくりと過ごしてね!あたしたちは外でテント張るから」
「そんな気遣いはいらんわ!昨日言ったようにボクとリオが外に行くよ!これは決定事項ね!!」
「却下よ!せっかく今日の朝にOKもらってるんだから、実践しなきゃハルに失礼よ!アキは女の子の好意を無にしちゃうダメ男なのかしら!?」
「話を変えるな!···確かにハルの好意はうれしいよ。でも、だからってあからさますぎるでしょ!?」
「そんなことないわよ~。アキくん、いい?私たちはね、冒険者や旅人っていういつ死んでもおかしくない行動を取ってるのよ?
つまり、もしかしたら明日にみんなのうち『誰かがこの世から去っていてもおかしくない』の。
いくら他の人より強い力を持っていると言っても、先日ムーオの手下に手酷くやられたでしょ?あのまま全員この世から去ってもおかしくなかったのよ?
だから、やれる事はやっておかないと、後悔することになるのよ?
アキくん自身も『その時に思いつくできる限りのことを全部やろう』って以前言ったらしいじゃないの?まさにその通りなのよ。
···というわけで!アキくんが言ったその言葉に責任をとってもらおうね~!いや~今日は私も寝れなさそうだわ~!!」
···確かに言ったけど、そう意味じゃないんだけど?
結局押し切られてしまったよ···。パスさんとナナは一緒のテントに、リオは蹴っ飛ばされて追い出され、別のテントで寝ることになってしまった···。
どうして···、どうしてこんな事に···。
小屋の中ではボクとハルの二人だけになってしまい、ベッドの縁に座っていた···。え~っと、どうしたらいいんだ?
「あ、あの···、こんな事になっちゃったけど···、よ、よろしくお願いいたします···」
「···?やっぱり、アキ変だよ?···なんでそんなに顔が真っ赤になってるの?···ただ一緒に寝るだけでしょ?···緊張するような事?それじゃ眠れないよ?」
「い、いや!女の子と一緒に寝るだなんて···、は、初めてだからぁ~···」
「···?初めてじゃないでしょ?昨日も一緒だったでしょ?」
「そ、そうなんだけど!···そうなんだけどぉ~、なんていうか···、その···」
「···もう寝よっか。···明日も朝早いんでしょ?」
「そうだけど···、そ、そうだ!ちょっとだけ話を聞いてもいいかな?ちょっとだけ落ち着きたいんだ···」
「···いいよ。何が聞きたいの?」
「その···、話したくなかったらいいんだけど···、ハ、ハルの事を聞きたいんだ。ボクの話は聞いてもらったからね···」
「···そうだね。アキの話を聞いておいて私の話を聞かないってのはフェアじゃないね。···いいよ。ちょっとだけ長くなるかもしれないけど」
「···別に構わないよ。気にしないで話せる事だけでいいからね」
「···うん。···私って実は拾われた子なんだ。だから親は知らないし、正確な年齢も名前も知らない。
拾ってくれたのは私の師匠。ここからはるか北にある、雪に閉ざされたブートの里って所で育ったんだ」
「···ゴメン。聞いちゃいけなかったね。悪いことしたよ」
「···ううん、私が話したかったから問題ないよ。···もしかしたら、私は聴いてほしかったのかもしれないしね」
「···そうなの?じゃあ、続きを聞かせてもらえる?」
「···物ごころついた時には、私はすでに剣を持っていたよ。師匠は昔は凄腕の冒険者だったらしくて、現役を引退して道場を開いていたんだ。
私はそこで育ったんだ。そして私は師匠から直接、知識や技や身のこなし方、武器の使い方を教わったんだ。『自分自身を守り、そしてその腕で生きていくためだ』と言ってたね。
···どうやら、私は筋が良かったらしくて、あっという間に師匠の技とかを使えるようになったんだ。···師匠もビックリしてたね。
···そして、私は師匠が昔使っていた武器であるこの剣をもらって、道場を出ることになったんだ。
···後で知ったけど、師匠の道場は『暗殺者養成所』だったみたいだね。ある程度実力がついたら追い出して国とかに雇わせていたみたいなんだけどね。
···私は冒険者になったからそうはならなかったけどね。
···私が宛てもなくただ旅を続けている時に、道端でお腹空かして倒れていたナナと偶然出会ったんだ。
···今思えば変な状況だったけど、それからナナと親しくなって、一緒に世界中を旅しながら魔獣退治っていう冒険者稼業を始めたんだ。それが2年前···かな」
「···大変だったんだね。辛くない?親もいないし、頼れるのはナナだけだし」
「···特に辛くなかったね。···むしろ楽しかったよ。···いや、今が一番楽しいかな?」
「···え?それってどういう事?」
「···アキたちと出会ってからは今までにないような体験をしている。···一緒に戦ったり、昨日みたいにバカ騒ぎしたり。
···それに、昔はこんなに私はしゃべることはなかったんだよ。···だから、今がこれまでで一番充実している。···ありがとう」
「···そんなにお礼を言われるようなことはしてないよ。むしろ、こっちが助けられてるぐらいだよ。ボクからもありがとう」
「···うん。私の話はこれで終わり。···どう?落ち着いた?」
「うん!落ち着いたよ。···じゃ、じゃあ、寝よっか?」
「···また元に戻った。···これじゃ話した意味ないよ?···そうだ、今日も抱いて寝てくれるかな?···落ち着くんでしょ?」
「えっ!?···いや、だから、それは···」
「···じゃあ、もういい。私から抱きにいってあげる。···これなら問題ないでしょ?···おやすみ、アキ」
「ちょ、ちょっとぉ~···。うん、おやすみ」
···気を遣わせてしまった。ナナが見てたら怒るんだろうなぁ~って窓の外を見たら···、パスさんとナナが穏やかな目で覗いていた!!
怒りたいよ!!でも、ハルがボクを抱いてもう寝ちゃったから大声は出せないんだ···。
···絶対に許さんからな!!明日の朝食も作ってやらない事を心に決めて、ボクも寝ることにした。
またまたハルちゃんと一緒に寝ることになってしまったアキくんでした。
しかも!今回はハルちゃんから抱きに行くという展開に!こうなるとアキくんに拒否権はありませんね。
ハルちゃんは一般常識がよくわかってないので、こういった行動を躊躇なくやっちゃいます。
そして、ハルちゃんの過去が語られました。まだ秘密はあるんですが、それはこの後出てきますよ~。
さて次回予告ですが、一緒に夜を過ごしたアキくんはハルちゃんと一気に親密になってしまいます。
そして!ハメた2人(と巻き込まれたもう1人)に最大級の逆襲をします!
···巻き込まれた1人は本当にとばっちりですけどね。
そしてその日の夜にアキくんは、普段では考えられない発言をします!
あれ?キミってそんな子だったっけ!?
明日と明後日は土日なので、朝と夜に1話ずつ投稿します。お楽しみに!




