9-5.謎の吟遊詩人はいったい誰なの?
「アキさん!1年ぶりですなぁ!元気そうでなによりですよ」
「タクトさん!ご無沙汰しています。今回の劇も面白かったですよ」
「そう言っていただけるとありがたいですなぁ~。前回に引き続き、整調者のカーネさんとアイリさん原案のお話だったんですよ!
『自分たち整調者がいなくても、世界を救ってくれる存在がいるというお話で人々を安心させよう!』という作戦と聞きまして、協力させていただいた次第なんです」
「そんな話があったんですね。ちょっと突拍子もないお話でしたけど、迫力ありましたよ」
「そう言っていただけるとありがたいですなぁ。なにしろ、さっきの公演が最初でしたからなぁ~。思ってた以上にお客さまに喜んでもらえたようで、我々としても大成功の確かな感触を得れましたよ。そうそう、せっかくですから夕食を一緒にいかがですかな?アキさんのこの1年の旅の話も聞きたいですしね!」
「ありがとうございます。みんな、どうする?お言葉に甘えちゃう?」
「私はいいわよ!ちょっと団長さんともお話したいことがあるしね」
「···いいよ。演者さんの話を聞くのもいい勉強になりそう」
「そうね~。次回作はあたし主役のお話にしてほしいから、いろいろとお話を聞いてみたいわね~」
「オレもいいぞー!去年食べたメシもおいしかったしなー!」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね!」
「ありがとう!そうそう、そちらの女性の方は現役の冒険者だそうですね?今後の劇の参考として、是非ともお話をこちらからもお聞かせ願いたいですね!」
ボクとしては自分自身を題材にされて、思うところは多々あるんだけどね···。でも、そこは『大人』としてのリップサービスで華麗にスルーしておいたよ。
こうして、お互いの情報交換の場として初回公演の打ち上げ会にボクたちも参加することになったんだ。
前回はリオの正体がバレそうになったりして大変だったけど、今回は和やかな会になりそうかな?と思ったら、そうはいかなかったんだよ···。
「アキくん!どうだった?私たちの新作は?」
「ニーナさん、主役だったんですね!素晴らしい演技でしたよ。初回公演でこれだけすごいって、相当お稽古されたんでしょうね」
「そうよ~。なんせ主役だったしね!それにこの主人公の少女って、なんだか会ったことのあるような人な感じがず~っとしてたから、イメージしやすかったってのもあるわね~」
「···そ、そうですか。やっぱり実際に会った事があれば、なりきりやすいってのがあるんでしょうね?」
「そうね!でも···、それが誰なのかいまいちわからないのよね~。女性冒険者って今日アキくんと一緒に来てくれた3人以外は直接お話したこともないし···。
でも!身のこなしとかは去年アキくんに助けてもらった時のイメージを参考にさせてもらったのよ!そうするとなぜかシックリ来たのよね~。
···もしかしてアニーってアキくんの妹とか?って勝手に想像したら、これがピッタリだったのよ!」
···マズい!結構核心に近づかれてる!?確かにボクが変身した姿の物語だから、ボクをイメージしたらそりゃ当然ピッタリとハマるよ!話を変えなければ···!
「そ、そういえば原案はまたカーネさんとアイリさんだったそうですね?原案ってことは脚本を書いたのは別の方なんですか?」
「そうなのよ。実はカイジの町で原案を聞いて、劇団の脚本家が書こうとしたんだけどね。
やっぱり『着ぐるみ来た少女が世界を救って回る』なんて突拍子もない話がどうも想像つかなかったみたいで難航したのよ。
そしたら別の町で公演した時に旅の最中の吟遊詩人さんと出会ってね。
脚本家が何かアドバイスないか?って聞いたらなんと無償で書いてくれたのよ!
その出来があまりにも素晴らしかったから、演じるのが不可能な部分を除いて、そのまま採用したのが今回の新作なのよ!」
···怪しい。その旅の最中の吟遊詩人って、もしかして神様?じゃないと、ボクが知ってるアニメやゲームのシーンやセリフばかりのお話じゃないと思うんだけど?
「その吟遊詩人さんってすごかったんですね。どんな方だったんです?もし名前がわかるんでしたら、ボクたちが旅してる時に出会うことがあったらお礼を言わせてもらおうかな?と思うんですけど···」
「ごめんなさいね。名前は言わなかったらしいわ。確か『名乗るほどの者ではありません』って去り際に言ったらしいわよ?格好は私が見る限りなんの特徴もないただのおじさんだったわね」
「そうでしたか。じゃあお礼は言えそうにないですね。ありがとうございます」
···明らかに神様だな!そう簡単に顕現できるんじゃなかったんじゃないの!?エーレタニアに遊びに来てるでしょ!?やはり貴様!見てるな!?
危うくバレそうになったり、今回のネタを仕込んだ犯人がほぼ特定されたし···。もう今日は疲れちゃったよ···。
一方、リオは前回リオ役を演じていた2人と盛り上がっていたんだ。
「リオさん!前回は竜でしたけど、人型だとかっこいいですね~!」
「おう!そーだろー?まー、一族の中では力がない方だからこんだけ小柄だけどなー」
「そうなんですね~。今回は白銀竜の秘奥ってネタでしたけど、あれって本当にあるんですかね~?」
「そんなもんはないぞー!みーんな脳筋な戦闘バカばかりだからなー!むしろ魔法をメインに使用するなんてオレぐらいなもんだぞー?」
「ははは!やっぱりそうですよね~!オレもこの脚本を見て、『そんな都合のいい秘奥なんてないだろうが!』って思ってたんですよ!
でも、このお話だとなぜかピッタリとハマるんですよね~。竜の力をそのまま人に!って、なんか一体化して協力している感じがするんですけど、そんな魔法聞いたことないですしねー!」
「おー、その発想はなかったなー(なんか気づかれそうな雰囲気だぞー?ちょっとヤバいかなー?)」
「そうそう、今回の脚本を書いてくれた吟遊詩人さんって、元整調者で白銀竜のリオさんにも会った事があるって言ってましたね。その方をイメージして今回の脚本を書いたとも言ってましたよ」
「へー、そうなのかー。(もしかして···、あの偏屈な神が顕現して書いたのかー?今度は何する気だー?)」
そしてパスさんはタクト団長と酒を飲みながら商談を始めていたんだ。
「我々がピムエム皇国で公演ですって!?それは大変光栄なお話ではあるんですが···、正直そんな遠方まで行く力がないのですよ。頑張ってジスタ3国ぐらいまでが限界ですね···」
「大丈夫!道中往復の護衛や食料の提供などは皇国が全部負担するわ。ジスタ3国まで来てくれれば、後は流れで皇国まで気軽に来れるように手配しておくわ」
「···どうしてそこまで当劇団に入れ込まれるのです?皇国にも劇団はあるかとは思いますけど···?」
「···これはまだ公開されてない情報だけど、先日皇国が魔獣の大群に襲われてね。国民が疲弊しきってるのよ。こんなハイレベルの劇団が来てくれれば国民を励ますことにつながるのよ。国としてのお願いを聞いてもらえないかしら?もちろん強制をするつもりはないけどね」
「失礼ですが、あなたは皇国のどういった方なんです?」
「これは劇団のみんなにはないしょだよ?パスティー皇帝本人よ」
「···は?···ウソですよね?」
「これが皇帝の証よ。といっても王国の人じゃわからないかな~?」
「にわかには信じられないのですが···」
「じゃ、私が一筆書いておくわ。それと前金として5億ジールを即金で今ここで渡すわ。大きな劇団だからこれぐらいあればジスタ3国まで行けるでしょ?いつ来てもらってもいいわ」
「···本気なんですね?···わかりました。新たな土地で演じるのも悪くはないでしょう。そのお話を承ります、皇帝陛下」
「そうそう!そんな堅苦しいのはやめてね!私は勝手気ままに旅してるだけだしね!」
「ははは、皇国の皇帝陛下はとんでもない方なんですなぁ~」
どうやら劇団を皇国へ誘致に成功したみたいだね。···って事は、この劇が皇国にも知れ渡るのかぁ~。本当に大丈夫なのかなぁ~?
危うく真相に気づかれそうになりましたが、ギリギリで回避できましたね!
しかし、神様は結構やりたい放題やってますね~。今回はアキくんたちをアシストするためでしたが、ただ単にアシストするのではなく、面白おかしくアシストしてましたね。
そして、このお話はパスさんによってピムエム皇国で特に広められることになってしまいました。
これで皇国で変身しても大丈夫そうだね!アキくん!
某ライオンの王様みたいなロング上演になるかもしれませんね~。
さて次回予告ですが、アーマチュアで宿が取れなかったため、やむを得ずまたリオくんの拠点に帰ることになってしまいました。ということは···?ハイ、また寝る場所で揉めます!
今回はパスさんとナナの策略でアキくんはハルちゃんとまたまた一緒に寝ることに!落ち着かないアキくんはハルちゃんの話を聞きたいとお願いします。ハルちゃんの話とはなんなのでしょうか?
お楽しみに!




