9-4.『白銀竜の着ぐるみ少女の冒険譚』
『本日からの最新作
『白銀竜の着ぐるみ少女の冒険譚』
をお送りいたします!!最後までごゆっくりお楽しみ下さい!!』
ブフーー!!!
ボクとリオは吹き出した!!
ちょ、ちょっと待って!?何!?どういう事!?
「(···えっ?これって、アキとリオが変身した話?···いいの?こんな演劇でバラしちゃって?)」
「(よくないよ!!どこから漏れたんだよ!?マズイよ~!!ボクたちが動きにくくなってしまうよ!?どうしよう〜!?)」
「(まあまあ、落ち着いて。今キミたちが騒ぐと逆に感づかれちゃうぞ~。静かにじっくりと楽しみましょう!)」
「(もしかして、パスさん?あなたの仕業ですか!?)」
「(そんなわけないでしょ!劇を見てれば答えがわかるわよ)」
···どうしてこうなった!?あれだけ隠密に行動してたのに···。
舞台の幕が上がる前にこんな語り出しがあった。
『このお話は、謎の白銀竜の着ぐるみを来た少女の物語。最近各地で見かけられ、かつての整調者と同様に人々を魔獣から守り、救っている姿を目撃した人の証言を基に作成されました。今日もどこかで人々から感謝の言葉をもらう前に颯爽と去っていき、次に困っている人たちを助けているでしょう!』
···あ~、信ぴょう性のない『見かけた証言』とかを基にしているのか。だったらボクたちってバレてないって事か。それは安心なんだけど、ボクのお話をこうやって演劇にされるってのは非常に恥ずかしいよぉ~。
最初のシーンでは、普通の貧しい村人だった少女が一生懸命畑仕事をしてる場面だった。ニーナさんが主役だった。
川へ水汲みに行くと、上流から傷ついた白銀竜がどんぶらこ~どんぶらこ~···じゃない!流れてきた。
その少女は慌てて川の中に入って白銀竜を助けた。そして介抱していたが、命尽きようとしていた。
「残念だが、私はこれまでのようだ···。だが、私を救ってくれたあなたに対してお礼をしていない···。我が一族に伝わる最期の秘奥を今ここに···。私の力のすべてを···、あなたに差し上げよう」
「そんな!私はそんなもののためにあなた様を救ったのではありません!あきらめてはダメです!」
「ははは···。最期にあなたのようなやさしい人に出会えてよかったよ。安心して···、この力を···、継承···、してもらえ···、る」
「そ、そんな···。助けられなかった···。私に力がないばかりに···。えっ!?何?この光は?竜さんの力?私に···」
『なんと!命尽きた竜の力が、少女アニーに宿ったのだ!その力を開放すると···、な、なんと!!白銀竜の着ぐるみを着ているような姿になってしまうのだぁ~!!
しかし、見た目で判断してはいけない!竜の力を少女の身で行使することができるようになり、アニーはドラゴン族をも超える超戦士となったのだ!』
···突っ込みどころ満載なんですけど?リオの一族である白銀竜って、そんな『某皇帝VS山手線の英雄のゲーム』みたいな能力の継承ってないけど?ただの脳筋戦闘バカ集団でしたよ?
しかもこの少女の名前!ボクと1字しか違わなくない!?神様以外に誰か見たのか!?
そんな事を思いつつ、劇はさらに続いていた。
次のシーンでは村から旅立ったシーンだ。着の身着のままって格好だよ。いいのか?
予想通りまずは山賊に襲われてたよ。当然だね。その時にアニーはいきなり変身したんだ!
おいおい!いきなりはマズいだろ!?しかも人間相手に変身かよ!?オーバーキル過ぎるわ!!···と思っていたら、魔獣がわんさか登場したよ。
それをあっさりと駆逐し、山賊も『これで勝ったと思うなよ!!』と、某多魔川周辺にある聖蹟桜ヶ丘っぽい街角にいそうな魔族のような捨て台詞を吐いて去っていったよ···。なんじゃこりゃ?
その後も登場する魔獣をちぎっては投げ、ちぎっては投げ···。魔法はどうした?ボクは魔力剣メインだけど、結構魔法使ってたよ?
そして最後のシーンになった。なんと!相手は整調者が倒した大魔王ムーオのゾンビだったんだ!
···これも、某『そして伝説へ行くゲーム』のラスボス前っぽいんだけど?
誰だ?これ考えたの···。ボクが知ってるアニメやゲームのネタが多いように思うのはボクだけ?···あっ!わかるのボクだけだわ。この世界の人はまったく知らんわ。
黙ってツッコミを入れまくっていると、戦闘はクライマックスになった。最後の大技は、天に向かって魔法を放った後に、ムーオゾンビとその取り巻きに向けて魔法の弾丸が降り注ぐというものだったよ。
···これも某有名作品で世界を滅ぼしたラスボスの技だよね?その気になればボクも本当に使えそうだけど···。まさか···、神様がシナリオ書いた?
「これで魔獣たちの侵攻は抑えられたわ···。けど、それでも魔獣は私たちに襲い掛かってくるわ。
わたしにはすべての人を救う力はないけど、できる限りの人を助けてあげたい!ムシのいい話だってのはわかっているわ!
でも、私には···、竜さんからいただいたこの力は人々の助けになると信じてるの!」
『少女アニーはこれからも魔獣に苦しめられている人々を救うべく、さらなる旅に出る。
より多くの人を救うため、人から感謝を受ける間もなく飛び立ち、姿を消してしまう。
次に会えるのはいつなのか?そしてどこなのか···。もしかしたら、あなたのそばに来てくれるかもしれません!』
『これにて、『白銀竜の着ぐるみ少女の冒険譚』は終了いたします!最後までご鑑賞いただき、ありがとうございました!』
···ボクとリオ以外はスタンディングオーベーションして拍手していたよ。そんなに面白かった?ボクが冷めてるだけ?
観客がいなくなったテントには最後までボクたちがいた。
「いや~、面白かったわね!これ考えた人は天才だわ!初回上演だというのにこんなに迫真の演技ができるってのはすごいわ!これは皇国にも来てくれないかしら?」
「···初めて見たけど、役者さんの演技がすごくて引き込まれた。今日もまたひとついい勉強になった」
「元ネタを知ってるから、違いを見てて面白かったわ!あたしたちをネタにした劇も見てみたいってのはあるわね~」
「···なんでそんなに高評価なの?ボクとしては腹立たしいところが多々あったんだけど?そもそもボクたちの変身がこんな形で伝わるのは困るんだけど···」
「あら?そうでもないわよ。多分、これは情報操作の一種よ。大げさなフェイクの話をみんなに信用させて真実をボカす手法なのよ」
「···え?そうなんですか?」
「おそらくね。だからこれを考えた人って、少なくともアキくんの変身を知ってる人じゃないかな?
冒頭に『アキくんが変身して戦ってたのを見た人の証言』って言ってたけど、それって誰かしら?
おそらくこれもフェイク情報よ。確かに見た人はいるだろうけど、人の記憶って思ってる以上にいい加減よ。正確性に著しく欠けるの。
だから伝言ゲームみたいになっちゃって真実は闇の中に葬られてしまうのよ」
「···なるほど。書いた人だけがちょっとだけ知ってるって事だね。
···仮にこの話を知った人がアキたちの変身した姿を見ても、本物のアニーだと誤解するからアキの正体には気づかないって事か。よく考えられてる」
「···なんだかそう言われると、このお話って···いいんですかね?」
「私はそう思うわよ。情報操作のプロが言うんだから間違いないわ!」
「じゃあ、そういうことにしておきますね」
そういう裏話的な話をしていると、ニーナとタクトさんが関係者席にやってきたんだ。
ツーデン劇団の最新作はいかがだったでしょうか?
思いっきりアニメやゲームネタが多くてツッコミどころ満載でしたね~!これ考えた人はアキくんの元いた世界の事をよく知ってるようですね。偶然ではなさそうですし。
ただ、これはアキくんたちを守るためのプロパガンダだとパスさんは分析してますが、考えた人はそこまで考えていたのかは謎ですね。
さて次回予告ですが、アキくんたちはまた劇団の初回公演打ち上げパーティーにお呼ばれします。そこで明かされた脚本の真実とは!?
お楽しみに~!




