9-2.きのうは本当に!おたのしみだったわね~
「さあ、一緒に寝ましょうね~。ベッドはパスさんに使ってもらって、ふとんはあたしたちね~。入口からリオ、あたし、ハル、アキの順で!」
「ちょっと待って!?ハルとナナが真ん中ってさすがにマズいって!入口からボク、リオ、ナナ、ハルの順でいいじゃないの!?」
「じゃあ聞くけど、その順にした根拠は何かしら~?ちなみにあたしは年が近い者同士が隣り合わせになるようにしたのよ~。その方が楽しいでしょ~?」
「···どういう意味だよ?ボクの根拠は入口に近い方が男にしておいて、防犯目的だよ」
「こんな辺境に誰が来るってのよ?そんな心配は無用じゃないの?いいからあたしの言う通りにしておきなさいな。ハルもいいでしょ?」
「···問題ない。むしろ何が問題?」
「ほら!これで問題なくなったわね!気を遣われる側がこう言ってるのだからいいのよ!さあ寝るわよ~。果たして何が起こるのかしらね~!今日は寝れないかも!」
「···いったい何期待してるの?はぁ~、わかったよ。じゃあ、おやすみ」
「···うん、おやすみ。アキ」
「あー、なんだか嫌な予感がするぞー。せっかくオレの拠点に戻ってきたのになんで落ち着かないのかなぁー?」
···もう、寝る直前まで揉めたよ。まったくナナはなんでこんな順を推してきたんだ?ボクをハルの隣に寝かせて何がしたいんだよ?
結構イライラしていたけど、睡魔には勝てなかったよ。知らない間に寝ていたんだ。
···そして、事件は早朝に発生したんだ。
グロー歴505年2月24日 曇
外では小鳥たちがさえずる声が聞こえてきた。少しずつ小屋の中が明るくなってきた。···もう朝かぁ~。
思ったよりもグッスリと眠れたよ。今日のリオはあったかくて柔らかかったなぁ~。
いつものモフモフ感はなかったけど、普段しない、いい香りがしてとても気持ちよかったよ。なんというか、新しい触り心地がしたんだ。しかも心が落ち着くんだよね~。これもなかなかいいなぁ。この感触もクセになっちゃいそうだよ。
···あれ?···ちょっと待てよ?···いつも一緒に寝る時って、隣はモフモフぬいぐるみモードのリオだよね?でも昨日は確か···、ハル、だったっけ?
···えっ!?思い出したよ!昨日はパスさん除いた4人がふとんで寝たんだよ!確か入口からリオ、ナナ、ハル、ボクの順だったはず!
···もしかして、···もしかして!今ボクがリオだと勘違いして抱きぬいぐるみにしているのって!···ハ、ハルなの!?
···ボクは恐る恐る目をゆっくりと開けた。目の前には···、まだ気持ちよく寝息を立てていたハルの顔が真正面にあった!!
ボクの頭の上にあった『?』が『!』になった瞬間!ハルが目を覚ましたんだ!!
マズイ!!!どう説明したらいいんだ!?体はまだ抱きぬいぐるみを抱く感じで全身使ってハルの体を抱きしめたままだよ!?
あ、これマジでアカンやつや。完全にギルティだわ。残念!ボクの冒険は終わってしまった···。
「···ん~?アキ?おはよう。···なんだか私に抱きついているみたいだけど、···何かあった?」
「えっ!?いや!!あの!?その!?ご、ごめん!!すぐに離れるよ!!」
「···?···変なの。···別に気にしなくてもいいのに」
「はっ!?い、いや!そんなわけにはいかないでしょ!?」
「···?···寝ぼけてる?···今日のアキはちょっとおかしいよ?···大丈夫?」
「だ、だい、じょぶ···じゃ、なさそうだ···。本当にゴメン!」
「···なんで謝るの?別に抱く事の何が問題?私でいいならいつでもいいよ?」
「ちょ、ちょっと待って!?なんで!?なんでそういう事になるの?え!?ボクどうしたらいいの~~!!」
もうわけがわからないよ!?どうして!?どうしてこうなったの~~!!
そしたらパスさんとナナがボクとハルのやりとりを黙って見ていたのに気づいたんだ!!二人とも穏やかにボクを見つめていたんだ···。
「あらあら~。おはよう、アキくん!朝から熱烈ねぇ~!昨日はあんなに拒否していたのに、体は正直だったって事ね~」
「いや~、本当に何かが起っちゃったわね~!これはいいもの見させてもらったわ!やっぱりあの順で寝たのは正解だったわね!きのうはおたのしみだったわね~!」
「いや!!違うんです!!いつもはリオを抱いて寝てたんです!!つ、ついそのクセで···」
「えっ!?アキくんってそういう気があったの!?これはスクープだわ···。本国に最重要報告事項よ!!」
「あら~、そうだったのね。アキはそっち系だったかぁ~。まぁ、見た目は女の子なんだし全く問題なさそうね!」
「あっ!いや!そうじゃないんです!!リオを抱くってのは、ボクの精神を落ち着かせるために!時々モフモフぬいぐるみ竜モードになってもらってたんです。そ、それでつい···」
「もう、照れちゃって!かわいいぞ~、アキくん。でもね?あんまりそういう言い方は感心しないぞ?ハルさんの気持ちも考えてあげなさいよ?せっかくOKしてくれてるのに拒否するなんて、紳士じゃないぞっ!」
「そうよ~。せっかくハルが受け入れてくれてるんだから、身も心も委ねちゃったらいいのよ~。そこから関係は始まるのだからね!」
完全に追い詰められてしまった···。もう、どうしようもないよ。打つ手がないんだよ···。どうしたらいいんだよぉ~。
そう思っていると、なんだか涙があふれ出してきたんだ···。
「ボ、ボクは···、どうしたら···いいのぉ~?ヒック、ヒック···」
「あらあら、いぢめ過ぎちゃったかしら?アキくんったら、本当に泣いちゃったわね~」
「ちょっと朝から刺激が強すぎたかぁ~。まぁ、いいもの見れたし、ハルもOK!って言質とれたからいいとしますか!」
「···二人してアキに何言ってるの?···アキが困ってるんだけど?···泣いてる?···もう、ダメだよ?···アキをいじめちゃ。アキ、もう大丈夫だからね」
「ほ、ほんとに、ヒック、ごめんなさい、···ハルぅ。もうしないから···、ヒック」
「···何を謝ってるのかはわからないけど。···じゃあ、これでどう?···少し落ち着いた?」
···そう言ってハルからボクを抱きしめてくれた。···あったかい。いい香りがするよ···。確かにボクの心は落ち着いてきたんだ。
「あ、ありがとう、ハル。···もう、大丈夫だよ」
「···ん。じゃ、朝ごはんにしようか?アキが作る料理っておいしかったから楽しみにしてるんだ」
「···うん!すぐに作るよ。ちょっとだけ待っててね!」
「はぁ~。いいわねぇ~。青春って感じがするわね~。私もドラゴン族としては若いんだけど」
「アキくんって元の世界だったら38歳だったって話よね?でも精神が体に寄せられて退行してるって言ってたわね···。でも、このペアはいける!」
···勝手に妄想する二人を放っておいて、ボクは朝食を作りに外に出たんだ。
えっ!?リオはどうしたって?
···実は、リオは寝ぼけて外に出ていたんだよ。今、目の前の肉焼きセットの前で鼻ちょうちん出しながら寝てるんだよ。···上手に焼いちゃう?
今回のお話は現時点で作者が一番大好きな回です!
第3章でモフモフぬいぐるみ竜モードのリオくんを抱いて寝たのは、この回のフラグに結果的になってしまいました(笑)!
しかし、ハルちゃんの受け答えは全く我関せず!抱き着かれる事の何が問題なの?ってちょっとズレた回答でした。そのおかげでアキくんは絶体絶命のピンチを乗り越えることができました。
まぁ、アキくんのことを信用しているから出る答えなんでしょうけどね~。
さて次回予告ですが、激おこなアキくんはパスさんとナナに逆襲をします!
さらにアーマチュアの街に行くと、またまたツーデン劇団の人たちが新作を引っさげてやってきていたのです!果たしてどんな新作なんでしょうか!?
お楽しみに~!




