8-11.まさか こ う て い?
本日は土曜日なので朝と夜に投稿しますね!
「こちらは片付いたわよ~、アドの方はどう?」
「ははは!楽しませてもらってるぞ!まさか本体を見破られるとは思わなかったな。だが、そこまでだ。お前たちではオレやリアを倒せぬよ。あきらめて帰るのであれば殺しはせぬよ」
「···冗談。元からそんな気ないくせに」
「それも気づくか!···貴様何者だ?冒険者と思われる格好をしているが、タダの冒険者ではないな?」
「···そっちが手のうちを隠している間はこっちも隠すに決まってるでしょ」
「確かに!では問いはここまでだ。さらばだ、好敵手!」
···私は身構えた。相手の攻撃をかわしつつ、ナナに近づいてからアキとリオを拾って急速離脱する。
···救出失敗はやむを得ない。アキは怒るだろうけど、こちらが生きてないとリベンジができない。
···覚悟したその時、後ろから誰かがやってきた。
「待ちたまえ!そこまでだ」
「···エビスさん?どうしてここに?」
···そこには私たちを外壁の外まで送り出してくれたエビスさんがいた。
「···ありがとう。だが、もう十分だ。お前たちが欲していたのはこの魔石だな!約束通り、これは渡そう!パスを返すんだ!!」
「あなた誰?要求では『皇帝自ら』が魔石を持ってくるように指示しただけど?」
「···まさか こ う て い?」
「お前たちのお望み通りだな!皇帝本人が来てやったぞ!」
「···本当に私たちの要求をすべて飲んだのね?賢明なのかバカなのか···。まぁ、いいわ。ここまで筋を通された以上、こちらも筋を通さなくちゃね。ちょっと待ってなさい」
「···どうして?国家機密なんでしょ?」
「命より大事なものなどないのだよ。キミたちが勝ってパスを救出できればよかったのだが、相手が悪すぎた。やはり整調者でない者に大魔王の直属の配下相手ではあまりにも分が悪すぎたな。
整調者でないのにも関わらず、ここまでヤツらと渡り合えただけでも十分だ。キミたちのような若者が、こんなところで命を散らしてはならぬ。
散らしていいのは···、私一人で十分だろう」
「ほう?さすが大陸で勢力のある国を治める皇帝だな。敵ながらあっぱれだよ。安心しな!殺しはせぬよ」
「そう言ってもらえて嬉しいが、果たしてその約束は守ってもらえるのかな?」
「安心していいわよ?ほら!こちらのお嬢さんをお返しするわね~。さぁ、父の所へお帰りなさい」
···パスさんが解放されて皇帝陛下のところへ走っていった。そして魔石は大魔王の手下に渡ってしまった。
「さ~て!ここでのお仕事は『私たちは』済んだわ。じゃあね!もしまた会うことがあったら、その時はもっと楽しませてあげるわね!」
「ははは!小娘!短い戦いだったが久々に楽しめたぞ!また手合わせ願おう!」
···そう言ってヤツらは姿を消した。
···作戦失敗だ。今回は完敗だったよ···。
グロー歴505年2月22日 雨
あれから3日が過ぎた。ボクとリオは3日間眠ったままだった。そして、ようやく起きたんだ。
「···あれ?···ここは?」
「···やっと起きた。ここは泊ってたホテル。大丈夫?どこか痛まない?」
「···ハル?ボクは大丈夫みたいだけど、あの後どうなったの?」
「···パスさんは解放されたよ。エビスさんが皇帝本人だったんだ。魔石は大魔王の手下の二人の手に渡ってしまった」
「···え?エビスさんが皇帝?それに魔石が大魔王に渡ってしまったなんて···。ごめん、ボクのせいだ···」
「···アキは悪くない。最後の方しか見れてなかったけど、アキたちは立ったまま何もせずにそのまま倒れたんだ。おそらく、接敵した時点で邪法をリオも受けていたんだよ」
「そんなばかな!精神攻撃を避ける魔法を使ってたんだよ!?それなのに···、どうして···?」
「···これは私の想像だけど、邪法の奥義である『ソウルプリズン』を使われた可能性が高い」
「『ソウルプリズン』?それって?」
「···邪法の使い手が望む世界に精神を連れ込まれてしまう奥義。連れ込まれてしまえば使い手が解除するか『精神が死ぬ』しか脱出することができないという凶悪な邪法だよ。しかも、これは連れ込む相手の真名を知らなくても『自分自身』にかけて周囲の者を巻き込む邪法だから使えてしまうんだ」
「そんな邪法があるんだ···。だからどれだけ大技を使っても通用しなかったんだね」
「···私も話だけしか聞いた事なかったけど、聞いた話通りの状況だったから間違いないと思う。そんなに多用できないらしいから、しばらくは大丈夫だよ」
「···ありがとう。リオは?」
「···まだ寝てるよ。寝相がだんだん悪くなってきたから、もう少しで起きるんじゃないかな?」
「ハル、ありがとう。ここまで運んでくれて、···そして看病してくれて」
「···ううん。結局私も何もできなかったよ」
「そんな事ないよ!ハルのおかげで、ボクたちは無事帰ってこれたんだから!!」
「ちょっと~『ハルのおかげ』って、あたしを忘れてない~?」
「あっ!ナナ!?い、いや、そういう意味じゃなくって!」
「あはは!それだけ元気ならもう大丈夫そうね。安心したわよ」
···ナナにからかわれてしまったよ。そしてハルは少し顔が赤くなってるよ?なんで?
リオも少ししたら起きだしてきた。やはり魔力が完全に枯渇してしまったから倒れてしまったようだった。
皇国内では魔力の回復が非常に遅いから、ボクたちみたいに魔力が多いと回復に時間がかかり過ぎる。
お互いダルい状況の中、ハルから経緯を聞いた。エビスさんが皇帝で、ムーオの要求をそのまま呑んでパスさんとボクたちを救出した事。
···初めて敗北を経験したよ。しかも命は助かっている。完敗だった···。
変身すれば時間制限はあるものの、ムーオさえ退けられるほどの力があるけど、それはあくまで『力』だけだ。
その気になれば、力以外での攻撃だと無力に等しかった。
全戦全勝だったからいい気になってたのかもしれないね。『変身すれば絶対解決できる!』って思いこんでしまっていたようだ。
あながち間違いではないんだけど、通用しない場合もあるって事を、今回は痛感してしまったよ。相性が悪すぎたんだね。
でも、今後も出会うかもしれないし、出会わないかもしれない。
ボクたちは『旅』をしているだけであって、ムーオ討伐じゃないんだ。それは次代の整調者にお任せするんだ。
ただ···、今回は巻き込まれちゃった形だから仕方ないってのもあるんだけどね。
なんと!エビスさんが皇帝でした!
実はこの設定もキャラが勝手に決めてしまいました···。
1つ前のお話で負けイベントのお助けキャラを誰にするか迷っていたんですよ。
そしたらエビスさんが『私を皇帝にしたらどうかな?』って言ってきて、それでキーボードパチパチが進むようになったんですよ。
うちの子たちは本当に出たがりですなぁ~(笑)!
そしてムーオの手下であるリアとアドは目的を達成したのでアキくんたちの命を取らずに去っていきました。悪役なら残虐非道ってのもアリなんですが、本作ではそういうのを避けたいというのと、『相手にするほどでもない』っていう余裕を見せつけようとしてこのような展開にしています。
これもなかなかいい展開になってくれました。
さて次回予告ですが、パスさんとエビスさんがアキくんたちを皇城に招いて事情を説明します。
その場で驚きの事実が判明します!まだまだ隠し事の多いキャラですよね~。
次回は本日夕方~夜あたりで登校します。お楽しみに!




