8-7.パスの本当の正体
今日は春分の日なので2話投稿します。
『ゴメン。捕まった』
このメッセージを見た瞬間!ボクは立ち上がった。
「どうしたー?パスはなんて言ってきたー?」
「···捕まったって。誰に捕まったんだろう?」
「···情報が少なすぎる。捕まえたという事は、何かの目的があるという事。慌てて探しても意味ない。まずはわたしたちが休んで、明日情報収集すべきだよ」
「でも!!この間にもパスさんは!!」
「···だからこそだよ。相手もバカじゃない。こちらの動きを探っているはず。ここで何も考えずに動けば、相手の思うツボ」
「それに、今オレたちは魔力が足りなさ過ぎるぞー。オレたちがやられたら終わりなんだからなー」
「···わかった。ゴメン、冷静じゃなかったよ」
「気にするなよー。アキはこういった事に慣れてないだけだからなー。誰しも最初は冷静にってわかっててもそうなるもんだぞー」
「むしろ、すぐに納得して冷静になる方がスゴいわよ。とにかく、あたしたちは休む事!そして朝になったら行動しましょ」
「うん。みんな、ありがとう!」
ただ、ボクは不安だった。知っている人が捕まってるってだけでものすごく心配だったよ。
眠れない状況になってたその時、隣のベッドで寝ていたリオが起きて、急に竜に戻ったんだ。
「アキ、眠れないんだろー。ちょっとでも寝付きやすいように、オレをモフってろー」
「···やっぱりリオにはバレちゃってるか。うん、心配で眠れなかったんだよ。ちょっとだけ甘えさせてもらうね」
「ちょっとだけじゃなくて思いっきり甘えろよー。明日は忙しくなるんだからなー。ゆっくり眠るんだぞー」
「ありがとう、リオ。じゃ、おやすみ」
···リオはよくボクの事を見てくれてるね。何でもお見通しだったよ。リオの言う通り、明日は忙しくなりそうだ。しっかり休んだ方が、結果的にパスさんを早く助ける事に繋がるんだ!
そう考えたら、少し落ち着いた。そして、ボクはゆっくりと眠る事ができたよ。
グロー歴505年2月19日 曇
昨日とは変わって、今日は曇だった。気分が沈んでるのを表現したような空模様だった。
簡易な朝食を摂ってから、今日の行動計画を立てよう!とした時に、入口のドアがノックされたんだ。
···誰だろう?
「はい、どちら様ですか?」
「早朝に失礼するよ。私は情報局のエビスという者だ。パスについてお話したい事があって来たのだ。中に入れてはもらえないだろうか?」
ボクはその言葉を信じてドアを開けた。
そこにはあんまり印象に残らないような、どこにでもいるような小太りのおじさんだったよ。
「ありがとう。あまり人には聞かれたくない話なのでね。少しばかりお時間をいただきたいんだ」
「···どうぞ。なんのもてなしもできないですけど」
「お構いなく。さて、改めて自己紹介を。私は情報局局長のエビスと言う。簡単に言えばパスの上司で、スパイ活動を指揮するトップだよ」
「そんな偉い人が、どうしてここに?」
「実は、キミたちに協力をお願いしに来たのだ。パスが魔獣たちを率いていた者に連れ去られたのだ。キミたちはパスから実力がある旅人と冒険者と聞いていてね。捜索の協力をお願いしたいのだ」
「···その件は既に承知しています。パスさんから捕まったと連絡があったので」
「なんだって!?なぜその事を知ってるんだね!?」
「ボクの創作魔法ですよ。詳細はお教えできません」
「そうなのか···。そんな魔法が本当に存在したとは···。失礼、では今のパスの状況はわかるのか?」
「いえ、向こうから連絡がないので···。犯人の要求はわかっているのですか?」
「ああ。『皇国が保有する最上質の魔石全て』を要求している。今日の日の入りまでに外壁外のドルン高原ヘ『皇帝自ら単独で』持ってくるように、との事だ」
「···!魔石が狙いなのか···。でもなんでだろう?人質を取って、さらに皇帝陛下に持ってこさせようなんて、そんなに価値あるものなんですか?」
「悪いが、国家機密なので私の口からは言えない。ただ、パスを失うことだけは絶対に避けなければならない最重要事項なんだ!だから、キミたちの力を貸してほしい!」
「···ムシが良すぎない?国家の無理難題を解決するために私たちの力を借りようなんて」
「あたしたちにそこまでの力はないわよ?助けたいのは山々だけど、国の面倒事になるなら手を引きたいわね」
「···ボクは助けたいと思いますが、この質問には答えるのが条件です。彼女は何者ですか?国家の重要な魔石、そして皇帝陛下自らが持参という条件を、一般国民だったら要求しないはずです。答えて下さい」
「···わかった。これは最重要国家機密なのだが、彼女がキミたちを信頼して『万が一には話して協力を仰ぐように』との事だから、答えよう。
彼女は、皇帝陛下唯一の御子、『パスティー皇女』なのだ」
···全員が驚きのあまり、黙ってしまった。
···え?皇女!?しかも唯一の子って事は···、次期皇帝って事だよ!?どうしてそんな重要人物が他国でスパイやったり自由奔放に街中歩いてるの!?普通じゃ考えられないんだけど···。
「···ちょっと信じられないんですけど?本当なんですか?」
「外国人から見れば確かにそのような感想を抱くだろうな。だが、事実だ。皇国では即位までは一般社会で普通に生活するのが当たり前なのだよ。もちろん、身分は隠すがね。
そうすることで『民衆が何を考え、何を欲しているのか?』それを体感して即位後の国の方針を定めるのだ。護衛もよほどのことがない限りつけない。自分の身を守れぬ皇族は軍の足かせにしかならないのでね。もちろん、それができない皇族は皇城でほとんど過ごすことになるがな」
「···でも、暗殺とかの可能性が極めて高い。情報がどこから漏れるかわからない以上、危険極まりない行為」
「その点は心配ない。よく似た影武者が皇城で執務しているように『見せかけている』からだ。皇城見学も『皇女が熱心に執務して国民の生活を良くしている』と見せかけるためのパフォーマンスに過ぎんのだよ。この事実を知る者はほとんどいないため、城勤めの者も全く知らない。外交も似たようなものだ。『皇女本人』と偽ってもてなすのだからね」
「とんでもない国ね。でも、だから勢いがあるのね?民衆の思いを受け止めて政治を行っているからかしらね?」
「概ねその通りだ。博物館に行って皇族の歴史を見たと聞いているが、代々皇帝陛下は独自の方針を持って政治を行うのが流儀だ。パスティー様は『情報』が今後の最大の武器になるとお考えだったので、『情報局』が誕生し、ご自身も世界中の情報を仕入れようと奔走されていたのだよ」
「だからボクの魔法に思いっきり興味を示していたのか。結構細かいこと聞かれたからなぁ~」
「うむ、アキ殿には大変感謝していらっしゃったよ。『これで皇国は100年以上先へ行った!』と喜んでおられたな」
「はは、そうですか。ほぼ再現不可能だと思いますが、何かの参考になったらよかったです。···わかりました。救出の件、ボクたちも協力します」
「アキ?いいんだな?国の面倒ごとに関わるとロクな事にならないぞ?」
「うん。パスさんにはいろいろお世話になったからね。今回で恩返しさせてもらって、それから旅立てばいいだけだしね」
「よし!わかったぞー。相手はムーオ本人か、手先だろうなー。激戦は覚悟しないといけないぞー」
「うん!サポートは頼むね!」
「···私たちも手伝うよ。アキたちだけじゃ大変そうだし、ちょっと大暴れしたい気分」
「ハルがそういうならあたしも付き合うわ。後方支援程度しかできないけどね!」
「ハル、ナナ。ありがとう!よろしくね!」
パスさんが皇女だったなんて···。これでこれまでの行動にすべて納得できたよ。さて、どこにいるのだろうか?これから作戦を立てないとね!
当初はただのモブとして作者が設定したパスさんなんですが、こんなトンデモ設定までキャラが勝手に決めちゃったんです!
ただでさえ第4章第4話で勝手に話を変えられて、書き終わった直後に恐怖で震えたのにねぇ〜(笑)!
ホントこの物語はキャラ自身が勝手に演じてくれる、書いていて楽しい作品になりました。
結構読み返していまして、作者自身も楽しんで読んでますよ!
さて次回予告ですが、捕まってしまったパスさんと犯人とのやり取りをお届けします。
『情報』が重要と考えているパスさんはどこまで犯人から情報を引き出せるのでしょうか?
駆け引きとか苦手な作者ですが、パスさんが頑張ってくれました!
次回は本日夜に投稿します。お楽しみに!




