10 放浪自由人ジユウ
「あれ、ゼロ君?」
「ジユウさん……?」
根無し草の女性と知り合った事がある。
それが彼女、ジユウさんだった。
旅の途中で偶然知り合った彼女に、また偶然再会するというのは皮肉めいたものがあった。
夜の焚火を二人で囲んでいる。
以前の俺達はそんな何でもない時間を過ごしていた。
だがそれも今日までだ。
「ジユウさん、俺と別れてくれ」
「久しぶりだってのに、君は……」
久しぶりに会った恋人に別れを告げられる。
それはきっと、俺が思う以上に辛い事だと思う。
「……あたいはいつも自由に生きてきた」
ジユウさんはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だから、ゼロ君がどうするかも自由さね」
そして優しい言葉をかけてくれた。
だけどそれは、俺にはあまりにも痛くて。
せめて非難された方が楽なのだと知った。
「ただ、最後にあたいを選んでくれたらやっぱり嬉しいかな」
そう冗談っぽく笑うジユウ。
それが漏れ出した本心なのだと、俺はちゃんと知っている。
だからちゃんと言っておかないと駄目だ。
「ごめんなさい……」
「え、あぁいや、ちょっと言ってみただけさね」
恥ずかしそうに顔を赤らめたジユウさん。
「……いや、そうだね」
その後、焚火を見ながら言った言葉は絶対に忘れられない。
「やっぱり好きだよ、ゼロ君の事」
「……っ」
ジユウさんはこういう言葉を直接言う様な人では無かった。
だからこそ、想いが伝わってくる。
「ここで再会しなかったらずっと、恋人のままでいれたのかな」
「……探したと思います」
「だよね。君はそういう人だった」
ジユウさんは薄い笑みを浮かべた。
「だから好きになった」
それを裏切らなければならない。
「会えないけど会ったら終わりの関係何て辛いだけだもんね」
こんなに沢山話してくれる人では無かった。
でもそれは俺が知らなかっただけで。
「そう考えると、ここで偶然出会ったのは運命だったのかも知れないね」
知ろうとしなかっただけで……。
ぐ、ぐぅ……。
「ごめん……なさい……」
俺は泣いてしまっていた。
ずっと我慢してきたのに、そんな資格なんて無いのに。
ジユウさんの気持ちが痛いほど理解できてしまったから。
「良いよ、ゼロ君が皆の為に頑張ったんだって分かるから」
「でも俺はジユウさんだけじゃない、沢山の女性達を……」
「うん、それは反省して欲しい。けど……」
ジユウさんに向き直る。
「少なくともあたいは、幸せだったよ」
「あ、あぁ……、くぅ……」
もう我慢ができなかった。
俺の心は限界が近くて。
ジユウさんの優しさがあまりにも痛くて。
ただ一晩中泣き続けていた。
そんな俺の隣で、ジユウさんはただ寄り添ってくれていたのだ。
次の日の朝。
「本当に、ごめんなさい……」
傷付けたのは俺なのに、ジユウさんに慰めてもらった。
「良いよ、傷付いてるのはゼロ君も一緒でしょ」
「ぇ……」
「大好きな人の事だもの、見れば分かるよ」
「……っ」
あまりの言葉に、また泣き出してしまいそうだった。
だけどこれ以上は駄目だと思った。
「ジユウさんのスキルの御蔭で不自由は無かったです」
「それは良かった」
ジユウさんのスキル変幻自在は、他の人のスキルを使う際に効率よく使える様にしてくれた。
初めてのスキルでも使いこなす事ができた。
彼女の人柄そのものだと思う。
「もう行きます……」
「うん、じゃあね。また何処かで、風が吹いたら」
「……」
はい、とは言えない。
ただ御辞儀をしてこの場所を離れる。
「風だけは自由にならないなぁ……」
去り際に聴こえた声に、涙が出そうになる。
服の裾で拭って、俺は残された後悔の道を歩むのだった。
恋愛バフ 90%↑
削除スキル 変幻自在
後2話です!!
二日で10000文字以上書くのは流石に生活に影響出ますね!!
でも楽しいからオッケーでしょ!