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24 無表情道化師ニシシ

 港町のサーカス団に彼女は居た。


 丸い玉に乗り、短剣で御手玉をする様は見事だった。

 だけどわざと失敗して笑いを誘ったりもする。


 彼女は道化師だったのだ。



「ニシシさん」


「……」



 道化師のニシシさんは何を考えているのかは分からない。

 白塗りの顔でいつも無表情だった。


 俺が告白をした際でも、ただ頷くだけだった。

 だから悲しむ事は無い。


 そんな風にはもう思えなくなっていた。



「俺と別れてくれ」



 そう切り出した時、ニシシさんはただ頷いた。

 それだけだった、それ以上の事は何も無い。


 そんな風にはもう思えなくなっていたんだ……。



「俺のスキル恋愛バフは、恋人が居るほど強くなれる能力」


「……」


「他にも彼女が居て、皆とも別れている途中なんだ」


「……」



 ニシシさんは頭を俯ける。

 俺は、はだけた胸元から視線をそらした。


「ごめんなさいニシシさん……」


「……」


「……ごめん」


「……っ、ぐぅ……」



 俯いたままだったニシシさんから、嗚咽が聴こえてくる。


 俺は知っていた、彼女は道化師だったとしても一人の女の子だ。

 恋の話を、道化の様に振舞えるはずは無い。


 ならば道化と化すのは俺であるべきだ。



「馬鹿な俺でごめんなさい」



 だけど、それは彼女を貶めるだけの行為にしかならない。



「は、初めて」



 不意にニシシさんが声を上げた。



「笑われるだけじゃない、私になれたと思ったのに」



 その声は震えている。



「大好きだったのに……」


「……っ」



 胸が言葉に揺すぶられる。


 俺が何者でも無かったのならば、このまま抱きしめられただろう。

 だけど、これまでの過去が絶対に許さないと牙を剥く。



「君のスキル、虚実に助けられたよ」



 虚実は実在しない物質を実在する事にできた。

 魔王城に架かる橋を具現化する事で乗りこめたのだ。



「今までありがとう」



 それだけ言って別れようと思った時、ニシシさんが顔を上げた。

 その顔はいつもの様な無表情で、何を考えているのかは読み取れない。


 ただ、肩が震えている事に気付いた。



「虚実にはもう一つの能力があるの」


「もう一つ?」


「存在する物を、存在しない事にする能力」



 そんな能力は”存在しない”と俺は知っていた。



「貴方への恋心はもう、何処にも存在しないから」



 そう言って無理して笑う。

 震えているその体が全てを物語っていた。



「ごめんなさい、ごめんなさい……」



 謝る事しかできない。

 泣いてしまいそうだった。


 俺の為に自分の心を殺してしまった彼女に、俺は何もできない。



「さよなら、好きだった人」



 ニシシさんは別れを告げる。

 全て俺の為に言ってくれている。


 御辞儀をすると、振り返る事もせずに街を離れた。


 遠くに聴こえる泣き声に振り向けない。

 その事実だけが、この胸を痛めつけてくれるのだから。



 恋愛バフ  230%↑

 削除スキル 虚実


PVの割りに全然ポイントが増えないのはやっぱり需要が無いのでしょうか。


やはりコメディにした方がウケは良かったのかもですかね……(遠い目)

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