98 最恐ヤンデレ少女クッハ
ある貴族街に居た。
「ふひ、ひひひ……ぜろぉ……ひひ……」
クッハは貴族の令嬢である。
彼女の父親から受けた依頼の時に出会ったのが最初だった。
『……!?』
クッハは最初、俺を見て逃げ出していた。
引きこもりがちで人に慣れていないのかと思ったが、本当の理由は違った。
『……怖いよぉ……ぜろぉ……』
クッハは自らの力に怯えていたのだ。
”闇の適応”というクッハのスキルは、魔族達が使う瘴気の影響を受けない。
俺が魔王城で力を発揮できたのもこのスキルのおかげだ。
だがこのスキルには別の効果もあった。
同時に闇の瘴気を放出してしまっていたのだ。
その為、クッハから漂う瘴気が周りの魔物を引き付けてしまっていた。
俺が彼女のスキルを獲得した時、恋愛バフが適応された。
結果的にだが、魔物を引き付ける役割を俺が引き継いだのだった。
それ以来俺の事をとても慕ってくれている。
「ふへ、へへ……ぜろぉ……へへ……」
だけど正直、クッハと付き合っているのかは微妙なラインだ。
俺の能力『恋愛バフ』は、基本的にはどちらかが告白をして了承されたら適応される。
けれど不思議な事に、クッハは気が付けば恋愛バフの対象になっていたのである。
「クッハ、今日は大事な話があるんだ」
俺達が付き合っていたのかは分からない。
それでも伝えておく事にしよう。
「うへへ……へへ……なぁにぃ?」
笑みを浮かべ続けている少女の。
「もう会う事はできないんだ」
笑みが消えた。
「……へ?」
「俺の能力は恋愛バフ、俺は恋人が居れば居るほど強くなる」
「……」
「ごめんな、俺には他に彼女が居たんだよ」
「……そっかぁ……」
クッハは眼を伏せた。
暗闇の中に居た少女に差し伸べた手を、振り払ったのだ。
恨まれても仕方のない事だ。
「クッハ……」
クッハは顔を上げた。
その眼には決意が宿っている。
「じゃあ、他の女を殺すね?」
いや、狂気が宿っていた。
「それで解決、クッハ一人ならクッハを選ぶ、それで解決」
ふへへっと笑いだすクッハ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺達は最初から付き合ってなかったじゃないか」
何故か恋愛バフのスキルが適応されただけで……。
「クッハの事を好きだって言った」
言ってない。
「クッハの事を愛してるって言った」
言ってないぞ……。
「……騙したの? クッハを騙したの?」
それはそうなるのか……?
「……殺す? ……殺していい? ……あへへ?」
クッハはもはや平静では無かった。
泣きながら笑いながら悲しんでいる。
心がバラバラになった様な表情だった。
「すまない、俺は全員に別れを告げるまで死ねないんだ」
それでも俺にはまだ付けるべきケジメがある。
「……それは……ずるいよ……」
「あぁ、ずるくてごめんな」
「……殺すから……」
「ごめん……」
俺はそう言うと背中を向けた。
「……またねぇ……ぜろぉ……いひひ……」
背中に声を掛けられる。
クッハが最後まで俺を見ている事に気付いていたけれど。
振り返る事だけはしないと、空を見上げたのだった。
ステータス更新
恋愛バフ 980%↑ → 970%↑
削除スキル 闇の適応
もしかして需要ない?
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