99 絶対防衛将軍少女キュキュ
「ゼロ殿か」
「あぁ、キュキュ将軍」
「将軍は止めてくれ、某達の仲ではないか」
「そう、だな」
俺が防衛都市にやってきた。防衛都市とは、魔王軍との戦いに備えて作られた都市で、兵器や兵士、そして防御システムが最新鋭のものであった。
魔王軍が進軍を開始して以来、この街は最後まで落とされなかった。
キュキュ将軍は、防衛都市の守護者であり、その鉄壁の防御力は他の都市でも有名だった。彼女のスキルは、一定以下のダメージを無効化してしまうというものだった。
故に鉄壁将軍と呼ばれる彼女だったが、普段は部下からも慕われる可愛らしい女性だった。
俺とキュキュとの出会いは、防衛都市が麻痺しかけた時に俺が手を貸したことで始まった。
彼女は俺の助けに感謝し、それ以来、俺たちは親しい関係になった。
「今は二人きりなんだ、名前で呼んでくれ」
「キュキュ……」
「……きゅぅん」
とキュキュは嬉しそうに声を漏らした。
最硬の鉄壁将軍。
そんな彼女が俺の前で無防備な姿を見せている。
「今日は話があるんだ」
「何だろ何だろ?」
とキュキュが子供みたいにはしゃいでいる。
「も、もしかして……婚姻の話じゃ……」
照れくさそうに笑みを浮かべた。
「俺と別れてくれ」
その顔が鉄のように固まった。
「な、何を言っているんだ、ゼロ殿?」
しかし、そこから出てきたのは鉄仮面で覆い隠せない熱い想いだった。
「そうだ、某が嫌な思いをさせてしまったのなら謝ろう。すまなかった。でも、別れる必要はない。某達は愛を誓い合ったではないか」
『愛しています、ゼロ殿』
『ありがとう、キュキュ』
防衛都市を去る時に紡いだ言葉だ。
「恋愛バフ」
「な、何だそれは?」
「俺の能力だ。彼女がいればいるほど、俺は強くなる」
「……は?」
キュキュは間の抜けたような声を上げた後、
「はぁあああああああ!!!?」
とつんざくような怒号の声を上げた。
「某の他にも女を囲っていたというのか!?」
「ああ……」
「ふざけるなよ、貴様!!」
キュキュは俺の胸倉を掴んだ。その目には涙が光っている。
「ごめんな」
情けない話だが、俺には他に紡げる言葉がない。
キュキュはその姿に言葉を失った。せめて正面からぶつかったのなら、キュキュの痛みを和らげられたのかもしれない。けれど、そんな資格すらないように思えた。
「他に何人いるんだ……」
「残り98人」
「残り? 残りだと?」
「ああ、俺は全員に別れを告げるよ」
誰一人残さず、キッチリと清算する。
「傷つけてごめんな」
「ふざけるなよ……」
「ごめん……」
「……鉄壁将軍である某を傷つけたのは、貴様が初めてだよ」
とキュキュは、よそを向いたまま呟いた。俺たちは、このまま別れていく。もう同じ道を歩くことはない。
「君の鉄壁の御業のスキルのおかげで、俺は生きている」
魔王城での不意打ちでダメージを受けなかったのは、このスキルのおかげだ。だから最後に言っておくとする。
「ありがとうキュキュ」
「……」
何も言えずに震えた体のキュキュを背に、俺は街を離れた。
「……ふざけててくれよ」
と彼女の想いが去り際に聞こえた。それは、俺の中で永遠に消えないだろう。
次の街へ向かう。足元がふらついたが、大丈夫だ。胸の傷が歩を速めていた。
ステータス更新
恋愛バフ 990% → 980%
削除スキル 鉄壁の御業