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0 魔王を倒した一般人ゼロ

 この日、都では魔王討伐の凱旋パレードが行われていた。

 正直気は進まなかったが、魔王が滅んだことを対外的に公にするという意図があるらしい。


 俺はただ、それに担ぎ上げられただけだった。



「……ふぅ」



 王族の相手や街の人達へのサービスは思ったよりも気を遣う。

 少し疲れたが、正直何もしていないよりは気が楽だった。


 最近、皆に殺される夢ばかり見る。

 いっそ殺して欲しいとも思う。


 だが、英雄と扱われている間は俺の命は俺のモノでは無い。

 未だに俺は、何も選べずに過ごしていた。



「ねぇゼロ、ちょっと良い?」


「ヒト?」



 客室にやってきたのは幼馴染のヒトだった。

 俺の家族という事で来賓として扱われている。



「何かな?」



 少し気まずかったが、今でもヒトは俺の家族同然だ。

 無下にする訳にはいかない。



「いいから、こっち来て」



 そう言って俺の腕を引くヒト。

 俺は頭を掻きながらその後を付いていくのだった。


 着いた場所はパーティー会場だった。



「お、来たようだな」



 其処には知らない顔は居ない、知った顔ばかりだ。

 今まで別れてきた女性達が集まってきていた。


 ヒャクリにキュキュにクッハ……ハハさん……ロロとロリ……シシ……ニシシ……ジユウさん……そしてヒト。


 全員の名前が言える。

 俺の大切な人達だった。



「御兄ちゃん」


「御兄様」



 まだそう呼んでくれるのか。



「私達は話あったんだ」


「全員と別れたのだし……」


「また誰かを好きになっても良いんじゃない?」



 皆が俺を見つめている。



「俺は皆を傷付けてきたのに……」



 また傷付けろと言うのか。



「それでも好きなのだから仕方ないではないか!!」



 その言葉は胸に突き刺さる。



「お前が選ぶ事で少なくとも……」


「一人の女の子が救われるんだよ?」



 それは世界を救うより難しい事の様で、口に出すだけの簡単な事だった。



「皆、ゼロ君が傷付いている事を知ってるから」


「カッコいい所を見せてよゼロ!!」


「みん、な……」



 俺は魔王を倒した英雄だ。


 だけど、人として彼女達に勝てる気がしない。

 それぐらい魅力的で、素敵な人達だった。



「俺が……」



 俺の言葉一つで世界が変わる。

 だけど恐れずに紡ごうと思う。



「俺が好きなのは!!!」



 心に秘めていた大切な人の名前を。

 それを乗り越えてきた人達に、恥ずかしく無い様に。



「駄目だよ!!?」



 その時、一人の声が響いた。



「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だぁ……」



 それはクッハだった。



「……嫌だよ嫌だぁ……絶対認めないから……」



 頭を振って悲痛な声を上げている。



「そうだ、皆殺すね? そうしたらクッハが……」



 俺はクッハに近づいた。

 不器用で本音を曝け出せずにいる少女に。



「クッハ……」



 腕を掴む、クッハの震えが伝わってきた。



「誰も殺しちゃ駄目だ」


「……でも……でも……」



 クッハは大粒の涙を流した。



「……クッハが選ばれるはずが無いもん……」



 泣きじゃくるクッハを見て思う。

 強い言葉を使うのは、本当は誰よりも自分に自信が無かったからだ。


 臆病で寂しがり屋で、自信すら無いのに頑張ってきた。

 それを俺は誰よりも知っている。


 本当は俺も気付いていた。


 俺とクッハは互いに想いを伝えあった訳じゃない。

 だけど、ちゃんと”惹かれあっていた”から恋愛バフの効果が出ていたんだ。


 鈍すぎる俺が気付いていないだけで。

 ずっと前から決まっていた……。



「俺が好きなのはクッハ、君だよ」



 その言葉で世界が変わる。



「……嘘……」


「嘘じゃない」


「……またクッハを騙すつもりで……!?」



「俺はクッハが好きだ」



 ドンドンと世界の色が変わっていく。



「……うぅ……ぅぁあ……」



 涙を流すクッハに口づける。



「……!?」



 驚いたクッハは眼を見開いた。

 そしてゆっくりと瞼を閉じていく。


 その体を抱きしめる。

 震えが治まっていくにつれ、鼓動が早くなっていた。


 俺達は似た者同士だった。


 家族を殺されて殻に閉じこもっていた俺。

 瘴気を拡散しないように屋敷に閉じこもっていたクッハ。


 だけど俺と違ってクッハは一人で闘っていた。

 その強さに、俺は心を打たれたのだ。



「大好きだよ、クッハ」



 何度だって伝えよう。

 何度だって世界を塗り替えよう。



「……クッハも、ゼロが好きぃ……」



 泣き顔で笑みを浮かべる少女に負けないように。

 俺は心からの愛を尽くすと誓ったのだった。






 俺は沢山の女の子に迷惑をかけてしまった。

 けれど鈍すぎた俺が、この想いに気付けたのは彼女達のお陰でもある。


 言葉にはしないけれど、感謝だけはさせて欲しい。

 愛おしい人を愛する機会をくれて。


 本当にごめんなさい。

 そして、ありがとうございました。


 そう魂から想ったのだ。





 ステータス更新


 恋愛バフが親愛バフに変化しました。

 1000%のバフが適応されます。




 おしまい。


ゼロから始める……



御清覧ありがとうございました!!



正解はクッハちゃんでした!


正解した方には明日が良い日になる魔法をかけておきますね!



二日で書き切った作品ですが、如何でしたか?


楽しんで貰えたのなら良かったです!



私の作品が気になった方は『枯れた世界で未来を紡ぐオートマタ』もオススメです。


人類が死滅しかけた世界で、ラジオを放送するという素敵な御話になっております。




最後に初期案の誰がヒロインか分からないifエンドを下に置いときます。




その言葉が紡がれる時。

一人の女の子と眼があった。


涙でグチャグチャになった顔でこちらを見ている。

俺はその子の元に駆け寄るとその体を抱いた。


「好きだ……!」


嗚咽混じりの情けない声で何度も言う。


俺は酷い人間だと思う。

そんな俺でも、幸せにできる人が一人は居た。


その事実だけ救いだった。



おしまい。

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