(3)
「……澄美、澄美!」
私はハッとした。
目の前には彼が居て、心配そうに私を見ている。
そうだ、私は彼と待ち合わせをしていて……。
あれ? 何だか何処かに行っていたような……。
「澄美、どうしたんだよ。待ち合わせ場所で待っていたんだけど何時間も来なくて! 携帯にも何度も連絡したし本当に心配したんだぞ!」
「でも、私此処に居るよ?」
彼はほとほと訳が分からないと言う様に説明してくれた。
ちょっと目を離したら、いつの間にか待ち合わせ場所にあるベンチに眠るように座っていたというのだ。
「……不思議ね。私、何処かのバーに行って素敵なバーテンダーさんに会っていた気がするの」
「夢でも見てたのか?」
「それより!」
私は彼の目を真っ直ぐ見上げる。
「千賀くん、私の事嫌いになった?」
「何を急に」
彼は真っ赤になって狼狽えたように呟く。
「千賀くん、最近会ってくれないよね。浮気しているってどれだけ私が気を揉んだか!」
「誤解だ! 誤解!」
「じゃあ!」
「あー、もう! もうちょっと頑張ればお金が貯まったんだ!」
突然彼は私の手を取ってその場に片膝を付く。
そして真っ直ぐ私の目を見た。
「結婚してくれ澄美」
「千賀くん……!」
驚きとその発言に真っ赤になる私に、彼も真っ赤な顔で続ける。
「澄美の為に、澄美との結婚指輪を買う為にこっそりと副業でバイトしてたんだ。あとは……」
そう言うとポケットから何かを取り出して私の手に握らせる。
冷たい、硬い感触に私が手をそっと開くと……。
「こ、これ!」
「そう。澄美、『シンデレラ』のお伽噺好きだろ?」
手のひらに光るのは、『シンデレラ』に出てくるガラスの靴をモチーフにしたペンダントトップのネックレス。
ちゃんと靴の部分は硝子だ。
「す、すごい!」
「一生懸命、探してきたんだぞ。す、澄美は、お、俺のシンデレラ、だからな……」
一生懸命っていうことが、今の台詞を言う感じですごく分かった。
私の胸が高鳴る。
ああ、ぶつかって良かった。
信じて、良かった……。
「ありがとう」
「おう」
彼と、あのバーテンダーさんに両方にお礼を込めて言ったんだけど。
照れる彼を見ると、何だか説明したくなってきた。
あのバーの事を。
「行こうか。俺のお姫様」
「もう!」
私と彼は手を繋ぐと、一緒に歩き始めたのだった。
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