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カラン……カラン。

 

 扉のベルが、少しだけ寂し気に鳴る。


「いらっしゃいませ。【ビタミンカラー】へようこそ」


 私は、深く一礼をしてそのお客様を迎える。

何日ぶりか、はたまたそれ以上振りのお客様かしら。

此処は前にも述べた通り、時間の概念が無いので……。


「お客様?」


 私は扉の所に立ったままのお客様に訝し気に声をかける。


「……ああ、すまんね。ちょっとびっくりしたもので」


 老人の声がする。

今宵のお客様はご年配の方の様だ。


「大丈夫ですか? お手をお貸ししましょうか」


 バーカウンターから出ようとした私を、老人は片手を上げて止めた。


「なに、心配かけてすまないね。本当に驚いたもので」


コツン……コツン。


 磨かれた床に、ゆうっくりと足音が響く。


コツン。


 杖の音もする。

仄かな灯りに照らされたのは、深く皺が刻まれた、穏やかな表情のご老人だった。


「久しぶりに、このバーに来れたわい」

「あら。では……」

「貴女に会うのは初めてかな。美人のバーテンダーさんや。名前は……?」

(ラブ)ですわ。以後お見知りおきを」


 一礼をする私に、静かにご老人は拍手をしてくれた。


「……わたしが、いや。()()()ワタルと名乗ろうかな。以前は何と名乗ったか忘れたのでな。ホッホ」

「ワタル様は、以前のマスターの時に来られたのでしょうね」

「ホッ。そうだと思うよ。して、以前のマスターはお元気かな?」


 その質問に、わたしの胸が痛む。


「……そうか、そうか。無礼な質問をしてしまったなあ……。すまんの(ラブ)さん」


 私の一瞬の表情を見て、悟ったのかワタルさんは謝ってくれた。


「いえいえ。表情を露わにしてしまう様では、バーテンダーとして失格ですね」


 くるりと背を向けてグラスを磨きだす私を、心配気にワタルさんは見遣る。

しばらく、沈黙がバーの中に漂う。

 ワタルさんはスツールにゆっくりと腰かけると、


「のう、わたしの()()()聞いてくれるかのう……?」


 と静かに切り出した。


「……はい。お伺いします」



お読み下さり、ありがとうございます。

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