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カラーン、カラーン……。 


 響く鐘の音が、ぼく、じゃあなかった。()にはあの人からの祝福の音に聞こえた。

大きな窓ガラスから見える、晴れ晴れとした青空に向かって僕はそっと呟く。


(ラブ)さん……。本当にありがとう。この日をやっと迎えることが出来たよ……」

「また、誰かにお礼を言ってるの?」


 声をかけられて僕は振り向く。

そこには眩い純白のウエディングドレスに身を包んだ、僕の奥さんとなる人が居た。

不安そうな顔をしている彼女は、()()ぼくが初めて想いを寄せたみかんお姉さんだ。

もう、お姉さんとは呼んでないけれど。


「あの人のおかげで、僕はみかんと結ばれたんだ。どうしても、今日この場所に呼びたかったから……」

「仕方ないわね」


 綺麗に化粧をした顔でみかんは苦笑する。

そう。

あれから、気付くと母さんとぼくは、よく行くスーパーの入口に立っていたのだ。

帰宅してから、父さんに夢中で話す母さんとぼくを父さんは心配して病院にまで連れて行ったものだ。

何処を探しても、あのバーに辿り着くことは二度と無かった……。

 でも、(ラブ)さんに言われたこととあのあたたかな手のひらの温度は忘れなかった。

みかん姉さんを想い続け、告白を繰り返し、今日この日を迎える運びとなったのは(ラブ)さんのおかげである。


『貴方の想いの強さもあったからよ?』


 ふと、耳にそんな微かな声が聞こえた気がして僕はハッとする。

式場にはこんなご時世だから少人数しか招待客はいない。

花嫁が入場する、ほんの一瞬の前の事。

確かに(ラブ)さんの声だった気がした。

そして花嫁が、みかんが僕の方へと向かって歩いてくる。


『おめでとう』


「ありがとう……」


 僕はもう二度と呼ぶことの無い、名前をそっと心で呟いた。





お読み下さり、ありがとうございます。

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