葵が帰った後
葵が帰った後、和輝が堤防を降りると、目の前の建物の陰に身を隠していた仁たちが笑いながら駆け寄ってきた。
「どうだった?」和輝への第一声は、仁のその言葉だった。
「『どうだった』って?」和輝は、仁たちのふざけた問いかけに、あえて余裕を見せて問い直した。
仁たちは、和輝のそんな余裕の表情に、一瞬、笑いをやめ、さらに問いかけた。
「『どうだったって』って、お前、葵の返事、OKだったのかよ?」
仁は、葵の友達でもなんでもなかったが、葵のことを親しげに『あおい』と呼び捨てにしていた。
「まあな」和輝がそう言うと、全員が「えっ~!!!」と大声で、残念そうな声を上げた。
「『えっ~』って、お前たち、俺が振られるのを待ってたのかよ?」和輝は、葵に、ほぼ振られた状況であったにもかかわらず、そう、余裕で言った。
「だって、あんな、可愛い子が、お前と付き合うと言うとは……なあ?」仁は、そう言って、ほかの二人に問いかけた。
ほかの二人も、「うん、うん」とうなずいた。
和輝は、そんな三人の様子に、余裕を見せて「とりあえず、明日から、俺は葵と二人で登校するから、仁、お前とは一緒に行けなくなった。悪いけど、明日からは、一人で学校へ行くか、早いとこ、お前も彼女をつくってくれ」そう言った。
和輝と仁の家は近くで、特に約束をしていたわけではなかったが、登校時間が、ほぼ同じだったため、いつも、途中で一緒になり、二人で話をしながら学校に行っていたのだ。
葵と和輝が待ち合わせをした時間は、今まで家を出ていた時間よりも20分ほど早く、そのため、そういう風に仁に伝えたのだった。
その、和輝の余裕の言葉に、仁たちは、先ほどまでの笑いを忘れ、お互いに顔を見合わせていた。