告白
和輝の目の前で黙って顔を下に向け、じっとしている葵は、昨日にも増して、ますます美しかった。
和輝は、そんな葵に、やはり、呼び出した肝心の要件を言うことが、なかなかできなかった。
目の前の建物の陰で、仁たちが、先ほどの電話の時と同じように腹を抱えて笑っているのが見えた。
葵は、いつまでたっても何も言わない和輝の顔に、伏せていた目線を向け、その和輝が向けている目線の先を追った。
そして、そこで、笑い転げている三人の男子学生の姿を見た。
『自分が見世物になっている』そんな風に感じた葵は、「あのー、用事がないのなら、私帰ります」
中学校時代にも、何度か同じような状況を経験していたため、そんな風に言って、恥ずかしそうにもじもじしている和輝に背中を向けようとしたとき、あわてた和輝が葵の腕をつかんだ。
「待って、帰らないで」
葵は、不意に取られたその和輝の行動に驚いて、和輝の方に振り向いた。
和輝は、顔を真っ赤にして、真剣な眼を葵に向けていた。
『きれいな目』
葵は、和輝の二重瞼の目に、一瞬『ドキッ』とした。
葵の目は一重瞼で、自分ではそれが自分の顔の中で、一番嫌いなパーツだったのだ。
しかし、葵の目は一重ではあったが、大きな瞳で美しく、それが、男にとっては魅力的な葵のチャームポイントではあったのだが……
「待って」葵は、和輝のそんな必死の願いに、そこにとどまった。
「待って、君に伝えたい、僕の気持ちがあるんだ。邪魔者がいるからあっちに行こう」
そう言って、和輝はそのまま葵の腕を取り、仁たちのいるところからは見えない堤防の反対側に葵を引っ張った。
葵は、初めてそんな風に強引に自分を引っ張る男の言葉に従った。
和輝は、仁たちが覗くことのできない堤防の反対側に葵を連れて行くと、そこで、改めて葵の方に身体を向け、葵の腕をつかんでいた自分の手を放し、唐突にこう言った。
「俺……あっ いや……僕、昨日、歯医者に来ていた君を見て、きれいだなと思って。それで、今日電話をかけて……」
和輝の唐突な言葉は、事実を伝えただけで、『だから、どうした?』と突っ込みたくなるようなものだったため、葵も同じく、心の中で『だから?』と思いながらじっと、真っ赤な顔の和輝を見つめていた。
和輝は、そんな葵の心の中を知ってか知らずか、やっと、葵をここに呼び出した核心について語りだした。
「昨日、歯医者で初めて君を見て、きれいだと思って、それで…… それで、君と付き合いたいと思って……」
和輝は。やっと、本質の部分を語ったが、緊張のあまり、その言葉は、あまりにも堅く、棒読みのように抑揚のないものだった。
そんな緊張した和輝の言葉を聞いた葵は、何度も中学の時に男子から聞いてきた言葉ではあったものの、その和樹の様子におかしくなり、思わず自分の鼻に右手の人差し指を持っていき、「クスッ」っと笑った。
その、葵の人差し指を見て、和輝は『昨日の歯医者で見た美しい指と同じだ』と思い、またしても胸の鼓動が高鳴った。
しかし、その和輝の堅苦しい緊張全開の告白のおかげで、反対に葵の先ほどまでの緊張が一気に解け、さらに『クス、クスッ』と笑った。
その、葵の様子を見て、和輝も照れくさくなり「ハハハ」と頭を掻きながら、照れ笑いをした。