呼び出し
「あっ……あのう……」
和輝は、男友達といるときは、結構威勢が良かったが、相手が女性となるとからっきし意気地がなかった。
「……どちら様ですか?」
電話の向こうからは、はっきり物を言わない電話口の不審者に当然の問いかけの言葉がかけられた。
それでも、人見知りで恥ずかしがりの和輝は、しどろもどろで、
「あっ……あのぅ…… 僕は、時岡和輝といいます」
自分の名前を名乗るのがやっとであった。
「ときおか……さん?……ですか?」
葵は、初めて聞くその名前に不思議そうに繰り返した。
「そう、ときおか……かずきです」選挙の電話でもあるまいに、和輝は自分の名前を繰り返しただけであった。
そんな、和輝の様子に、横で仁たちが声を押し殺しながら、大笑いをしていた。
「私に、何の御用ですか?」
『名前はもういい』とばかりに葵がそう問いかけた。
「あっ……いや」
「……」突然かかってきた不審な電話に、葵が電話を切ろうとしたその時、やっと和輝が電話をかけた要件を話し始めた。
「あっ、待って。電話切らないで。僕、大川高校2年の時岡和輝といいます」
和輝は、葵と同じ高校の生徒だということを伝えて、なんとか葵を安心させようとした。
「僕、昨日、あなたのことを初めて見て、好きというか……あっ、いや、可愛いと思って、少し、一緒に話せないかと思って……今、あなたの下宿のすぐそばの電話ボックスから電話してるので、今から、少しだけでいいので出てきてくれませんか?」
緊張しているため、和輝の物言いは、およそ、下級生にかける電話とは思えないほどの丁寧なものであった。
「……」突然の、電話を通してなされた見知らぬ男からの愛の告白に葵は無言であった。
『どう言って、この迷惑な電話を切ろうか?』葵の頭の中は、おおよそ、そんなところであった。
「頼みます。すぐ近くの、下宿を出て道路を渡った電話ボックスのところにいるので、ぜひ……お願いします」
その、必死の見知らぬ男の電話からの声を聞いて、田舎育ちで、元来、人に冷たい態度を取ることのできなかった葵は、つい、『そのくらいなら』と、電話口の見知らぬ男の依頼に「少しだけなら」と答えた。






