公衆電話
和輝の高校二年の二学期が始まった。
和輝は、学校へ着くなり、仲良しで、女好きの加藤仁のところに行き、昨日の歯医者でのことを話した。
「すごい、かわいい子だったんだよ。名前は『みずもと あおい』って呼ばれてた。お前、何組の子か知らない?」
そんな風に尋ねた。
その和輝の問いかけに、仁は『ああ』という表情で、すぐに和輝の問いに答えた。
「知ってる。1年2組の娘だよ。確かに、可愛い」
さすが、女好きの仁のアンテナは広かった。
「あの娘なら、たぶん、今フリーのはずだぞ。お前、気があるんだったら、早く抑えないと、すぐに男ができるぞ。なんせ、誰でもが見とれるほどの美人だもんな」
仁は、笑いながらそう和輝の告白をせかした。
「何なら、今日の放課後、呼んできてやるから、告白しろ」早くも仁は、自分が恋のキューピット役になることを買って出ていた。
それは、和輝が葵と付き合い始めるにしろ、振られるにしろ、第三者としてはこの上ない楽しみでしかなかったからだ。
人見知りで、恥ずかしがりの和輝が、あまりの急な展開に躊躇していると「お前、本当に彼女に気があるんだったら、早くしないと、マジでほかの男に彼女取られちまうぞ」
和輝は、仁の強引な物言いに「頼む」としか言えなかった。
放課後、仁は葵のクラスに彼女を呼びに行ったが、彼女はすでに下校した後であった。
あまりの急速な展開に戸惑っていた和輝は、一瞬『ホッ』としたが、それもつかの間、仁は「葵を彼女の住んでる所の近くに呼び出そう」と言い出した。
「呼び出すったって……彼女の家だって分からないのに」と言う和輝の言葉を遮り、仁は「そんなこと、お前は心配しなくていい」と言って笑った。
仁は、彼女のクラスだけでなく、彼女が田舎の出身で下宿をしていること、そしてその下宿先がどこかということまで知っていた。
驚くほどの(女性に関しての)情報取集能力であった。
和輝は、仁と、その他野次馬二人の男子生徒を伴って、仁が言う葵の下宿先近くの公衆電話に行った。
和輝が、下宿に電話をかけることを躊躇していると、「何やってるんだよ、俺がかけてやるから受話器よこせ」と言って、いつまでも電話のダイヤルを回さない和輝の手から受話器を取り上げ、十円玉を二枚入れて、さっさと彼女の下宿先に電話をした。
「もしもし、私、時岡と申しますが、学校の連絡事項があるので、水本さんをお願いできるでしょうか?」
いろいろなところに電話をかけなれているのか、流ちょうな物言いで、あっさりと水本葵を電話口に呼び出した。
彼女が、「もしもし」と言って、電話口に出ると、「ちょっと待ってね。君と話したいって言ってる男がいるから」そう言って、和輝に受話器を渡した。
「ほらよ、最愛の彼女が出たぞ」
そう言って笑いながら電話の受話器を渡された和輝は、あわててその受話器を受け取ったものの、肝心の葵への言葉が出てこなかった。






