時報のサイレン
そんな二人の楽しい時間に終わりを告げるよう、夕方の5時を知らせるサイレンがあたり一面に轟いた。
二人が座る広場の隅にサイレン塔が設置されていたため、その音はけたたましく、思わず葵は「きゃー」と言って、耳を抑えながら和輝の胸に身を潜めた。
しかし、それは一瞬のことで、葵はすぐに「ごめんなさい」と言って、元の姿勢に戻ってしまった。
和輝は、その嬉しいハプニングを喜び「いいよ、いいよ……別に今のままでも」とニヤケタ顔で笑っていた。
そんな和輝の言葉に、葵はすぐに自分の無意識の反応を恥じて、顔を真っ赤にして下を向いた。
そういう風に恥ずかしがる葵の様子を和輝は『かっわいい~』と思いながら、笑って見ていた。
ようやく、顔の赤みが引いた葵は「もう、そろそろ行かないといけないんじゃないですか?」と和輝に訊ねた。
その葵の問いかけに和輝も『ペニーレイン』に行かねければならなかったことを思い出し「そうだね……でも、葵ちゃんとずっとこうして話していたいな……本当に葵ちゃん、行けないの?」そう言って葵を再度『ペニーレイン』のイベントに誘った。
その、和輝の問いかけに、葵はしばらく無言でじっと何かを考えている風だったが、やっと口を開くと「ごめんなさい……私、やっぱり、行けない」と和輝に頭を下げた。
その本当に申し訳なさそうな葵の様子を見て、和輝は自分が我がままを言ったことを後悔して「俺こそゴメン、ダメなの分かってるのに、無理強いしちゃって」と謝った。
そんな和輝の言葉に「ううん」と葵は『ニコ』っと笑って顔を横に振った。
和輝と葵はベンチから立ちあがると、手を繋いで城山の坂を下り『ペニーレイン』に向かって歩いた。
その時には、葵の心はすでに和輝の虜になっていた。
だから葵はずっと和輝が自分の肩に腕を回してくれるのを待っていた……が、やはり恥ずかしがりで鈍感な和輝にはそんな葵の気持ちが読めなかった。
そんなぎこちない二人が『ペニーレイン』の前まで来ると、「それじゃあ、私はここで……パーティー楽しんでくださいね。あんまり、遅くなっちゃダメですよ」そんな風に葵が言った。
その葵の自分を気遣う言葉に和輝はうれしそうに「ありがとう。葵ちゃんも、気を付けて帰ってね」と言って、『ペニーレイン』の階段を昇った。
葵は、その和輝の姿が見えなくなるまで、階段の下から和輝の姿を見送った。




