嘘
「あっ…… いえ…… 私、今日は、純ちゃんと一緒に帰る約束しているから……」
その、葵の言葉を聞いた和輝は、葵が『純ちゃん』と呼ぶ、その美少女の方に顔を向けた。
突然、約束もしていないそんな話を、葵から振られた『青井純子』は、和輝の方は見ず、葵の顔を見た。
葵は、やはり、顔を下に向けたままであったが、和輝には見えないように、頭を小さくペコペコ下げながら、下の方で手を合わせて、純子に謝っていた。
その様子を見た純子は葵の気持ちを察し、「あっ!そうそう、そう約束したよね。帰りに本屋さん寄って、『明星』の今月号買おうって」そう出まかせの嘘をついた。
純子は、ブラスバンド部に入っており、本当は、これから葵と別れ、部活動に行かなければならなかったのだが……
「そうなの?葵ちゃん?」
純子のあまりにもたどたどしい返事に、和輝が葵に訊ねた。
その和輝の問いかけに、さすがに嘘をつくことに対する罪の意識を感じた葵は、黙ったままで、返事をすることができなかった。
そんなことをしているところに、一人の女子生徒が教室に入ってきた。
「あーいたいた、純子、あんた、こんなところで何してるのよ? 先生が『早く部活に来い』って怒ってるよ」そう言って、三人の方に近寄ってきた。
そして、初めて見る和輝の顔を見た。
和輝は、その女生徒に『ニコッ』とほほ笑むと、「……だって、純ちゃん」と純子になれなれしく言った。
思わぬことで、嘘のバレた純子は和輝の方を見ることができず、下を向いたまま葵に「ごめん、やっぱり私、部活に行くわ」とだけ言うと、自分の荷物を持って、呼びに来た女子生徒と一緒に逃げるように教室を出て行った。
一人、教室に残された葵も、やはり和輝に嘘をついた後ろめたさから、和輝の顔を見ることができなかった。
それでも、和輝は、先ほどの葵と純子の言ったことには触れず、「純ちゃん、行っちゃったね。これで、僕たち二人っきりで下校できるね」と嬉しそうに言った。
そんな和輝の言葉に、葵はすでに従うしかなくなっていた。




