表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AOI・TOKI  作者: 水野流
Ⅰ 出合い
1/190

美しい指

プロローグ

この物語は、日本が戦後のつらい時代をやっと忘れ、高度経済成長を成し遂げた昭和50年代前半の高校生、時岡ときおか和輝かずき水本みずもとあおいの、若いが故の恋に戸惑う物語である。


その日は四国の片田舎にある大川高校の夏休み最後の日だった。大川高校2年生の時岡和輝は、夏休みの間、ずっと通った『松下歯科医院』の最後の治療で、畳部屋の待合室にいた。



待合室に入るときに、自分の高校の制服を着た女子生徒二人がいることに気づいてはいたが、その時は『うちの学校の生徒が来ている』と思った程度で、特に気にも留めなかった。


待合室は、多くの患者が所狭しと座っており、唯一、隙間のあったその女子生徒二人の前に、周りの人たちに身体が触れないよう注意しながら、和輝はゆっくりと腰を下ろした。


その時、その女子生徒二人も『チラ』っと和輝の方を見たが、それは一瞬のことで、すぐに、自分たちがそれまでに見ていた待合室の雑誌に目線を戻していた。


女子生徒二人のうちの一人が、雑誌のページを指さし、もう一人の女子生徒に何かを話しかけた。


その声は、周りを気にしたささやく程度の小さなもので、すぐそばにいる和輝にも、何を言っているのかは聞こえなかった。


しかし、ただ待合室の畳に腰を下ろし、何をするでもなく暇を持て余していた和輝は、その女子生徒が何を言ったのかが妙に気になり、その彼女の指さすページを見ようとその方向に目を向けた時だった。



和輝の目に入ってきたのは、その雑誌のページではなく、その、女子生徒の白く細い人差し指で、その人差し指は、すらりと細く伸びて美しく、今まで指になど何の興味もなかった和輝の胸に衝撃が走った。


『女性の指って、こんなに美しかったのか?』

和輝は、そんな思いで、無言のまま、その女子生徒の人差し指を見つめた。


その美しい指を持った女子生徒は、ずっと顔を上げず、その雑誌に顔を向けていたため、自分を凝視する和輝の目線には気づかぬ風であった。



やがて、和輝の目線は、その美しい指から、その指の持ち主の顔の方に移った。



和輝は、その時初めて、その女子生徒の顔を認識した。

再び、和輝の胸に衝撃が走った。


それは、人差し指と同様……いや、それにも増して美しく息を飲むものだった。

人差し指と同じく真っ白なその顔は、細面で鼻筋がとおり、高校生とは思えないように大人びていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ