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9話 写真を撮ろう

「みんなで風紀委員会らしい写真を撮ろう」


 いつもの放課後。

 いつもの部室に集まった僕達に、浅香先輩は高そうなカメラを片手にそう言った。


「みんなで写真? そりゃ構わないですけど、なんだまた?」


 集合写真なんて4月に撮って以来だ。


 しかし、イベントでも何でもないのに、どうして今日写真を撮るんだろう?


「さっきOB会に頼まれたんだよ。なんでも、毎年会員に配布している配付物を今年はカレンダーにしたいから、その素材として各委員会、部活の写真が欲しいんだと。めんどうだから今日撮るぞ」


 なるほど、それで浅香先輩が柄にもなく写真なんて言い出したのか。


「そんなこと去年は言われなかったよねぇ? 去年は一体何を配ってたの?」


 今年はカレンダーと言うのだから去年は別の何かを配ったのだろう。


 好奇心旺盛な万智先輩は過去の品物が何だったのか興味を示す。


「去年は確かコップだったかな。初代校長の顔がデカデカと印刷された不気味な奴。うちは父さんも母さんもここの卒業生だから、2つ届いてすげえ迷惑だった」


「初代校長の顔って……何をどう考えたらそれをわざわざ全国各地の卒業生に送り付けるという発想に至るんですか」


 OB会は正気か? 初代校長に縁のある遠い昔の卒業生以外には嫌がらせでしかないだろ……! いや数年後、僕の元に現校長の顔が印刷されたコップが届いても嫌な気持ちにしかならないな。やっぱり完全に嫌がらせじゃん! 


「悪趣味ですね」


「結婚式の引き出物で貰う、新郎新婦のイラスト入りのお皿よりもいらないよ……」


 初代校長入りコップは僕達風紀委員の中でも大不評だ。


 薫ちゃんも万智先輩もいらない、不気味と言いたい放題。


「二年前はもっと凄かったぞ? 歴代の校長、教頭の顔が印刷されたトランプが送られてきたんだ」


「うちのOB会には顔を印刷した品物しか配布できない決まりでもあるんですか……」


 トランプ54枚に、それぞれ異なる顔が印刷されていたのだろうか。うーむ、これも不気味だ。


 あまりにも僕らが渋い顔をしていたからだろう。


 薫ちゃんは、なんとか良い所を探そうと、不気味なトランプにフォローを入れてくる。


「で、でもほら。トランプだったら子供も遊べるし、貰った人も喜んだんじゃないですか?」


 確かに。


 いくら不気味で気持ち悪くても、トランプはトランプ。きっとある程度は遊ばれただろう。そう考えると、校長入りコップよりもまし?


「いや、それがだな。トランプには歴代校長、教頭の顔が印刷されていると言ったが、実は裏面にも顔が印刷されていてな。表面は真顔、裏面は笑顔と一粒で二度おいしいリバーシブルな作品になっていたんだ。当然、トランプとしてはまともに機能しない」


「誰得なんですかそれは!?」


 いい年した知らないおじさん達の表情の差分なんて誰も求めてないよ! 


 ていうか、そのせいでトランプとして機能しないって、やっぱりOB会は全国の卒業生相手に嫌がらせをしてるんじゃないだろうか?   


「トランプとして機能しないトランプって……それは果たして本当にトランプなの?」


 あまりにも衝撃な事実に、万智先輩はなにか哲学的なことを言い始めてしまう。


 薫ちゃんは薫ちゃんで、残念過ぎる歴代配布物達に逆に興味が湧いてしまったようだ。前のめりになって浅香先輩にそれ以前の事を問いただす。


「そ、それで、三年前はどうだったんですか、静先輩?」


 流石に三年前ともなると、浅香先輩もパっと頭に出てこないのか少し考え込む。


「そうだ、そうだ。三年前は小さな首振り人形だった! なんでも当時在校生だった健介君のパパがモデルだったらしい。人形のモデリングにかなりの金を掛けたのか顔がとてもリアルでな。触れても居ないのに夜中勝手に首を振り出して途轍もなく恐ろしい人形だった」


「健介君パパって誰ですか!? せめてそこは健介君にしましょうよ! いやそもそもなんでOB会が首振り人形を送るんですか!?」


 これまた貰った側が困る品物だ。


 首振り人形なんてよっぽど好きなアニメキャラとかスポーツ選手でもなけりゃ誰も欲しがらない。ましてや健介君パパとか言う見ず知らずのパパに精巧に似せた人形なんて、健介君パパの魂が勝手に人形に乗り移ってそうで恐怖しか感じない。 


 せめて、せめて首を振らなければ……。いや首を降らなくてもいらないわ、これ。


「あはははは。け、健介君パパかわいそう。ってかなんでパパなの。そこは校長でいいでしょ。あはははは」


 そのツッコミどころ満載な首振り人形が万智先輩の笑いのツボに嵌ったらしい。万智先輩は苦しそうに健介君パパ、健介君パパ……と息も絶え絶えに健介君パパに大爆笑だ。


「な、なるほど、そう来ましたか。毎年毎年、手を変え品を変え、卒業生への嫌がらせに精を出しますねOB会も」


 薫ちゃんは自分の中でどんな迷惑な品が送られていたか予想を立てていたのだろう。まさかの首振り人形が正解だった事に驚きを隠せないでいる。


 やっぱり薫ちゃんも嫌がらせだと思うよね、これ。


「まぁ、OB会のセンスの無さは昔からある種有名だったらしい。卒業生もこれはこれで話のネタになると受け入れているそうだ」


 そんなもの毎年送ってこられてよく我慢できるね。卒業生の器大き過ぎである……。


「さて、それで話を戻すが……これから写真を撮る。どんな風にその写真を使われるかは私も分からんが、どうせなら私達らしい写真が撮りたいじゃないか! という事で、私達らしい写真について意見出せ!」


 ふむ、僕達らしい写真か。


 運動部だったらそれぞれの競技をしている風景でも写真に収めれば良いのだろうが、生憎僕達は風紀委員。活動風景が極めて地味だ。これは普通に集合写真撮るしかないのでは?


「ちなみに、普通に集合写真を撮りましょうとか言う面白味の無い事を言うやつが現れたら――」


「「「現れたら?」」」


「菱井が床に這いつくばりながら私の靴を舐めるシーンを写真に撮ってそれを提出する」


「何でOB会のカレンダーのためにそんな倒錯的な写真を提出しなくちゃいけないんですか!? いやそもそもどうして僕だけ!?」


 あ、危なかったー。もうちょっとで普通に集合写真撮りましょうよって言っちゃうところだったよ。


 ギリギリの所で、浅香先輩への服従シーンの撮影を免れた。


「だって散夜は親友だし、大道寺は可愛い後輩だし……」


「一体僕はなんなんですか!? 僕だって可愛い後輩でしょう!?」


「え? 菱井って私の下僕だろ? 私が死ねと言ったら笑顔で死にますって入部したあの日、菱井言ってたじゃねえか!」


「言ってませんよ! やめてください記憶を捏造するの! あなた記憶力めちゃくちゃ良いでしょう!?」


 ほら、浅香先輩が変な事を言うから、万智先輩と薫ちゃんが変な目でこっち見てる!


「ふふふ、レンレンったら! そんな趣味があっただなんて。わたしが2人目のご主人様になってあげても良いんだよ?」


「2人目以前に、僕にご主人様なんて存在しませんから! そういう趣味でもありませんから!」


 何故こうも万智先輩は簡単に浅香先輩の戯言を信じてしまうのだろうか。


「蓮君、もしアレなら……私のペットになりませんか?」


「アレ!? アレって何!? そんな恥じらいながら可愛く言ってもペットにはならないよ!?」


 薫ちゃん、君もか……。


 浅香先輩のせいで突如僕に降って湧いたドM疑惑。次々とみんなご主人様に立候補してくるが、みんなそんなに下僕が欲しいの!? みんなドSなの!?


 なんてこった、僕の予想では万智先輩と薫ちゃんはどちらかと言えばMだと思っていたのに……。


 嬉しそうにご主人様に立候補するこの様子では、その考えは改めた方が良いかもしれない。


「ごほん。それじゃあポスター作りをしている様子とかどうです? よく『廊下は走るな』とか『ゴミの分別はしっかりと』って感じのポスター作ってるじゃないですか」


 僕に不利な話題が続きそうだったので、ここは無理矢理軌道修正。


「ふむ、まぁ悪くないな」


「でしょう? いかにも風紀委員会って感じで良いと思いますよ」


 そんな僕のナイスアイディアに浅香先輩もまずまずと言った様子で頷いている。


 これは決まりかな?


 そう思っていると薫ちゃんが余計な一言を呟いた。



「でもこれって生徒会と被る可能性がありますよね? 生徒会もよくポスターを作ってますし……」



 あぁ! せっかく浅香先輩が気が付いていなかったのに……!


 我儘で自尊心の強い浅香先輩の事だ。この事に気付いてしまったらきっと――


「じゃあ無し! 生徒会と同じ事なんて絶対嫌だ!」


 うぅ、やっぱり……。


「もうー、どうしてそんなに生徒会に対抗意識を持ってるんですかぁ。良いじゃないですか、アイディアが被っても」


 アイディア被り禁止なんていう縛りプレイをしていたら、いつまで経っても写真が撮れないよ……。


「別に対抗意識を持っている訳じゃない。この完璧な私の所属する風紀委員会の考えが、完璧な私の所属しない生徒会と同じという事実が気に食わないだけだ」


「自分への自信と信頼が過剰過ぎますよ」


 確かにそう自負するほどの能力があるのは認めるけど。


「勿論、私自らがスカウティングしたお前たちの能力も私は高く買っている。だからこそ――」


 え、えへへへ、滅多に人を褒めない浅香先輩に褒められると照れちゃうな……! ようし、それなら浅香先輩も認めるこの僕が! 誰も思い付かないような唯一無二のアイディアを捻り出しちゃうぞ!


「――とまあこのように、たまに褒めて飴をあげると下僕は元気になる」


「「なるほどぉ!」」


「ってまだそれ続いてたんですか!?」


 ちくしょう、頑張ろうと思って損した! もうアイディアなんて出してやるもんか! 


 そう僕が一人心の中でいじけていると、薫ちゃんが新しいアイディアを提案する。


「そうだ、校則の勉強会をしている風景を写真に撮るのってどうですか? 勉強熱心な風紀委員って感じでとっても良いと思いません?」


 おお! これなら如何いかにも風紀委員会っぽいし、どこのアイディアと被る恐れが無い!


 完璧じゃないか、薫ちゃん!


「うーん、確かにそれならシズの条件通りだねぇ。唯一、『法律部』だけが似たアイディアになる可能性があるけど……あっちは法律で、こっちは校則だし、大丈夫でしょ!」


 万智先輩もこの完璧なアイディアの穴は見つけられなかったようだ。満足そうに何度もうんうんと頷いている。


「よし、それじゃ今から校則の勉強をしてるっぽい風景を作り出すぞぉ!」


「「「おおー!」」」

 




 後日、僕らの部室に不気味な顔がえがかれた来年用のカレンダーが置かれていた。


 よく見ると、その不気味な顔は小さな一枚一枚の写真で構成されている、それはそれは見事なモザイクアートだ。


 こ、これはまさか……?


 僕は勇気を振り絞って浅香先輩にこの気味の悪いカレンダーは何ですか? と尋ねてみた。


「あぁ、これはOB会が今年会員に配布しているカレンダーだ。なんでも各部活、各委員会の写真を素材にしてモザイクアートで顔を作ってみたんだそうだ。

 ……くそ、あのOB会のヒゲおやじ。だから写真はカレンダーの素材にするなんてふわぁっとした事しか言ってなかったのか! ちくしょう騙された!!」


 カレンダーの不気味な顔の下には、小さな字で『第7代養護教諭 葛西大五郎』と書かれていた。



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