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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第四章

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第九十八話 「日常へ迫る恐怖」


 王都ブロッサム、王立ハーベスト魔術学園。

 そこでは今日も、何事もなく平穏な授業風景が映っていた。

 国家魔術師を目指す卵たちが、知識と経験を深めて夢への一歩をまた強く踏み締めている。

 そんな中、二人の女子生徒は授業の風景から離れて、保健室にいた。


「そろそろ戻らないと先生に怒られてしまいますよ」


「うぅ〜……」


 ベッドで体を起こしている茶髪の女子生徒。

 そのベッドに横から飛び込んで、女子生徒の膝上にぐでっと寝転んでいる金髪の女子生徒。

 一年A組所属のマロン・メランジェとポワール・ミュールである。

 ベッドに入っているマロンの方が病人であるはずなのに、なぜかポワールの方が辛そうな(というか眠そうな)声を漏らしていた。


「私のことでしたら、もうそんなに心配はいりませんよ。まだ走り回れるほどの体力は戻っていませんけど、体調はこの通りすっかり良くなりましたから」


 マロンはそう言いながら、胸の前で控えめに両拳を握る。

 星華祭の競技中にて、暴走したマイス・グラシエールに傷を負わされたマロン。

 その傷は早いうちに同級生のサチに治してもらったが、失われた体力までは治癒魔法では戻すことができず、しばらくマロンは安静にするように言われた。

 加えて暴走者から傷を負わされた弊害についても危惧されており、魔素に影響がないか、体調に変化はないかなど、経過を見守られている状況である。

 しかし体調もすっかり戻って、異常がないことも認められたため、いよいよ数日以内の退室が見込めるようになっていた。

 だというのに、友人のポワールは事件のあった日から欠かさず今日まで保健室に通い詰めている。

 そして今日は、特に滞在時間が長かった。


「もうお昼休憩の時間はとっくに終わって、かれこれ一限分ほどそうしていますけど、授業を受けに行かなくていいのですか?」


「……マロンが安静に寝られるベッドか、よく確かめておかないといけないから」


 ポワールはそう言って、ボフッとベッドに頭を埋める。

 いつもであれば授業が始まる前の朝と、昼休憩の時間に顔を見せに来る。

 そして授業が始まるギリギリまで一緒にいて、名残惜しそうにポワールが退室するというのが恒例の流れだが、今日は昼休憩が終わってもずっと保健室でマロンにくっついていた。

 その訳を、まるで自白するかのように、ポワールは我知らずこぼす。


「今日、サチもミルも、公欠だって」


「まあ、そうだったのですか。ここ二週間、サチ様がお忙しくしているのは聞いていましたけど、ミル様も公欠なんて。もしかして、それで親しい相手が誰もいないから、教室に行きたくないということですか?」


「……」


 ポワールは無言という形で頷きを返す。

 ミルとはまた違ったタイプの人見知りをするポワール。

 彼女は親しくない相手とは徹底的に接することを嫌がる。

 そして親しい相手が近くにいないと、気持ちがざわついて落ち着かなくなってしまうのだ。

 マロンが授業に出られなくなってからというもの、ポワールは教室にいる時サチかミルの近くに寄ることが多くなった。

 あの二人と一緒にいれば気持ちを落ち着かせることができるのだが、生憎今日は二人とも公欠である。

 早朝から何か用事があって出掛けてしまったみたいで、ポワールは孤独な一日を過ごすことになった。

 昼休憩になって逃げ込むように保健室にやって来た姿が、マロンの記憶に新しい。


「クラスメイトの方たちは、まだ少し苦手ですか?」


「……うん。別に嫌いってわけじゃ、ないけど、話すとすごく、疲れちゃう」


 ポワールはマロンの膝上に掛けられている毛布を控えめに握る。

 それから脳裏に二人の少女の姿を浮かべた。


「やっぱり、サチとミルの方が、話しやすい」


「だからと言って、二人がいないことを理由に授業をサボってしまってはいけませんよ」


「……うん」


 ポワールは申し訳なさそうに目を伏せる。

 そのしおらしい様子を見て、マロンは微笑みながらポワールの頭を撫でた。


「……でも、それだけじゃ、ないの」


「えっ?」


「三人がいないから、落ち着かないのも、そうだけど…………なんかね、この辺がざわざわするの」


「ざわざわ……?」


 自分の胸元に手を当てるポワール。

 そんな彼女を見てマロンが首を傾げていると、ポワールは不安げに続けた。


「よく、わかんないけど、たぶんなんか……よくないことが、起きる気がする」


 そんなふわふわとした曖昧な予感。

 ポワールには自分でも説明ができない、不可思議な力が宿っている。

 体に何かしらの不調が現れると、決まって彼女の周囲では災難が起きていた。

 まるでポワールの体そのものが、災害の予兆を捉えて危険を知らせるかのように。

 感知魔法とはまた違った類の、体質による予知能力。

 それは彼女の魔素が関係していることなのだが、ポワール自身、その力を自覚していない。

 それほど曖昧で不安定な力。


 しかし近頃、ポワールはその予知能力に気が付き始めてきた。

 まだ確実に認識できたわけではないが、先日の星華祭がきっかけで力を自覚しつつある。

 マロンがマイスに重傷を負わされた時も、事件直前に胸のざわつきを覚えた。

 幼い頃から似たようなことがあり、いよいよ親友であるマロンの窮地に強烈な胸のざわつきを感じて、ポワールはこう思うようになった。


(胸が、ざわつくと、周りでよくないことが、起きるかも……)


 という程度の、ぼんやりとした認識。

 それが再び、ポワールの身に起きていた。


「それで、私のことを心配して、見守ってくれているということですか?」


「……そう」


 自分でも上手く言うことができないため、ポワールは複雑そうな顔をして再び毛布に埋まる。

 対して、ポワールの力を把握していないマロンは、“ふふっ”と静かに笑みを浮かべた。


「私のことでしたら、もう本当にすっかりよくなったんですよ。ですからそんなに心配しないでください」


「うぅ〜……」


 ポワールが言葉足らずなこともあって、マロンはそこまで重く捉えていない。

 きっと最近、身の回りで色々な騒ぎが起きているから、そのせいで心が落ち着いていないだけだと、そのようにしか思っていない様子だった。

 お化けを見たと母親に言って、それを信じてもらえない娘のような気分を、ポワールは味わう。


 その時――


『学園内のすべての者たちに命じる』


「「……?」」


 不意に頭の中に聞き覚えのある女性の声が響いた。

 芯が通っていて厳格な性格を思わせるが、どこか優しげな雰囲気も感じさせる女性の声。

 学園長アナナス・クロスタータのものだ。


『現在、周囲の魔獣区域から、複数体の魔獣が群れとなって王都に迫っておる。町にもすでに避難命令が出ており、当学園が避難所として開放されるため事前に承知しておいてもらいたい』


「魔獣の、群れ……」


 マロンとポワールは不安げな顔を見合わせる。

 今まさに、ポワールが『よくないことが起きるかもしれない』と言った矢先のこと。

 二人の驚愕は当然のものだった。


『そして当学園の生徒たちには学園内での待機を命じる。全員、担当教員の指示に従って、落ち着いて行動してほしい』


「……」


 その伝達が終わり、マロンとポワールの二人の間に緊張感が走る。

 魔獣の群れの侵攻。

 反魔術結社ミストラルが魔獣侵攻を企てていることは、公にはされていない。

 その対策を国家魔術師が中心になって秘密裏に行っていることも知らされていなかった。

 しかし近頃、王都内は妙な空気に包まれていた。

 それは一定数の者が気づいていて、特に実力のある魔術学園の生徒たちがそれに該当する。

 マロンとポワールもそのうちの二人だった。

 そしてその違和感の正体がいよいよ明かされたことで、二人は不安な気持ちを抱く。


「もしかして、サチ様とミル様が公欠している理由と、何か関係があるのでしょうか?」


「……」


 多くは明かされていないため、二人はそれ以上のことは何もわからなかった。

 悩ましげに眉を寄せるマロンを見ながら、ポワールは一人静かに考える。

 学園内での待機を命じられたので、それに従うのが一番いいだろう。

 確かにここにいれば学園長の張る結界や教員たちに身を守ってもらえる。

 だからこのままマロンと一緒に、保健室で大人しくしていれば安全だ。

 とは思ったが……


「……マロンは、ここで安静にしてて」


「えっ?」


 教室に戻りたくないというだけで、まったく動くことがなかったポワール。

 そんな彼女が、重い体を起こして、タタッと保健室の扉に駆けて行った。


「ど、どちらへ行かれるのですか、ポワールさん?」


 当然マロンは不思議に思い、ポワールの背中を呼び止める。

 学園内での待機命令が出ているのに、ポワールがどこかへ向かおうとしている。

 その大胆な行動に驚いたのもそうだが、それ以上にポワールが自発的に動き出したことが衝撃的に映った。

 今まで何をするにしても、誰かに指示をされたり強制されたりしなければ動かなかったのに。

 そんな彼女が、たった今、自分の意思で何かを始めようとしている。

 幼い頃から彼女を見てきたマロンにとって、これほどまでに衝撃的なことはなかった。


(このままじゃ、たぶん、ダメな気がする)


 学園にいれば安全は保証される。

 と、わかってはいるが、ポワールの胸のざわつきは増していく一方だった。

 まるでこのままでは、必ず悪いことが起きるという予兆のように。

 きっと自分から何かをしないと、このざわつきは消えることはないのだ。

 ポワールはそう思い、胸のざわつきに従って保健室を出ることにした。


「マロンの眠りは、誰にも邪魔させないから……安心して、ここで待ってて」


「……」


 最後に親友にそう言い残し、ポワールは廊下を走り出す。

 本来であればマロンの傍にいて、彼女のことを守りたかった。

 けれど下手をしたら、むしろ自分が不幸を引き寄せてしまうかもしれないとも考えた。

 それならばマロンのことは教師たちに任せた方が確実だ。


 加えてもう一つの懸念として、サチとミルの公欠がある。

 二人が同じタイミングで学園を休み、それに合わせるかのようにして魔獣が侵攻して来た。

 もしかしたらこの胸のざわつきは、マロンの危険を知らせるものではなく、あの二人の窮地を伝えるものなのではないだろうか。

 そういった理由から、ポワールは保健室を飛び出して、町の正門まで様子を見に行くことにした。


 眠り姫は寝ぼけ眼に火を灯し、友のために奔走する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無駄に権力を振りかざす貴族との軋轢も学園内だし、ならば出ていけで済むから問題ないかな?有るとすれば組織の扇動役ですな
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