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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第七十三話 「完全治癒魔法」


 星華祭が中止になった後。

 観客たちは学園を立ち去り、生徒たちも学生寮に戻るように先生たちから指示を受けた。

 後日からの予定は変更なしということで、授業もいつも通り行われるという。

 その話を各教室で担当教員から聞くと、その日は下校ということになった。

 マロンさんの容体など、色々と気になることはあったが、私もみんなと同じように大人しく学生寮に戻ることにする。

 しかし……


「サチ君、少しいいかな?」


「……?」


 帰り際、レザン先生に呼び止められて、思わぬ形で疑念を解消する機会に恵まれた。

 

「保健室のポム・プワゾン先生が呼んでいる」


「保健室、ですか?」


「マロン・メランジェ君が今、保健室で体を休めているのだ。彼女の傷の治療をした君に、色々と話を聞きたいらしい」


「マロンさんが……」


 ちょうど彼女の容体が気になっていたところだ。

 まあ私が治療をしたので大丈夫だとは思うけど、念のために様子を見ておきたい。


「はい、わかりました。すぐに行きます」


 というわけで私は保健室に向かうことにした。

 寮の同室者であるミルには先に帰ってもらうことにする。

 ミルもマロンさんの容体が気になっているようだったので、一緒に来るかどうか誘ったけれど、大勢で押しかけても迷惑だと言って遠慮していた。

 そのため一人で特別棟二階の保健室を目指す。

 私はお世話になったことがない場所なんだけど、他の生徒たちは度々利用しているところらしい。

 というのも、生徒たちは魔獣討伐を日常的に行っているので、傷だらけになって帰って来ることもしばしばだ。

 その傷の治療をするために保健室を使っているとのこと。


「ここか……」


 噂の保健室へと辿り着いた私は、若干緊張しながら扉を叩く。

 すると少し経ってから、扉の向こうに人が来る気配を感じて、ゆっくりとそれが開き始めた。

 そういえばどんな先生がここにいるんだろう? なんてぼんやりと考えている、私の目に……

 町の裏路地を取り仕切っていそうな、鋭い目つきのイカつい赤髪の女性が映った。


「あっ、誰だてめえ?」


「…………あっ……えっと……」


 私は思わずあわあわと唇を震えさせてしまう。

 鮮血が染みたような真っ赤な長髪。それを後ろで一本に結んでいる。

 ほとんど瞳が開いていない糸目は言い知れぬ威圧感があり、なぜか不機嫌そうに顔をしかめていることも相まって否応なしに萎縮させられてしまう。

 まさか保健室を訪ねてこんな怖い人と出会うことになるとは夢にも思わなかった。

 なぜこんな場所におっかない不良が……? なんて戸惑っている私の目に、女性が着ている白衣と短いスカートが目に映る。

 おまけに手には黒いボードを持っていて、その格好はいかにも保健室の先生のイメージそのものだった。

 もしかして……


「ボ、ポポ……ポム先生でしょうか?」


「ポッポポッポうるせえな! ウチはそんな変な名前じゃねえ!」


「ひいっ!」


 動揺するあまり噛んでしまい、女性をひどく怒らせてしまった。

 怒り方も怖い! 怒鳴り声もドスが利いてる!

 黒いボードより木剣でも持っている方が似合っているくらいだ。


「んっ? 誰かと思ったら、お前もしかしてサチ・マルムラードか?」


「んにゃ?」


 ビクビクと顔を覆いながら震えていると、女性が厳しい顔をやめて首を傾げた。

 唐突に名前を呼ばれたことで困惑しながらも、私はおもむろに頷きを返す。


「は、はい。サチです。マルムラードです」


「おぉ、そっかそっか! いやぁ、また学園のヤンチャな連中が怪我やらかして来たのかと思ったからよぉ。ついきつい態度とっちまったよ。悪かったなサチ」


「……」


 バンッバンッと背中を叩かれてますます萎縮してしまう。

 突然友好的な接し方をされて、どう返していいかわからなかった。

 しかしそんなこちらの動揺を意にも介さず、白衣の女性は口を走らせ続ける。


「学園の連中はホントにヤンチャな奴らしかいなくてよ、ウチの魔素だって無限大じゃねえんだから、少しは気ぃ遣ってほしいもんだよな。いくらウチが“治癒魔法の達人”だからって、いっつもウチを頼って来やがってよぉ」


「は、はぁ……」


 舌打ち交じりにぼやく女性だったが、その顔からは微かな喜びを感じる。

 まるで手のかかる子供を相手にしている母親のような……あるいは生意気な弟や妹を相手にしている姉のような印象を受けた。

 満更でもなさそう。


「おっとわりぃわりぃ。関係ねえ話しちまったな。ウチがポム・プワゾンで間違いねえよ。んじゃ、さっそく中に入ってくれ」


「えっ、ちょ……!」


 手を引かれるままに保健室の中へと連れ込まれる。

 この人が保健室に私を呼んだポム先生で間違いはないようだ。

 でもこんなにおっかない人だとは思わなかったなぁ。

 いったいどうしてここに呼ばれたのか、唐突に不安な気持ちが湧いてくる。

 ともあれ保健室に入った私は、初めて見る景色に新鮮な気持ちになった。

 保健室はかなり広かった。

 治療院の大部屋と同じくらいの広さで、ベッドも左右の壁に四つずつある。

 そのうちの一つ、右側の壁の一番奥のベッドに一人だけ眠っている生徒がいた。


「マロンさん……」


 彼女はいまだに体力が回復し切っていないようで、静かに寝息を立てている。

 そのマロンさんの目の前まで連れて来られると、ポム先生は話を始めた。


「サチには確認のためにここに来てもらったんだ。この子はサチが治療したんだよな?」


「そう、ですけど……」


「サチが治療してるの見てた連中から、色々と話は聞いてんぞ。でもやっぱどうしても納得できねえことがあってな。サチに直接話ぃ聞こうと思ったんだよ」


 納得できないこと?

 いったいどんなことを聞きたいのだろう?

 ポム先生はマロンさんのことを案じるように、柔らかい視線で見つめながら続ける。


「マロン・メランジェの傷はかなり深いものだった。それこそ多くの魔術師が治療を諦めるほど甚大なものだったってな」


「えっ、そんなに危ないところだったんですか?」


「教員たちが万全の状態で、複数人で治療に臨んでようやく命を繋ぎ止めることができるほどの傷だったんだよ。だってのにマロンを治療したのがたった一人の新入生って聞いて、ウチも驚かされたもんだよ」


 ポム先生はそう言いながら苦笑を浮かべる。

 次いで彼女は眠っているマロンさんのお腹辺りに手をかざして、訝しむように眉を寄せた。


「かなりの深傷が完全に塞ぎ切ってる。どころか傷痕も治療痕も何もない。どれだけすげえ治癒魔法を使ったって、どこに傷を受けたのかわかるくらいには痕が残るはずなんだよ。こんなのぜってぇあり得ねえ」


 不意にポム先生は、心なしか悔しそうな顔をして拳を握りしめた。


「ウチは競技で怪我した連中の面倒を見てたから、駆けつけることはできなかったが、ウチだって助けられたかどうかはわかんねえ。だから参考として教えてくれ。サチはいったいどんな魔法を使ってマロンを助けたんだ?」


 ポム先生が真剣な眼差しでこちらを見てくる。

 その瞳からは純粋な向上心と、彼女の優しさのようなものを感じ取ることができた。

 なんだか少しだけ、この人の性格というものがわかったような気がする。

 学園の生徒たちをヤンチャな奴らと評しながらも、保健室の先生として治療活動をしているポム先生。

 きっと日頃から怪我をする生徒たちを誰よりも心配している人物なのではないだろうか。

 だからもっとたくさんの生徒を、完璧に治療してあげられるように、私に話を聞こうと思ったのではないかな。


「過去に何人か、ウチでも治し切れなかった生徒たちがいる。でかい傷跡が残っちまったやつとかもな。サチの魔法だったら、そういう奴らも完璧に治すことができんのか、その辺りのことを聞きてえと思ったんだよ」


 その時の生徒たちのことを思い出しているのか、ポム先生はやり場のない怒りを抱くように歯を食いしばる。

 たぶん参考にはならないと思ったけど、私は確率魔法のことを彼女に話すことにした。




「…………確率魔法の【天使の気まぐれ(カプリス・チュール)】、か。成功したらどんな傷でも完治させる魔法。そんなもんがあったのか」


 簡単に確率魔法の説明を終えると……

 ポム先生はどこか悔しがるように赤髪を掻いて、確認を取るように尋ねてくる。


「普通じゃほとんど成功しねえ魔法だから、誰も使ってねえし記憶にも残ってねえ。そんな魔法も、幸運値999だから絶対に成功させちまうってことか」


「は、はい。そういうことになりますね」


 改めてそう聞くと、常識破りすぎる法則だけど。

 するとポム先生は、唐突に吹き出すような笑い声を漏らした。


「グ……クハハッ! クハハハハッ! んだよそりゃ! 反則じゃねえかよそんな魔法! とんでもねえ逸材もいたもんだなおい!」

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― 新着の感想 ―
なんというか報連相がぬかってる職員陣だねえ
[一言] なんだろ。認識阻害魔法でも使われてるのかってくらい、サチの能力についての情報が広まるのが遅い。流石に不自然では? 平民だから素直に評価できないってのはわかるけど、同じクラスメイトや教師陣でも…
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