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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第七十二話 「中止」


 兄のマイスを無力化した後。

 彼の身柄は拘束されて、生徒指導室へと連行された。

 これでひとまずは暴走者を会場から追い出せたため、観客たちは微かに安堵する。

 しかしいまだに学園内は混乱に満ちており、周囲からは戸惑いの念が伝わってきていた。

 そんな観客たちを落ち着かせるために、先生たちが必死に動き回る中、私も担任のレザン先生にマイスとの戦いについて聴取を受けている。


「なるほど、魔素の暴走か。だとしたら詠唱なしで魔法を撃てていたことも納得できるな」


 実際にマイスと戦った私だからわかっていること。

 そのすべてを明かすと、レザン先生は紫色の髪を掻いて顔をしかめた。


「私を含め、魔素が消耗していたせいで加勢できなかった教師たちも多くいた。本当にすまない。だから代わりに彼を止めてくれてすごく助かったよ」


「い、いえ、止めたと言っても、かなり強引な方法でしたから」


 私自身、今回の成果にはあまり納得できていない。


「確か、【憩いの子守唄(ウルーズ・シエスタ)】と言ったか? “魔素を眠らせて”暴走を止めたらしいな。状況から考えても適切な対処だったように思うが」


「その魔法はまだ扱い切れていないので、彼の魔素がどれくらいの眠りについたのか、私でもよくわかっていないんです。毒や呪いといった類でもないので、治癒魔法での治療もできませんし……もしかしたら、ずっと“魔法を使えない体”にしてしまったかもしれません」


 魔術師生命を完全に絶ってしまった、という可能性も充分にある。

 だからもっと別のやり方で止めるべきだったのではないだろうか。

 私なら他の方法だって取ることもできたのではないか。

 そんな後悔を抱いていると、唐突に脳内に声が響いた。


『いいや、それでもよくやってくれたぞ、サチ・マルムラード』


「学園長さん……」


『そうでもしなければ、あの者を抑えることはできていなかったじゃろうからな』


 レザン先生にも学園長さんの声が聞こえているようで、その意見に同調するように頷きを見せてくれる。

 そうして二人に慰めてもらったことで、ようやく私は自分の行いに僅かに納得できた。

 とりあえず死者が出なかったことだけはよかったと考えるべきかもしれない。


『完全に任せっきりにしてしまってすまぬな。一人の暴走者が出てしまったため、他の場所でも同じく暴走者が現れる可能性を考慮して目を光らせておく必要があったのじゃ。誠に感謝するぞサチ・マルムラード』


「いえ、元からそういう約束でしたから。ところで他に暴走者は出ていないんですか?」


『うむ、今のところはな』


 それならよかった。

 暴走者が出現する前兆も条件も何もわかっていないので、またいつどこで誰が暴れ出すか誰にもわからない状況なのだ。

 今のところは別の被害が出ていないみたいで安心した。


『しかしいまだに予断を許さぬ状況じゃ。新たな暴走者がこの瞬間にも現れるかもしれぬからな。おまけに生徒の中から暴走者と被害者を出してしまっため、協議の結果、此度の星華祭は中止する運びとなった』


「えっ……」


 星華祭、中止。

 その言葉が頭をぐるぐると回る。

 ここまでみんなで繋いできたバトンが、唐突にはたき落とされたような気持ちになった。

 一人で気持ちを沈ませていると、レザン先生が複雑そうな表情ながらも頷きを見せる。


「まあ、妥当な判断かと思います。暴走者の出現は前々から危惧されていたことで、星華祭の開催自体も危ぶまれていましたから」


「そ、そうだったんですか?」


「それでも、生徒の活躍の場を失わせるわけにはいかないと、アナナス学園長が政府に掛け合って星華祭を開催できるようにしたのだよ」


 まったく知らなかった。

 確かに生徒のほとんどがやる気をみなぎらせていた。

 例に漏れず私やミルも、マロンさんの一件もあって星華祭へはかなり前のめりになっていたし。

 学園長さんはそんな生徒たちの気持ちを無駄にしないために、星華祭を開催できるように色々と動いてくれていたのか。


『だが、恐れていた通り暴走者を出してしまったため、中止はやむを得なくなったがな。被害に遭った生徒にも申し訳がない』


 次いで学園長さんは、改まった様子の声音で続けた。


『だから改めて、サチ・マルムラードには礼を言う。被害に遭った生徒を救ってくれて、本当に感謝する』


「い、いえ……」


 その後……

 星華祭中止の連絡が学園内に流れた。

 それを受けて生徒たちからは不満の声が続出し……と、思いきや、意外にもそんな事態にはならなかった。

 多くの生徒たちがグラウンド競技場にて、例の騒ぎを実際に見ていたため、競技の中止は妥当なものだと思ったらしい。

 それほどまでにマイス・グラシエールの暴走が、生徒たちの目には衝撃的に映ったようだ。

 しかし当然落胆する者たちもいて、事件を目撃していない生徒たちや、わざわざ遠方から見学に来ていた観客たちは大いに残念がっていた。

 同じようにして一年A組の生徒たちも、二重の悲嘆に暮れている。


 せっかく優勝できそうだったのに、という無念。

 そしてクラスメイトのマロンさんが被害に遭ったという衝撃。

 しかし誰も責めることができないため、やり場のない怒りだけが私たちの胸中に溜まっていく。

 兄のマイスがどのような経緯で暴走者に至ったのかもまだ解明されていないため、一方的に責めることだってできない。

 そんな、実に心残りのある終わり方で、星華祭の幕は閉じることとなったのだった。

 ただ……


 私の戦いは、まだ終わっていなかった。

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