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幸運値999の私、【即死魔法】が絶対に成功するので世界最強です  作者: 万野みずき
第三章

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第六十一話 「期待と嫉妬」


 超人疾走(スピリットスプリント)が終わった後のこと。

 私はグラウンド競技場の二階応援席にいる一年A組のところに戻って来ていた。

 そしてたった今行われている競技――『魔球入魂(モンスターバッグ)』の応援をしている最中である。

 まあ、クラスのみんなとは少し離れたところから、だけど。


魔球入魂(モンスターバッグ)もいよいよ大詰め! 残り時間たったの三分で、順位をひっくり返すクラスが果たして出てくるのでありましょうか!』


 魔球入魂(モンスターバッグ)

 超人疾走(スピリットスプリント)と同様、なんだか仰々しい名前の競技だが、これも言ってしまえばただの“玉入れ”である。

 指定の玉をカゴに入れていき、最終的に多くの玉を入れたクラスが勝利となるシンプルなルールだ。

 ただ……


『おおっと! 一年C組の生徒たち! 羽瞳(ピューピル)を上手く捕まえることができません! 逆転は少々苦しいか……!』


 カゴに入れる玉は、ただの玉ではなく、『羽瞳(ピューピル)』という名の"仮想魔獣”だ。

 本物の魔獣ではなく、魔獣を似せて作った魔道具の一種である。

 目ん玉にコウモリの羽が生えたような見た目をしており、内蔵された魔力炉を使って高速飛行をする。

 攻撃性はなく、魔術師の魔素に反応して逃走行動を取るように仕込まれている。

 かなり小型ゆえに少ない魔力で長時間の飛行と超速移動を可能にしていて、一般人では到底捕らえることのできない代物のようだ。

 と、魔道具研究が大好きなピタージャ先輩から、以前に教えてもらったことがある。

 私たち魔術師でも、一匹を捕まえるのはなかなかに至難で、状況を的確に判断して魔法を駆使しなければ捕らえることはできない。

 ちなみに壊してしまった羽瞳(ピューピル)は、カゴに入れても得点には加算されないため、“捕縛”が前提となっていてその分難易度が高くなっている。


『多くのクラスが苦戦する中、なんと一年A組が100得点を超えましたぁ! 過去最高得点が98点のため、この時点で歴代記録更新となります!』


 そんな放送が流れて、観客席は盛大な歓声に包まれた。

 その声に耳を打たれながら、私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「……こっちはとんでもない盛り上がりだなぁ」


 先ほど訓練場にて行われた超人疾走(スピリットスプリント)とは大違いの反応である。

 誠に羨ましい限りだ。

 しかも今回の一年A組の競技参加者の中には、なんとミルも含まれている。

 広範囲の氷結魔法で羽瞳(ピューピル)の動きを止めて、一気に何匹も捕縛して得点を稼いでいる。

 代表者のマロンさんもいるので、二人の大活躍によって一年A組は一位を独走していた。

 ……ミルめ、私よりも目立ちやがってぇ。

 と、内心でぐぬぬと歯を食いしばっていると、クラスの人たちの応援の声がふと耳に入った。


「頑張れマロンー!」


「バルダーヌとペルシも負けんじゃねえぞぉ!」


「……」


 ……ミルも応援してあげてよ。

 まるで三人しか出場していないみたいな応援だけれど、参加者はマロンさん、バルダーヌさん、ペルシさん、そしてミルの四人である。

 みんなから疎まれる平民であり、特待生という立場から、見事に応援から省かれているな。

 可哀想だからやめてあげて。


「……頑張れミルぅ」


 ささやかながら私がミルに声援を送ってあげる。

 それが幸いしたのか、最後はミルが三連続得点を決めて競技は終了となった。

 結果、一位は一年A組。

 総合得点112点で、二位とは20点差を広げるという快勝である。

 これでまた多くのクラス得点を稼ぐことができて、さらに星華祭優勝に近づくことができた。

 その後、次の競技が始まるまで僅かに時間が空く。

 クラスの人たちが各々談笑を始める中、私はミルが戻って来るまで一人でポツンと待つことにした。

 階段状になっている観客席の一番後ろに座っていると……


「やっほ」


「あっ、ポワールさん」


 不意に隣の方から、クラスメイトのポワールさんが来て、声を掛けてくれた。

 相変わらず眠そうな様子である。

 彼女の方から声を掛けてくれるのは珍しいので、私は思わず首を傾げてしまった。

 するとポワールさんは隣の席に腰掛けながら、欠伸混じりに告げてくる。


「一位、おめでと」


「んっ? あぁ、超人疾走(スピリットスプリント)のことか。うん、ありがとう」


 どうやら先ほどの競技の結果を誰かから聞いたらしい。

 一位を取ったことを称賛しに来てくれたみたいで、私は微笑みながら返す。


「ポワールさんも競技お疲れ様。そういえばポワールさんも大活躍だったみたいだね」


「ん、まあ……」


 ポワールさんはなんでもないように反応するけれど、実際ものすごい成果を上げたと聞いている。

 私が訓練場で障害物競走に興じている時、グラウンド競技場では別の競技が行われていた。

 そこでポワールさんは、一年A組を首位にまで引っ張り上げる素晴らしい活躍をしたと聞いている。

 観客たちの注目も凄かったらしく、今も周囲のあちこちからチラホラとした視線を感じるほどだ。

 さすがは代表者推薦にて、二番目の支持率を叩き出した人物である。

 しかしポワールさん本人はその人目を“嫌がる”ようにして、私の隣であえて小さくなっている。

 もしかして……


「……ポワールさん、他の人から話しかけられたくないから、私のところに逃げて来たとか?」


「……サチと話すのは、あんまり疲れない。でも他の人と話すと、ちょっと疲れるから」


 ポワールさんは声を先細りにしながら、ますます小動物のように身を縮こまらせてしまった。

 先ほどの活躍で注目を浴びすぎてしまって、見知らぬ人からの干渉が増えてしまったのだろう。

 ポワールさん的にそれは疲れるから、気楽に話せる私のところに逃げて来たってわけね。

 私との話はあんまり疲れないかぁ。それはなんだか嬉しい言葉ではあるけれど……


「贅沢な悩みだねぇ……」


「んっ、何が?」


「あっ、いや、ポワールさんは他の人から注目されるのが、そんなに好きじゃないんだなって思ってさ。ほらっ、みんなはこの機会に自分の実力を示して目立とうとしてるでしょ。ポワールさんにはそういう願望みたいなものがないの?」


 私は早くマルベリーさんを咎人の森から解放してあげたいから、業界で有名になりたいんだけど。


「私は別に、有名になれなくてもいい。星華祭は、程々に頑張って、終わった後にぐっすり眠るのが、今は一番の楽しみ」


「なんか、ポワールさんらしいね……。そもそもポワールさんは、どうして魔術学園に入ろうと思ったの?」


 いつも無気力で居眠りしている印象しかないポワールさん。

 これといって特別、国家魔術師になりたいという気概も感じない。

 魔術師として有名になりたいわけでもないのに、なぜこの魔術学園にやって来たのだろうか?

 するとまたしても、ポワールさんらしい回答が返ってきた。


「国家魔術師になれば、楽して生きていけるから」


「楽?」


「頑張って労働しなくても、研究費とかでお金が入ってくるんだって。それならずっと眠ってても、怒られたりしないでしょ?」


「……研究費は研究するためにもらうものだと思うけど」


 いや、まあ、言わんとしていることはわかるけどね。

 ようは不労所得で楽に生活するために、国家魔術師になりたいということか。

 そうすればポワールさんの大好きなお昼寝を、四六時中することができるからね。

 でも、国家魔術師は国家直属の兵士と変わりはないので、色々と面倒ごとを持ちかけられることが多いと思うよ。

 そんな夢を壊してしまうような野暮は、一応言わないでおいた。


「まあ、ポワールさんが目指してるものはなんとなくわかったよ。確かにそれなら目立ちたくはないか」


「目立つのは、いいことだけじゃないよ。目立ちすぎると、色んな人と話さなきゃいけなくなる。眠れる時間、少なくなっちゃうよ?」


「まあ、ポワールさんからしたら、それは大問題かもね」


 勉学より睡眠。食事より睡眠。遊びより睡眠。

 それを日頃から心がけている彼女にとって、睡眠時間を削られることは拷問にも等しいだろう。

 だから今こうして自分と話してくれていることが、なんだかより嬉しく感じられる。

 密かにそんなことを思っていると、ポワールさんは心なしか遠くの方を見つめて、小さくこぼした。


「あと、期待や嫉妬も、たくさん向けられることになる」


「期待や、嫉妬……?」


「たくさんの人に見られるってことは、それだけたくさんの人に色んな気持ちを向けられることになる。それはちょっと疲れるし、苦しいと思うから」


「……」


 だから、目立ちすぎるのはあまりよくないと。

 ポワールさんはそう言いたげに、寝ぼけ眼でこちらを見てきた。

 まあ、それも言わんとしていることはわかる気がする。

 すでに大勢から注目を集めているポワールさんだからこそ、説得力もひとしお感じられた。


「目立ちすぎるのはよくない、か。そうだね、心に留めておくことにするよ」


「……うん、それがいい」


「たださぁ、やっぱり誰にも見られてないっていうのが、結局は一番悲しいことだよね。期待や嫉妬なんかより、無関心が何よりも残酷なことだと思うよ……」


「……明日も、明後日も、競技はある。サチの実力なら、いつかみんなの目に留まると思うから、頑張って」


「だといいんだけどねぇ……」


 そんな他愛のないやり取りをしながら、私たちは次の競技が始まるまでの時間を過ごしたのだった。

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